嵐・相葉雅紀

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《Stop using “Purin” for entertainment !》(“プリン”のエンターテイメント使用をやめよう)

【写真】ロープの上に2足で立つパンくんや志村けんさんとプリンちゃん

 ネット上で署名を集めることのできる海外サイトで、動物保護団体によるこのような投稿があったのは3月のこと。

批判集まる「動物のエンターテイメント」

『プリン』とは、熊本県阿蘇市の動物園『阿蘇カドリー・ドミニオン』で飼育されているメスのチンパンジーのことだ。同園では、プリンやその親『パン』を使った “チンパンジーショー”が行われている。

 また、彼らは“テレビ出演”も多く、志村けんさんがMCを務めていた番組『天才!志村どうぶつ園』及びその後継番組となる相葉雅紀がMCの『I Loveみんなのどうぶつ園』(ともに日本テレビ系)に出演している。

 この日本のチンパンジーのエンターテイメント使用に反対する署名活動に対しては、アメリカ、フランス、ブラジルなど世界各国から賛同が集まっている。

「ショーで芸をさせるなどの動物の“エンターテイメント使用”は、動物愛護の観点から批判が多く、世界的に縮小傾向です。しかし、『阿蘇カドリー・ドミニオン』ではチンパンジーショーが長年行われ続けています。

 番組に出演していたプリンちゃんの親であるパンくんは、'12年にショー終了後、園の女性研修員に飛びかかり、顔などにかみついて全治2週間のケガを負わせています」(動物ジャーナリスト)

 阿蘇カドリー・ドミニオンに対しては、この事故以前より専門家や団体から何度となく“警告”が行われてきたという。

「チンパンジーは5歳を過ぎたあたりから凶暴化し、海外ではペットのチンパンジーに顔を食いちぎられた飼い主がたびたび報じられています。事故を起こした当時、パンくんは10歳で、ショーに出演する“現役”でした。そういった年齢の事情もあったせいか、何度も専門家たちは園に警告しています。

 '05年に環境省が日本動物水族館協会を通じて、パンくんの飼育実態の調査を行い、'06年には類人猿研究者らのグループが“繁殖、保全の妨げになる”としてチンパンジーの番組での取り扱いを見直すように求める要望書を提出。さらに'08年には日本動物水族館協会が阿蘇カドリー・ドミニオンに対して、“ショー及び番組出演をやめなければ退会”という強硬な姿勢をとると、園は協会を自主退会したのです」(同・動物ジャーナリスト)

 警告を無視し続けた末に、起こった事故だった。

「阿蘇カドリー・ドミニオンに対しては、今回の署名の以前にも九州在住の高校生がエンターテイメント使用の中止を求める署名を数千件集め、園に提出しています。ただ、園長に渡したいと申し出たものの、“担当はいない”“園長には会えない”“来たときは入口の担当者に渡して”と、なかば門前払いのような対応をとられたそうです」(同・動物ジャーナリスト)

 今回の署名活動には海外メディアも反応を見せている。オランダの動物関連ニュースサイト『The Animal Reader』が、カナダの野生動物保護団体を取材。この団体は、日本の政府関係者に連絡を取り、「プリンをエンターテイメント番組で使用しないように要請した」という。

 記事ではプリンちゃんのことを“テレビ番組に登場する最後で唯一のチンパンジー”と称し、彼女が今でもショーに使われ続けていることを“馬鹿げた話”としている。

 動画で公開されている取材の模様を抜粋する。答えているのは『ZooCheck』というカナダの野生動物保護団体メンバーだ。

成長する機会奪い、収益化

《チンパンジーの赤ちゃんがエンターテイメントに利用されているという馬鹿げた話。プリンは服を着て、自転車に乗って、ドラムを叩いて、基本的には“ちょっと面白い子”という役柄を与えられています。

