片道1時間の通勤を33年続けると1.88年。牧野知弘「これから<通勤して働く>という常識が変わっていく。なので人生の第4コーナーに差し掛かったら…」
首都圏を中心に、新築マンションや中古マンションの平均価格の値上がりが続いています。管理費や修繕積立金も上がる危険がある中で、どのように「終の棲家」を見つけたら良いのでしょうか。今回は、不動産プロデュース業を展開するオラガ総研代表取締役・牧野知弘さんの著書『50歳からの不動産-不動産屋と銀行に煽られないために』をもとに、人生第2ステージを企画立案するうえでの<新しい家に対する考え方>について、牧野さんに解説をしていただきました。
【書影】不動産評論家が伝授する、人生100年時代の不動産の選び方。牧野知弘『50歳からの不動産-不動産屋と銀行に煽られないために』
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現代の働き方は戦後から主流になった
本記事を読まれている方の多くがサラリーパーソンだと思います。私も都合20年ほど会社勤めをしていました。現代の働き手の多くは会社という組織に雇われ、会社の指示に従って仕事をする存在です。
あたりまえのように感じるかもしれませんが、こうした事務的な仕事を会社との雇用関係で行う働き方は、特に戦後から主流となったものです。
人類の歴史を振り返ると、縄文時代の働き手は狩猟する人です。一日中野原を駆けずり回って獲物をとってくるのが仕事。弥生時代は田や畑で農作物を育て収穫することが仕事。やがて貨幣経済が発達すると物品を売買することが仕事。産業革命期になると工場でモノを作ることが仕事。時代とともに主流となる働き方は変遷してきました。
現代のような事務的な作業を例えば朝9時から夕方5時までこなして給料をいただくという働き方は明治以降、特に戦後に主流となった働き方なのです。
通勤に費やしてきた時間
みなさんが通勤に使っている時間はどのくらいあるでしょうか。片道1時間かけて通勤していると仮定しましょう。大学を22歳で卒業して会社勤めをして55歳になった方を例に考えます。
年間の就業日数を250日とします。土日や祝日、年末年始や有給休暇を差し引くと私たちはおおむねこのくらいの日数を働いている計算となります。通勤時間は往復で2時間とします。つまり年間で500時間を通勤に費やしていることになります。
この行為を33年間継続してきたとすると費やした時間は1万6500時間。日数にして687.5日、1.88年分となります。一日の就業時間を8時間とすれば実働日数として2062.5日、5.65年を電車の中や通勤するための徒歩時間に費やしてきたことになります。
失った時間を取り戻すことはできませんが、ずいぶん非生産的な時間をすごしてきたものと感じますよね。これだけの時間があれば、もっと勉強して違った能力を身につけることができたかもしれませんし、そもそも今とは全く違う人生を歩むことができたかもしれません。
いつまで通勤するのでしょうか
では、55歳のあなたは今後いつまで通勤をすることになるのでしょうか。仮に65歳で定年を迎えるとして10年。時間にしてあと5000時間を通勤という行為だけに使うことになります。通勤環境は以前よりも改善されたとはいえ、相変わらず電車は混雑します。すし詰めの車内で多くの人はスマホとにらめっこです。
新聞や雑誌と違ってスマホは小さな画面の中で効率的に情報に接することができる大変便利なツールです。でも日々の忙しさからこれまではスマホを新聞代わりにしてニュースサイトを読む、メールやLINE をチェックする、オンラインゲームをする、NetflixやAmazon Primeで映画や音楽を楽しむなどがおもな通勤電車での過ごし方になっているはずです。

(写真提供:Photo AC)
いっぽうでコロナ禍以降、大企業を中心に勤務時間はかなり自由になりました。リアルとリモートを組み合わせたハイブリッド型の勤務形態も一部の業種や職種で着実に根付き始めています。
55歳からの勤務形態は人によってさまざまでしょうが、若い時に比べかなり柔軟になっているはずです。また55歳からの自分は、会社のために通勤電車内でも仕事のための勉強をしたり、昇進試験の準備をすることも少なくなっているはずです。少し考え方を変えてみましょうか。
出社頻度を減らしてリモートワークを併用することによって残り5000時間の通勤に使うはずの時間を有効利用することができます。出社時間にゆとりのある勤務形態にできれば、各駅停車で座って通勤も可能になるかもしれません。仕事とは関係のない分野の書籍や情報ツールに目を通すゆとりが生まれます。
人生の第4コーナーに差し掛かった私たち
会社における昇進の階段を今後も登り続ける人は別ですが、定年後の自らの人生の青写真は、定年になったそのときに考え出すのでは遅く、今から通勤時間を削る、通勤時間を換えることによって戦略策定の時間を確保することです。今更ながら会社に滅私奉公をしても得られる果実が少ないことはもうわかっているはずです。
これからの世の中では、会社に通勤して働くという常識がどんどん変わっていきます。長年通勤をして働くことが身についてきた人にとっては「そんなはずはない」と思うかもしれませんが、事務系の仕事がAIをはじめとした新しいツールに代替されていくことは自明なのです。
人生の第4コーナーに差し掛かった私たちは、これからの10年と、定年後に長く横たわる時間を見据えて変化への対応準備をすすめていくことです。通勤なんてなるべくしないほうが良いに決まっているのですから。
※本稿は、『50歳からの不動産-不動産屋と銀行に煽られないために』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
