完全にバリアンを模倣したホテル”ピュア・アジアン”

写真拡大

独りラブホ考現学/第11回

◆ラブホの概念を一変させたリゾートラブホ

 筆者は本連載第5回で、ラブホテル業界の革命児として「ホテルバリアンリゾートグループ」の存在を挙げた。その要旨とは、インドネシア共和国のバリ島(南国)をモチーフにした同ホテルが、これまで殺風景だったラブホテルの概念を一新させ、新しく「リゾートラブホ」というジャンルを開拓し、主に女性客に訴求する店舗づくりを主導することによって、業界内でも次々にバリアンに追従する動きが出てきていること(室内リニューアル)、等々である。

 確かに、「ホテルバリアンリゾートグループ」は、ラブホテル界にとっては革命であった。フロントは岩清水と小鳥のさえずりが漂う。フロアー各所には南洋の観葉植物、木彫りの彫刻やカエルをモチーフにした、いかにも南国リゾート風の小物で占められている。

 日本のラブホテル事情を全く知らない外国人がバリアンリゾートグループを訪れたなら、これが新型方式のセックス・ホテルであることに気がつくまで、多大な説明と時間を要するであろう。それほど、バリアンの衝撃は大きく、そしてバリアンの登場により旧来のホテルグループは、回転ベッド、室内自販機、スロットマシーンさえ置いてあれば、あとは適当に客のほうが忖度して帰ってくれるという方程式を崩さざるを得なくなった。

 通常のホテルと同じく、ラブホテル業界にも刷新と革新が必要で、常に顧客のニーズの先を行くサービスを提供しなければ生き残れない。バリアンが南国風の内装を貫く一方、色とりどりの入浴剤をプラスチック・カップに詰めて室内に持ち込む方式(筆者はこれを、入浴剤ビュッフェ形式、と勝手に呼ぶ)は瞬く間に、バリアン以外のラブホでもスタンダードになった。

 入浴剤をブッフェのように室内に持ち込めるという方式は、何の設備投資も必要がないのにもかかわらず、これまでのラブホテル業界では考えたことのない奇抜で新鮮なサービスであった。だから現在、少しでも改装の加わっているラブホは、ほとんど例外なくこの入浴剤ビュッフェ形式を採用しているのである。

◆バリアンそっくりのラブホが鶯谷に

 さて、そんなバリアンの起こした革命と快進撃に追従するように、既存のラブホテルを改装するなら、中途半端にバリアンに似せたものではなく、ほとんどバリアンと一緒の構造に変えたほうが良いと判断する経営者も続出した。

 そのひとつが、都下有数のラブホ街である鶯谷にある。該地にあるラブホテル「ピュア・アジアン」は、その名の通り、「アジア」をモチーフにした外装と内装に貫かれており、明らかにバリアンに触発を受けた「鶯谷における第二のバリアン」の呼び声が高い。

◆「徒歩5分」が改革を後押しした

 驚くほどバリアンに似せたホテル『ピュア・アジアン』は、保守的な鶯谷のラブホ街にあっては異端に映る。というのも、都下有数のラブホテル街で知られる鶯谷は、その街全体の知名度を生かして、旧態依然とした「昭和的」ラブホテルがまだ方々に散見される。それは「鶯谷=ラブホ街」という認知度が効果を発揮し、抜本的にホテルを改装しなくとも客が訪れるというアドバンテージを有しているからだ。

 目下のところ、「カラオケ完備」と看板で謳っておきながら実際にはカラオケ装置がぶっ壊れているとか、そういった経営進歩の欠片もないラブホテルは、まだ鶯谷には残存している。

 しかしそれは、駅からおおむね徒歩2分以内の、きわめて至便なホテルに限っていることで、同じ鶯谷といえど徒歩5分以上を要する「辺境」のホテルとなるとそうはいかない。『ピュア・アジアン』はまさに鶯谷の辺境にあるラブホであり、競合他社との差別化を図らなければ生き残れないという判断が、経営者の背を押したのであろう。