 観客のみんなは笑っていて、とても面白いと思っているのですが、プリンと彼女の両親に恐ろしいことが起きていたのを知りません。プリンは動物園で生まれ、生後4日目に母親から引き離されたのです》

《動物園側は、“プリンが約1500グラムという低体重で危険な状態にあったため、彼女を引き離した”と伝えていましたが、これはそれほど低体重ではありません。チンパンジーの赤ちゃんが生まれたときの体重は約1800グラムですから、赤ちゃんを母親に預けられないほど体重が少なすぎて危険だというようなことはありません》

《カドリー・ドミニオンにしても、世界中の施設や事業、ビジネスにしても、動物をエンターテインメントに使いたいときに、迅速に赤ちゃんを取り上げるということは便利なのです。なぜなら赤ちゃんの精神面、行動面が育つ前にトレーニングを行うことで、その動物を使ってお金を稼ぐことがはるかに容易になるからです。

 また、扱いやすくなるという理由だけでなく、赤ちゃんは“かわいい”のです。そのかわいさを利用し、魅力的なパフォーマンスの場を作り、収益源としている》

《プリンにとっては、赤ちゃんの時点で取り上げられたことでチンパンジーとして成長する機会がすべて奪われてしまいました。すべてが飼育体制やチンパンジーを使っている人たちのニーズに左右される、完全に人工的な状況になっています。

 プリンが成熟し、より大きく、より強力で危険な存在になったときに、彼女をほかのチンパンジーと同じ環境に戻そうとすると、あらゆる心理的な問題が発生し、それが彼女が本来の環境で生存することを非常に困難にさせ、彼女の残りの人生に影響を与えることになる。

 チンパンジーは45〜60歳まで生きることができ、70歳代まで生きたチンパンジーもいます。その、残りの人生にダメージを与えている》

 この団体は、前述のとおり日本の政府関係者にエンターテイメント使用をやめることを訴えた要請書を送ったそうだが、返答はまだないという。取材はそれに対し、以下の言葉で結ばれていた。

《政府の関わる組織に何かを訴える際は、返事が来るまでには何週間も何か月もかかり、その返事はたいてい、“ご指摘ありがとうございます”や“検討させていただきます”というようなものです。実際に役人や部署と議論を始めようとすると、相応のプロセスが必要になります。今はただ、政府が何か対応してくれるのを待つ段階であり、それが今後の展開を決めることになるでしょう》

 不適切な動物の取扱いをしている業者への規制強化を求める活動を行う動物保護団体『PEACE』代表の東さちこさんは、日本のチンパンジーのエンターテイメント使用への反対運動が、海外でも始まったことについて次のように話す。

「当然、海外から批判は出てくると思うので、驚きませんでした。国内の世論だけではなかなか変えられてこなかったので、いわゆる“外圧”もやむなしと感じます。カドリー・ドミニオンや日本テレビは、海外から日本がどう思われるかということにも気を配ってほしいです」

 世界的に無くなっているチンパンジーのエンタメ使用を長年続け、“芸”を要求し続けているのが、阿蘇カドリー・ドミニオンであり、『天才!志村どうぶつ園』及び『I Loveみんなのどうぶつ園』だ。

コロナ禍で必要なスキンシップなのか?

『I Loveみんなのどうぶつ園』の4月17日放送回では、『5か月ぶりの再会! プリンちゃんを楽しませてあげたい!』として、MCの相葉雅紀が都内から熊本まで会いに行った模様を伝えている。

 コーナーは“前任”である志村けんさんとの思い出を随所に挟むという“感動”が盛り込まれている。そしてそのなかではマスク越しではあるが、相葉がプリンちゃんにマスク越しでキスや抱きつくなどの“スキンシップ”が見られた。

 このコロナ禍にあって、ドラマですらキスシーンを「NG」としたり、細心の注意を払っているなか、恋愛を主軸とするドラマならまだしも、動物番組的に必要な行為なのかという疑問が残る。

