“異形のスカウト集団”メンバーには「早慶MARCH」の大学生も…“自前のアプリ”と“凄惨な暴力”で支配する最凶トクリュウ「ナチュラル」の実態
「スタートアップ企業」のような印象
性的なサービスを提供する店に女性を送り込み、その売り上げの一部を主な収益とするスカウト――。なかでも警察が組織の実態解明と壊滅に本腰を入れているのが、新宿・歌舞伎町を拠点に活動を始め、いまや国内最大規模といわれるトクリュウ型スカウト集団「ナチュラル」である。
警察庁は2023年7月に「SNSや求人サイトを通じるなどして緩やかに結び付いたメンバー同士が役割を細分化させ、メンバーを入れ替えながら多様な資金獲得活動を行う」集団を「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」と定義づけた。
名称が示す通り、その匿名性、流動性から、組織の把握やメンバーの特定が容易ではないという特徴を有する。そんなトクリュウ集団「ナチュラル」の現役メンバーらに接触し、知られざる組織の実態をつまびらかにした書籍が『捕食 欲望をカネに変えるトクリュウ型犯罪集団「ナチュラル」の闇』(講談社)。元NHK記者の清水將裕氏がメディアや官僚、政界、ITなどの出身者で構成される取材チーム「日本橋グループ*」の協力を得て上梓した。

トクリュウと聞くと、特殊詐欺から強盗殺人事件まで、その凶暴性に注目が集まった「ルフィ事件」が記憶に新しい。だが、同じくトクリュウとして捜査機関にマークされながらナチュラルという組織はかなり毛色が異なる。何しろ、ナチュラルのメンバーは自分たちの組織を“会社”と呼ぶのだ。しかも、メンバーには早慶やMARCH、関関同立といった名門大学の学生も多く、なかにはある大学のサークルのメンバーがこぞって加入しているケースもある。様々な企業でコミュニケーションツールとして用いられる「Teams」も顔負けの“自前アプリ”で厳格な勤怠管理がなされる。幹部も部下に運営を丸投げするわけでなく、寝る間を惜しんで働く。「手掛けているのが違法な仕事でなければ、注目のスタートアップ企業のような集団です」と著者の清水氏は言う。【高橋ユキ/ノンフィクションライター】
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『捕食』を紐解いてまず驚かされるのが、ナチュラル関係者が使っているという「闇アプリ」の存在だ。一見、ビジネスアプリのようなデザインのアイコンをタップすると、まず目に飛び込んでくるのは記事や広告が流れているだけのニュースアプリのような画面。しかし、画面をさらにタップすると暗証番号の入力画面へと遷移し、正しい番号を入力することでようやく「闇アプリ」の使用が可能になるのだという。
「たどり着くまでに何段階もの障壁があるアプリの中では、夥しい数のチャットがリアルタイムで更新され、メンバー同士が活発にやり取りを交わしています。アプリ内には掲示板もあり、マニュアルも閲覧できる。電話会議や資料共有、出退勤の管理もできるなど、一般的なビジネスツールと同じような機能を持っています。また、アプリを開くメンバーの階層によって閲覧可能な画面が異なっているのも特徴です」(清水氏、以下「」内同)
このアプリを作成したのはナチュラルの“エンジニア”だといわれる。「解析の結果、エストニアの既製品を基に作ったものであることが分かっています」というそのアプリでは、上位者との間で位置情報が共有され、スクリーンショットを撮ることも把握される設計になっている。加えて、通常のビジネスツールと一線を画すのは“証拠隠滅”のための機能が搭載されていることだろう。メンバーが逮捕されると、ナチュラル側から遠隔操作でアプリを消去することができ、これが捜査機関による解析の障壁となっているそうだ。
徹底した“現金主義”
アプリでスカウトを管理する一方で、ナチュラルは徹底した“現金主義”を貫いている。
「実際にスカウト業務に携わるプレイヤーへの“給与”の支払いは現金で行われます。直属の上位者からの手渡しですが、給料日も数日前に通達され、渡す場所も常に同じというわけではありません。幹部も収益を現金のほか金など現物で管理しているようです」
こうした実態により、捜査機関も“カネの動き”を把握しづらい状態にあるという。
一方、ナチュラルの“本業”はあくまでもスカウトだ。女性を店に紹介することによってスカウトバックを得るほか、女性がその店で働き続ける限り、スカウト集団に報酬が分配される。
