【ルポ投資詐欺・前編】「投資ニ興味アリマスカ?」シンガポール人かけ子たちとの3日間の“闘い”
【1日目】「1ヵ月で倍になります」
ある日、海外からかかってきた1本の怪しい電話。それは3日間にわたる“闘い”の始まりだった──。筆者が投資詐欺の手口を探るべく、外国人かけ子たちとやり取りを続けた記録の【前編】をお届けする。
突然スマートフォンへの着信があった。画面に表示された「+65」から始まる番号は、シンガポールからの国際電話だが、海外から電話が来るような覚えはない。だが、職業柄さまざまな相手と連絡先を交換しているため、「面白い話がある」と誰かしらが連絡をしてきた可能性があるため出てみた。
「私はマツダ・レイカと言います。○○さんは投資に興味はありませんか」(以下「」内マツダ・レイカ)
電話に出ると開口一番、流暢な日本語で名前を呼ばれ、投資を勧められた。達者な日本語で、多少片言だが問題なく聞き取ることができる。
これは投資詐欺の電話ではないだろうか。投資をすることで莫大なリターンが得られるという虚偽情報で金銭をだまし取る典型的な手口。悪質な不動産投資の勧誘電話は幾度かあるが、ここまで露骨に怪しいものは初めてだ。
警視庁組織犯罪対策課によると、’25年の特殊詐欺の認知件数は2万7758件、被害総額は約1414億円に上る。そのうち金融商品詐欺は200件認知され約21億円の被害となっており、前年よりも122件の増加。被害額は15億円増となっている。
マツダ・レイカに勧められたのは、彼女が勤めている企業が扱う各種金融商品だ。「為替・クリプト(仮想通貨)・不動産・株式」を扱っていて、どの商品に投資をしても“必ず”利益が出るとのこと。さらに元本保証までしてくれるという。至れり尽くせりだが、少しでも金融商品について知っていれば、「あり得ない」話ばかりだ。
「弊社が案内しているパッケージは300ドル、500ドル、1000ドルのプランです。投資できる金額によってリターンは変わりますが損はしません。人によっては1ヵ月で倍になります」
声色から推定年齢40代と思わしきマツダ・レイカ曰く、投資先を選びパッケージに合わせた金額を振り込むと、すぐに資産運用が始まるとのことだ。片言の日本語を話す日本人名の外国人が、あり得ない金融商品を紹介しているというのは、詐欺にしてはかなりお粗末だ。
しかし、頭ではわかっていても、絶対に利益が出るのだとしたら興味がある。全財産を預けてもいい。気になったので、いろいろ探ることにした。手始めに彼女の会社について聞いてみる。
「わかりました。メールを送らせていただきます」
メールアドレスを教えた覚えなどないのに、すぐに「Ami Tanaka(アミ・タナカ)」という人物からメールが届いた。マツダ・レイカからではない。メールには〈話し合いの際にご了承いただいた通り、初めての投資のための紹介入金リンクを添付いたしました。以下のリンクをクリックしてください〉という一文と振り込み先のURLが書かれていた。何かを了承したおぼえはないし、会社名も書かれていない。いきなり入金手続き用のリンクを送ってくることや、Gmailで作られたメールアドレス、不器用な日本語……。すべてが杜撰すぎる。
最初から最後まで怪しいことばかり
ただ、名前と電話番号、メールアドレスまで知られていることを考えると、相手は自分の個人情報を完全に把握している可能性がある。個人情報を売買している業者から名簿リストを購入したのかもしれないが、これについては知る術はない。
このままマツダ・レイカとツッコミどころ満載の通話を続けたい気持ちはあったのだが、この日は別件で予定があった。中断の申し出にはすんなりと「大丈夫です。後日お願いします」と言い、「LINEのリンクを送るので、こちらからの連絡も可能です」と続けた。
すると、アミ・タナカからまたメールが送られてきた。添付されているリンクを開き、LINEで登録をすると「Manager Sales」という相手からスタンプが送られ、後日対応する約束をしてマツダ・レイカとの通話は終わった。
LINEで企業名を聞くと「BONMOT INVEST」なるフランス語のような投資プラットフォームのリンクが送られた。アクセスしたホームページは一見よくできているように見えたが、怪しい点がいくつかあった。
まずトップレベルドメインが「.pro」というあまり見ないドメインとなっている点だ。このドメインは、医者や弁護士といった専門職が使うために用意された「professional」から取られたドメインだ。一般人でも使用可能だが、「.com」や「.jp」と比べて違和感がある。恐らくは「投資のプロ集団」であることを表現するために取得されたのだろう。
さらにBONMOT社のHPで所在地を見ると、ロンドンと、ルクセンブルクに住所があるようだが、なぜシンガポールから電話をしてくるのだろうか。Googleマップで上記の住所を検索すると、ビルがあることは確認できるが、BONMOTが入居しているか不明のままだった。また、金融庁が公表している免許・許可・登録を受けている事業者の中にもこの企業については一切書かれていない。
日本よりもハイレバレッジで取引ができる海外FXなどを用いてのトレードは、金融庁の登録を受けていない企業のものでも、利用することはできる。注目すべきは海外の金融ライセンス登録がされているかどうかだが、登録を受けている国、ライセンス情報などの記載はない。
最初から最後まで怪しいことしかない。これだけ不可解であれば詐欺だと断定しても問題ないだろう。
【2日目】4万6000円が1000万円に!?
