「うちのルンバ大丈夫?」への答えが見えた。再建の裏側、現役ユーザーの疑問を新社長に聞いてきました
ルンバに、何が起きていたのか。そして何が起こるのか。
ロボット掃除機の代名詞とも言える「ルンバ」。そのメーカーであるiRobot(アイロボット)が、中国系メーカーPICEA(パイシア)の傘下に入った。
このニュース、ルンバを使っている人なら、少なからず心がザワっとしたはずです。
・ある日突然、アプリが使えなくなったりしない?
・修理とかサポート、ちゃんと続く?
・それより何より、プライバシー的なデータはどう扱われるんだ…
など、きっとみなさん(僕も)疑問がいっぱい。
今回は、こうしたユーザーがモヤっとしているところを中心に、アイロボット・ジャパンの新社長・山田 毅(やまだ たけし)氏に話を聞いてきました。
結論から言うと、僕らが抱く「買収」のネガティブなイメージとはちょっと違う状況で、漠然としていた疑問も、かなりクリアになったという印象。
しかも、話を聞けば聞くほど、ルンバの未来は前向きでした。
そもそも、なぜアイロボットは再建することになったのか
まず整理しておきたいのが、「アイロボットって、何か大きな失敗をやらかしたの?」という点です。
山田社長の口から語られた「その時起こっていたこと」は、大きく分けて3つ。
ひとつは、コロナ禍の巣ごもり需要の反動の影響。2020〜2022年にかけてロボット掃除機は世界的に売れに売れました。でも、そのぶん需要を先に食べきってしまったので、2023年以降に市場が落ち込んだのは、ある意味自然な流れだったとのこと。
ふたつ目が、Amazonとの買収交渉にまつわる足踏み。やはりコレがでかいですね…。
経営立て直しのための交渉が約2年続いた結果、公正取引委員会の指示で、iRoboto側の研究開発がほぼ止まってしまったとのこと。さらにこの話自体も、EU規制当局(欧州委員会など)の審査が長期化し、最終的にこの買収話自体が成立しなかった、という経緯もあります。
山田:「ロボット掃除機という競争が激しい分野で、2年間も新しい開発が止まるのはかなり厳しかったです」
ガジェット好きなら、この「2年」がどれだけ長いか、ピンとくると思います。
スマホならSoCが2世代進むし、トレンドも変わるくらいの期間。その間も他社はどんどん開発を進めているわけで、そりゃあ戦えない…。
そして3つ目が、インフレと関税の問題。米国向け製品をベトナムで生産していたアイロボットは、トランプ政権下で最大40%ちかい関税を課されることになり、作れば作るほど利益が出にくい構造になってしまったとのこと。
需要の反動、開発ストップ、採算悪化。この3つが同時に殴りかかってきたというのが、今回の再建までに起こっていたことってわけですね。
なぜ中国の「パイシア」と組んだのか?
ここで多くの人が引っかかるのが、「なぜ手を組んだ相手が中国系メーカーなの?」という点だと思います。
この理由についての説明が、個人的にはかなり腑に落ちました。
そもそもアイロボットは、工場を持たないファブレス企業。ブランドやマーケティング、製品体験の作り込みといった強みがある一方で、製造はずっと外部に委託してきました。
対するパイシアは、世界最大級のロボット掃除機のOEM(製造委託)/ODM(企画・製造委託)メーカー。研究開発力と生産能力はトップクラス。でも、「これがパイシアのロボット掃除機です!」みたいな自前のグローバルブランドや販路がないという状況です。
山田:「ルンバの製造も数年前からパイシアが担当していたという経緯もあり、お互いが持っていないものを、ちょうど補い合える関係だったんです。もし仮に、日本の大手家電メーカーと組んでいたら、販売も開発も役割が被ってしまって、大きな整理は避けられなかったはずです」
ここはかなり重要なポイントだと思います。
「買収」「傘下になる」と聴くと一方的な戦略的買収によるネガティブな未来を想像しがち。僕も正直そんなイメージを思い描いてしまうんですが、今回は「双方の足りないピースを足す」という利害が一致した再建であるとも捉えることができるんですね。
今使っているルンバは大丈夫なのかってところ
「で、今うちにあるルンバ、どうなるんですか?」
そう、肝心なのはここ! 僕自身、古来よりのルンバユーザーであり、生活に手放せない家族の一員となっているレベルなので、ストレートに疑問をぶっ込んでみました。
山田:「全く心配いただかなくて大丈夫です。急に使えなくなったり、アップデートが止まることもありません。サポートや修理体制もこれまで通りですし、日本独自のサブスクでの販売方法も継続されます」
同じくストレートに回答がピシャリ。
事業再建でユーザーにとって最悪の不利益は、再建に失敗して完全に潰れてしまうこと。そうなると、すべてのサービスが打ち切られてしまいます。むしろ今回の再建で「資金が尽きてサービス自体が止まる」というユーザーにとっても最悪のシナリオはすでに回避済み。
パイシアとしてもせっかく手に入れた「ルンバ」というブランドを手放す理由は無いと見ていいでしょう。ひとまず、既存ユーザーにとっては、買収先を探して動きが止まっていたこの2〜3年よりも、遥かに安心できるフェーズになったといえるのかもしれません。
でも、僕らのデータって正直どうなってます?
