仕事や勉強で結果を出すにはどうすればいいのか。『すぐに結果を出せる すごい集中力』(秀和システム)を書いた弁護士の荘司雅彦さんは「集中力を切らさずタスクをこなすことが重要だ。そのためにはカフェで仕事や勉強をしないほうがいい」という――。

※本稿は、荘司雅彦『すぐに結果を出せる すごい集中力』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JGalione

■集中するためには「環境」が何よりも大切だ

私たち人間は、同時に別のことをおこなうことができません。

試しに、東京タワーを頭に浮かべながら、明日の予定を思い浮かべてみてください。代わるがわるであれば、思い浮かべることはできますが、同時に思い浮かべることはできないはずです。

周囲を見回して青色のものを探し、目を閉じて緑色のものがどんなものだったか思い出してみましょう(自分の部屋だったら憶えているかもしれませんが)。

では、数百冊が並んだ図書館の書架の背表紙を眺めて「日本」という題名がついている本を探してみてください。

一通り終わったら、書架の中に「物理」という表題の本があったかどうか思い出してみましょう。もしかしたら『日本の物理』などの例外はあるかもしれませんが、ほとんどの場合でお手上げになるはずです。

■私たちの脳はマルチタスクができない

このように、私たちの脳は、別のタスクを同時に処理できないようにできています。

同時に処理できていると錯覚するのは、一つのタスクに取り組み、それを終えるか中途にして、別のタスクをやるということを繰り返しているだけなのです。

先の図書館の書架の例で考えれば、最初に眺めるときは「日本」という背表紙を探して、次にもう一度「物理」という背表紙を探すのと同じです。

現代社会のように、外部からの刺激が増え、脳内に入ってくる情報量が飛躍的に増加すると一つの情報に集中しようとしても、別の邪魔な情報が無数に入ってきてしまいます。

たとえば、本を読んでいるときにスマホの通知音が鳴れば、本に書かれている文字に対する意識が途切れます。通知音に反応してLINEの返信を書いていたら、あなたの意識は完全に本の文字から離れてしまうはずです。

■転がった重たい石を、わざわざ止めない

あなたがやらなければならない多くのタスクは、重い石を転がすようなものです。

最初に転がしはじめるときは、一生懸命に力を入れなければなりません。しかし、一度転がりだせば、さほど力を入れなくても、そのまま転がり続けてくれます。

多くのタスクも、これと同様です。着手するときが、もっともパワーを必要とします。たとえば本を読むときでも、イチから読みはじめるときのほうが、ある程度読み進めたものを読み続けるときより、精神的な負担が大きいはずです。

ですから、多くの小説家は、最初の数ページに読者の心をつかむ重要な出来事を入れているのです。

冒頭でつかみそこねると、その後を読んでもらえなくなり、読者から「つまらない本だった」と酷評されてしまうからです。

■スマホの通知音は集中の敵である

着手するときの次にパワーを要するのは、中断したタスクを再開するときです。

読書の途中に、スマホの通知音でLINEの着信が来たことを知り、返信してから本に戻ったとしましょう。読みはじめのときほどではないにしろ、活字を追っていた最中より、はるかにパワーが必要となります。

何にも邪魔されず一気に読めたときは、内容もしっかり理解できているし、所要時間も短時間で済みます(もちろん、分量が多い本を何時間もぶっ続けで読むと、疲労が蓄積されることは言うまでもありませんが……)。

中断も1回や2回だけなら、まだなんとかなるかもしれません。でも、中断が複数回にわたって続くようであれば、どんな人でも集中力を保つのは難しいはずです。

あなたがキャリアアップのためにおこなうタスクも、頻繁に邪魔が入ってしまうと、転がっている石をわざわざ止めては、また転がすようなことを繰り返すだけです。極めて非効率的なものになってしまいます。

短時間で効率的にタスクをこなすには、当該タスクの邪魔をする刺激をできる限り排除する必要があります。

■電話はどんなに集中していても掛かってくる

私は弁護士としてタスクに向き合っているあいだ、山のように積まれた仕事に集中するためにも、なるべく電話には出ないように意識していました。

あなたの仕事や業務内容にもよりますが、タスクに向き合うときは極力スマホの電源を切っておくべきです。

メールやLINEなら、まだ無視できるかもしれませんが、電話は長いこと鳴り続けるのでどうしても注意が削がれます。

一度でも電話に出てしまうと、絶対に電話の相手に注意が向きます。メールやLINEは自分のタイミングで返せますが、電話は不可能です。そして、人間はシングルタスクしかこなせません。

タスクに集中するためには、スマホから距離を置きましょう。仕事中は電源を落とすとか、勉強する部屋には持ち込まないとか、やり方はいくらでもあります。一定時間は開けられない「タイムロッキングコンテナ」にスマホを入れている人もいるそうです。

スマホは、本来は電話だったのです。電話が掛かってくるか否かは、あなたの意志力で解決できる問題ではありません。

また、普段それほど電話が掛かってこないという方でも、なぜか集中しているときに限って掛かってきた、という経験がある方は少なくないでしょう(笑)。

これも、電話の不思議なところです。タスク中は物理的に距離を置くこと。シンプルですが、これが解決策としてはいちばんなのです。

写真=iStock.com/kohei_hara
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■なぜ図書館や自習室で勉強するとはかどるのか

カフェと同じように「図書館や自習室で勉強するとはかどる」という言葉をよく耳にします。そして私も、これは正しいと思っています。カフェとは違って経験上、図書館や自習室に足を運ぶ人は、合格率も高いです。