翌日14時、またシンガポールからの国際電話がかかってきた。
「もしもし、投資に興味ありますか」
昨日と同じ声の女性、マツダ・レイカだ。丁寧に昨日と同じ投資の勧誘の文言から始まった。電話対応のマニュアルでもあるのだろう。こちらとしては投資詐欺だとわかった以上、取材のためにできるだけ相手から話を引き出したい。まずは投資の内容について聞くことにした。
「投資は、株式・為替・不動産・クリプトから選べます。入金してもらった口座から弊社の口座にお金を移動した後に、金融アナリストから電話が来ます。アナリストが最適な情報を基にして運用することでお金が増えます」
今までの例ではどれくらい増やせたのだろうか。
「たくさん増えました。300ドルの入金から1000万円増えた人もいます。ところで資産のほうはおいくらでしょうか。いくら入金できますか。入金手続きはわかりますか」
300ドル(1ドル154円換算)は現在の日本円で約4万6000円だ。急に通貨単位がドルから円に変わった理由も不可解だが、4万6000円を1000万円にできるような凄腕の金融アナリストがいることにも驚きだ。
雑談を交えながら会話を続けるが、マツダ・レイカは二言目には入金手続きを急かしてくる。そんなに忙しい人なのだろうか。もう少し踏み込んで聞き出すことにした。
入金を急かすマツダ・レイカ
「最短で1週間、8%くらい増えます。出金はいつでも大丈夫です。アナリストは投資をしていただいた人限定のサービスになるため、すぐには連絡できません。ですが、AIアナリストも用意しているため、お仕事中でもAIが自動でお金を増やしてくれます」
お金を振り込まないとアナリストと話せないのは残念だ。そしてまた新しい単語の登場。「AIアナリスト」が自動でお金を増やしてくれるそうだが、アナリストはあくまでも投資の情報を分析することが仕事ではないのだろうか。この場合は自動売買を意味している気もするが、マツダ・レイカには区別がついていないのかもしれない。試しに少しだけ専門的な用語を使ってみることにした。すると明らかに反応が悪い。
「『サイケン』?……『キンリ』ですか?……。さまざまな商品を扱っているので、最適なものが見つかるかと思います。貴方はとても詳しいので、きっといいものが見つかるかと思いますよ。そこから弊社が運用手数料を少しいただきますが、たくさん利益が出るので問題ないです」
マツダ・レイカにはよくわからなかったようだ。しどろもどろになりながら脱線した話を無理やり戻してきた。手数料に関しては発生した利益から5%を徴収するらしい。100ドル儲かれば、5ドルが手数料になる計算だ。
1時間ほど電話をしていると、マツダ・レイカも焦っているのか入金手続きを進めたがり、「入金方法ですが……」「クレジットカードはありますか?」と、何を聞いても言葉を遮るようになってしまった。シンガポールから日本への国際電話料金は知らないが、これだけの長電話だと、それなりの料金が請求されるため、相手からすると既に大幅な損失だろう。
そろそろ外出しなければならないため、今日もこのあたりで終了だ。すると、マツダ・レイカは焦ったのか、早口で入金を迫ってきた。何を言われてももう時間がないと言い張ると、100ドルのボーナスをくれるという魅力的な提案をしてきたが、この日は本当にもう時間がなかった。後日、連絡をしてもらうことを約束したのだった。
【後編】では、マツダ・レイカの上司が登場。詐欺ではないのかを直撃すると、彼は意外な事実を語り始める……。
【後編】「仕事がなかった…」観念したシンガポール人かけ子が最後に語った“身の上”(https://friday.kodansha.co.jp/article/459376)
取材・文:白紙緑