「ルンバのデータの匿名性は保たれるの?」
一番モヤっとするのはここだと思います。
家の間取りをスキャンするロボットが、中国系企業の傘下に入る。ですから、やはり不安視する声も多いと思うんですよね。こちらもストレートに聞いてみたのですが、アイロボットはかなり踏み込んだ対策を取っていました。
山田:「まず、マップデータはクラウドに上がる時点で完全に匿名化されます。住所や名前と結びつく情報は、最初から切り離される仕組みです。次に、データの保存場所。日本・アメリカ・ヨーロッパのユーザーデータは、日本かアメリカのサーバー(AWS)にのみ保存され、それ以外には物理的に置かれません」
山田:「さらに、アメリカに『iRobot Safe(アイロボット・セーフ)』という、世界中の消費者データや接続デバイスを保護するための独立した子会社を設立しました。傘下ではありますが、米国の単独の会社なので、中国側のパートナーだけでなく、アイロボット社員ですら、このデータにはアクセスできません」
と、外部だけでなく、自社の社員も地域によって遮断する、かなりガッチガチなデータ管理。
正直、ここまでやるのはかなり珍しい対応ですね。なんというか、「そこ、絶対に不安になるよね」という前提で設計されている印象を受けました。
山田:「けっこう稀な対応だと思いますけど、そこまでしても、安心してアイロボットの製品を使っていただきたいというのが我々の思いになっております」
これからのルンバ、何が変わる?
これまでは「変わらないこと」を聞いてきましたが、「変わること」もあります。
製造・開発部門と、マーケティング部門がかなり近い距離になった今回の体制変更で、ロボットの開発スピードは加速しているとのこと。
山田:「これまで、フラッグシップモデルの更新は2〜3年に1回くらいのペースでしたが、それが今後は、1年に1回、場合によっては半年に1回というペースも視野に入ってくるほどに、製品開発が早くなっています」
日本市場の要望もダイレクトに届き、パイシア側のフットワークもとにかく速いとのことで、日本ユーザーの生活感の違いやトレンドを拾ったルンバの登場も期待できますね。
そこにアイロボットらしさは残るのか
開発スピードが上がる。トレンドにも積極的に乗る。
そう聞くと、「結局、スペック競争に巻き込まれるだけじゃない?」と思う人もいるかもしれません。この点について、アイロボットの考えはかなりはっきりしていました。
山田:「我々のアイロボットらしさは、お客様の生活を理解して、お客様に求められる、本当に役に立つものを出すところです。そこは絶対に変えません」
山田:「アイロボットジャパンとしては、日本人のお客様にさらに満足いただけるような製品も届けられるような体制に変わってくると思ってます。それも新しいアイロボットらしさになるんじゃないかなと、ワクワクしています」
ロボット掃除機の代名詞になるほど、普及への道を切り開いたアイロボット。
昔は秘伝のタレを煮込んで我が道を行く職人でしたが、今はそこにスピードと柔軟性と量産力が加わった状態になった感じ。秘伝を捨てたわけじゃなく、作り方をアップデートして届きやすくなった状態にあるとも受け取ることができるのでは?
ルンバは戦える体制を手に入れた
今回の話を聞いて思ったのは、「ルンバが終わった」わけじゃないということ。
経営再建や体制変更で不安はありましたが、サポートやサービスは継続され、データの扱いについても想像以上に厳重な仕組みが取られていました。そのうえで開発スピードが上がり、日本の声も反映されやすくなる…と、むしろ「ルンバが今後も戦える体制を手に入れた」と言ったほうが近いのかもしれません。
これならすでに使っている人も使い続けられますし(正直ユーザーとしてほっとしました)、今はいわば停滞から巻き返しを狙うエネルギッシュなフェーズ。今までなかったような野心的な機能や価格を武器に、全力で市場にぶっ込んでくる可能性もありますね。
そう、アイロボットにとって今回の再編は守りを兼ねた攻めの一手。
ルンバは今、最後尾からでも追い抜く気でエンジンを吹かしています。
Source: アイロボット・ジャパン