「女性の報酬の約15%がナチュラルの組織に入り、そこから“給料”という形でプレイヤーに現金が配られ、その一部が組織に上納される。マルチ商法のように新たなメンバーを組織に入れると、勧誘した者に“上がり”が入るシステムもあるので、スカウト活動をせずに報酬を得ている幹部も存在します。プレイヤーとしてスカウトを始めた翌月から数十万円を稼ぐ者もいますし、月給が100万円を超えるメンバーも珍しくない。最も稼ぐスカウトは月給1000万円を超えているそうです。犯罪収益なので当然ながら確定申告もしていません」
「トラブルを起こさないようにしましょう」
プレイヤーにとって高額の報酬が「アメ」だとすれば、「ムチ」は内部統制だ。組織の厳格なマニュアルはアプリからも閲覧できる。“新人”のトップ画面には次のような注意が表示されるのだという。
〈会社の方針として『謙虚』があります。トラブルを起こさないようにしましょう。店舗の方への連絡はしっかり返す事。案件の送りっぱなしは店舗に嫌われます。損してしまうので、自分の為にしっかり返信しましょう〉
〈社内礼儀〉として“ビジネスマナー”も説かれている。〈挨拶編〉〈食事編〉〈連絡編〉など各シーンによって、目上の人間に対する接し方や、仕事中の態度などが事細かに定められている。Suicaの使用を認めない、など禁止事項も多く、規定に違反すると主には“減給”と称した罰金が科される。しかし、中にはこんな規則も存在する。
「筋トレをすることで一部の罰金がチャラになるという、ちょっと滑稽な規則もあるんですよ。一説には、会長が筋トレ好きで、組織内に筋トレ文化が広がったといわれています。スカウト集団というのは基本的に男性のみの世界であり、また性質上、女性を紹介した店の利用も御法度ですから、筋トレのほか、皆で食事したり、サウナに行くなど人間関係も濃密です」
清水氏は現役メンバーにも接触し、取材を行っているが、彼らはおしなべて「むちゃくちゃ礼儀正しい」のだという。
「恐怖」と「金」
「不良集団という印象はなく、ビジネスマナーは完璧です。実際に会ったメンバーはコミュニケーション能力も高く、昼間の仕事でも十分にやっていけるタイプばかりでした。タバコを吸う前には“失礼します”って必ず言いますし、電話の受け答えもすごく丁寧。彼らは組織を“会社”と呼んでいて、“ナチュラル”という言葉を使わないんです。対外的にも対内的にも、本当に“会社”という意識なのかもしれません。少子化の影響もあって家庭や社会のなかでゆるく育てられてきた若者たちは、組織に入る際に、徹底的に指導され、しつけられていったのでしょう。今のご時世、一般企業で同じことをやればパワハラと言われるレベルですが、収入で釣りつつ、内部統制で締め付けることによってプレイヤーは抜けられなくなっている」
罰金と並ぶ「ムチ」が、恐怖心だ。ルールに背いたプレイヤーは時に暴力を振るわれる。その様子は撮影され、内部統制に“利用”される。
「喧嘩すらしたことがないようなプレイヤーが、凄惨な動画を見せられ、あるいは、実際に暴力行為を目の当たりにする。ナチュラルという組織は、恐怖心と金の両方で縛り付ける独特の管理方法になっています。ルールを守らないプレイヤーを“通報”することも奨励されていますね」
かといって、「闇バイト」を介した広域強盗のように、末端のメンバーだけが手足のように使われるわけではないことも、ナチュラルの特徴であると清水氏は言う。
「幹部だけでなく、“会長”もリモート会議に頻繁に出席して意見しているのだそうです。本来、上位者になると収益の取り分も増えますから、悠々自適に過ごしているのだろうと思っていましたが、ナチュラルに関しては全然違いました。幹部でも組織を守るためにどんどん口出しをする。隙がない上に、常に成長を求めている。だからこそ警察も実態を把握できないし、ここまで規模が拡大していったのではないでしょうか。そういう意味では従来の反社とも異なります。時代の感覚にきわめて敏感で、短期間で多く稼ぎたいという若者を取り込み、急成長したのがナチュラルです」
そのナチュラルに関しては今年に入っていくつかの動きが見られる。組織に捜査情報を漏洩していた警察官の刑事裁判が始まり、“会長”とされる男が逮捕された。内部に影響は生じているのか。
警察の厳しい捜査にも“徹底抗戦”の態度を崩さないという「ナチュラル」。その最新事情について、後編【「ナチュラル」会長逮捕でも「メンバーには給料が支払われ、組織は平常運転」…マル暴刑事まで懐柔する「凶悪スカウト集団」を重罪に問えない事情とは】で報じている。
高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。
デイリー新潮編集部