なぜ、図書館や自習室に行くと勉強がはかどるのでしょうか? 理由は、主に二つあります。一つは、自室や自宅には、集中を妨げる誘惑アイテムがたくさんある点です。

いま、あなたが自室にいるとしたら周囲を見回してみてください。スマホはもちろんのこと、テレビがあったり、パソコンがあったり、マンガや雑誌が散らかっていたり、ワンルームマンションの方であれば台所に食材があったりするかもしれません。

こうなると「そういえば○○という番組、明日の夜9時からだったっけ? 今のうちに録画しておくか」とか「料理の下ごしらえをしておかなければ」などという気持ちがわいてきて、実際に行動に移してしまうかもしれませんね。

スマホともなれば、無意識的に手が伸びる人もいるのではないでしょうか? スマホはどうにか封印することができても、テレビやパソコンを勉強するたびに片づけるのは現実的ではありません。自宅や自室は、誘惑アイテムが多すぎるのです。

一方、このような誘惑アイテムにあふれた自宅・自室ではなく、それらがいっさいない図書館や自習室だと、持参した教材などと向き合うしかありません。自然と勉強がはかどるのです。

■通勤電車は適した場所である

じつはこの原理、通勤電車にも応用できます。

最近は、電車内でほとんどの人がスマホやタブレットをいじっていますが、そういう文明の利器がない時代には、文庫本や新聞を読んでいる人がたくさんいました(居眠りをしている人もたくさんいましたが)。

通勤電車の中では、やれることが限られています。やむを得ず本や新聞に目を通すしかなかったのです。

私は銀行員時代、横浜市港北区にあった銀行の独身寮から、渋谷まで東横線を利用していました。そのころは、朝に日経新聞を読み、夜の帰りは山崎豊子著の文庫本を読むのが日課になっていました。わずか1年少しの期間でしたが、当時刊行されていた山崎豊子さんの文庫本は、帰りの通勤電車の中ですべて読破しました。

おそらく、誘惑アイテムの多い独身寮の自室では読破できなかったでしょう。

このように、ほかのことができない環境は、集中するのに適した環境と言えます。「自宅では集中できない。図書館も自習室も近くにない」という方は、まずはいつもの通勤電車を書斎代わりにしてみてはいかがでしょうか。

新たな習慣をはじめるときは、日々のルーティーンに合わせてプラス方向の習慣を確立することがおススメです。普段テレワークの方であれば難しいですが、通勤している方なら通勤電車はルーティーンでしょうから、すんなりはじめられます。

どんなに満員電車でも、教材を工夫すればなんとかなります。実際に私も、横浜・渋谷間という満員電車の激戦区を乗り切っています。

山崎豊子さんの小説はおもしろかったので、娯楽と指摘されたらそうかもしれませんが、少なくとも日経新聞は違います。ゼロ円で試せることなので、仮にどうしても集中できないようなら、やめればいいだけの話です。

写真=iStock.com/ThaiBW
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ThaiBW

■まわりの人たちも集中している環境がいい

図書館や自習室で勉強するとはかどる二つめの理由は、心理学上の「社会的証明の原理」です。「社会的証明の原理」というのは、ざっくり言ってしまえば周囲の人たちの行動を真似るという人間心理です。

アメリカの研究者による、ある実験の報告をご紹介しましょう。

病院の待合室で待つように指示を受けた人たちは、とくに「衣服を脱いで待っていてください」という指示を受けていないにもかかわらず、先に待合室にいる人たちが下着姿になっていると、全員が衣服を脱いでしまったそうです。

荘司雅彦『すぐに結果を出せる すごい集中力』(秀和システム)

つまり「周囲の人たちと同じように、下着姿にならないと落ち着かない」という心理に至ったわけですね。アメリカ人は日本人よりもはるかに自意識が高い傾向にありますが、そんな彼らですら「まわりに合わせよう」とするのです。

この心理が、図書館や自習室でも働きます。図書館や自習室では、多くの人たちが勉強に取り組んでいます。周囲の人たちが真面目に勉強に取り組んでいると、自分も同じ行動を取らないとバツがわるい気持ちになるのでしょう。自分で自分に発破をかけなくても、周囲の人たちがあなたに発破をかけてくれるのです。

私自身、司法試験受験生だったころは、雨が降ろうが雪が降ろうが、必ず図書館に通うようにしていました。おかげで、精神的ストレスをさほど感じることなく、長時間の勉強を続けることができました。

■誘惑する遊び友だちとは距離を置く

以上のように、誘惑アイテムがなく、かつ周囲が集中している環境に身を置けば、精神力が弱くとも集中できます。留意すべきは「誘惑アイテムがない」と「周囲が集中している」のいずれかが欠けてもうまくいかないということです。

誘惑アイテムをバッグいっぱいに詰め込んで図書館に行っても気が散りますし、最悪なのは遊び友だちの誘惑です。こうなってしまうと、図書館や自習室は遊び仲間の集合場所になってしまいます。

切磋琢磨(せっさたくま)できる勉強仲間であれば問題ありませんが(私自身、司法試験の受験生時代には、よき「戦友」たちに恵まれました)、単なる遊び友だちであれば誘惑アイテムと一緒です。

こういう人たちとは距離を置きましょう。

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荘司 雅彦(しょうじ・まさひこ)
弁護士
1958年、三重県生まれ。81年、東京大学法学部卒業、旧日本長期信用銀行入行。85年、野村證券投資信託入社、86年9月、同退社。88年、司法試験合格。91年、弁護士登録。2008年、平均的弁護士の約10倍の案件を処理する傍ら、各種行政委員会委員等も歴任。元SBI大学院大学教授。現在、サイバー大学客員教授として「六法と法哲学」を担当。
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(弁護士 荘司 雅彦)