「マスクが、ウイルスを含む飛沫の拡散を完全に遮断するものではないことは、報道などでもくり返し発信されています。帰宅後に手や顔を洗うことが推奨されているのは、顔にウイルスが付着している可能性があるからです。

 あそこまで接近してしまうとマスクをしていても意味がないと感じますし、キスだけではなく、抱っこしたりの接触も多く、新型コロナウイルスに配慮がないと感じました。また、野生動物に近づいて不適切な接触をしていいんだというメッセージを視聴者に対して発してしまったことも問題だと思います」(東さん)

 前回は「自転車に乗せる」という“芸”を見せたプリンちゃんだが、今回は“細かい作業が好きなプリンちゃん”という前提によって、相葉がジェンガをプレゼントし、いっしょに遊ぶというシーンが見られた。それは番組としては“志村さんともいっしょに遊んだ大好きなもの”だそうだ。

「チンパンジーの指の器用さや理解力の高さは、人間を楽しませるために存在するわけではないので、ただ単に娯楽として見世物的に扱ってしまっているという意味で、以前プリンちゃんにやらせていた自転車などと同じだと感じました。

 野生では、チンパンジーはシロアリなどを器用に棒で釣って食べたり、道具を使う採食行動をしますし、仲間と協力して行動する社会性の高さも持っています。人間が素晴らしいと感じるこういった能力は、彼らがアフリカの大自然の中で生きていくために獲得した能力です。

 その能力を営利目的で利用するために、飼育下で生まれたチンパンジーの子から奪ってしまうのは、本当に残酷なことだと改めて思いました。また、この番組は、そういった本来の生態を伝える教育的なメッセージの発信がないことも問題だと思います」(東さん)

「動物園も撮影スタッフも自覚が欠けている」

 また、ヒトとチンパンジーの比較研究を専門とする松阪崇久さんは、次のように話す。

「動物園では、来園者や園の職員の間での新型コロナの感染だけでなく、人から動物への感染を防ぐために、様々な対策がおこなわれています。たとえば、予約制による入園者数の制限です。これは人間同士の感染予防でもあります。来園者と動物の間の距離の確保、動物との触れ合いコーナーや餌やりコーナーの中止といった対策です。

 動物と直接に関わる飼育員や獣医師の方たちも、直接の接触はできるだけ避け、接触が必要な場合には手袋の装着や手指の消毒を徹底しているようです。また、来園者と飼育員の間での感染防止のため、飼育員によるガイド・ツアーなどを中止している園もあります。また、他の地域への出張から戻った際などには、検疫期間として2週間は動物に近付かないようにしているという話も聞きました。

 動物園ではこのように、動物に新型コロナを感染させないために、かなり神経をとがらせて対策がなされているようです。なかでも類人猿に対しては、とくに慎重な対応がおこなわれていると思います。ヒトに近いためにヒトの呼吸器感染症への感染の危険性が高い上に、チンパンジーもゴリラもオランウータンも絶滅危惧種だからです。

 阿蘇カドリー・ドミニオンで行われた撮影ロケは、こういった全国の動物園の対応とはまったく異なっており、疑問を感じざるを得ませんでした。感染多発地域である東京から訪れた芸能人が、チンパンジーを抱いたり、くすぐったり、チンパンジーにマスクを触らせたり、マスク越しにキスしたりしていたからです。動物園にも撮影スタッフにも、世界的に保護されている希少な動物を預かっているという自覚が欠けているように思います」

 何度も行われてきた警告を無視した末に起こった事故。そして引き続き行われ続ける動物の意志を無視したショーやテレビ出演時の演出……。これらに対する署名や警告は現在も続いているが、園はそれに対応していない。ショーを強要し続けることは人間のエゴにほかならないし、視聴者や来園者に“感動”を与えてくれたチンパンジーが、また不幸な事故を起こすこともあってはならない。

 プリンちゃんは現在、5歳半である。