1993年のJリーグ開幕時から参戦するいわゆる『オリジナル10』のなかで、J2に降格したことがないのはわずか3クラブ。その数が今季、さらに減ってしまうかもしれない――。

 名古屋グランパスがいよいよ、ピンチだ。

 2010年にストイコビッチ監督のもとで初のリーグ制覇を成し遂げた強豪は、この年をピークに下降の一途を辿っている。2013年にピクシーがクラブを去ると、後を継いだ西野朗監督はガンバ大阪時代のような魅力的なサッカーを実現できず、2年間優勝争いに絡めないまま昨季限りで退任した。

 そして今季、名古屋を率いるのはクラブのOBである小倉隆史監督。昨年よりGM補佐という肩書でフロント業に携(たずさ)わっていたものの指導経験はなく、いわば新米監督。それは無謀なチャンレンジとも言えるが、見方によれば「未来を見据えた前向きな改革」でもある。「期待」と「不安」の両方を抱え、今季の名古屋はスタートした。

 開幕当初は、可能性を感じさせていた。そのキーマンとなっていたのは、新外国籍選手のFWシモビッチ。2メートル近い高さと決定力を備えたスウェーデン人ストライカーは、開幕からゴールを量産。小倉監督が求める「攻撃サッカー」の体現者となっていた。

 しかし、このストロングポイントをケアされると、勢いは次第にしぼんでいく。1stステージは第10節・横浜FM戦を最後に勝てなくなり、14位に低迷。2ndステージを前にセレッソ大阪からMF扇原貴宏、FC東京からMFハ・デソンといった実力者を緊急補強したものの、好転する兆しは見えずに前節の川崎フロンターレ戦でも敗れて、年間順位でついに降格圏に沈んだ。

 そうしたなかで迎えた第3節・鹿島アントラーズ戦――。1stステージ優勝チームとの対戦は、あまりにも酷な流れだった。

 この日の鹿島はいわば、1.5軍とも呼べるチームだった。中3日の連戦を考慮したのだろう。石井正忠監督はMF金崎夢生、MF小笠原満男をはじめ、レギュラー5人を温存し、18歳のルーキーFW垣田裕暉をデビューさせるなど、スタメンの平均年齢24.64歳という若いチームで臨んでいた。

 そんな相手に、名古屋は序盤から防戦一方。開始6分に失点し、26分に2失点目。前がかりになった終盤にはカウンターを浴び続け、セットプレーからダメを押されるという、まさに絵に描いたような「完敗」だった。

「追いかけるには、なかなか厳しい相手でしたね。チャンスがなかったわけではないんですが、そこを決めてくるチームと決められないチームの差。後半は少し巻き返して、前に出られるようになったんですが、そこでなんとか1点ほしかった。1対1のプレーの厳しさ、激しさというのは、やはりアントラーズだった。多くのタイトルを獲っていますし、1stステージも獲っている。素晴らしいチームですね」

 小倉監督は淡々とした口ぶりながら、白旗を上げるしかなかった。

 たしかに、序盤の失点で追いかける展開となったのは痛かったが、メンバーを入れ替えた影響からか、この日の鹿島は全体のコンパクトさに欠けており、付け入る隙は十分にあった。にもかかわらず、名古屋はチャンスらしいチャンスを作れない。攻撃はシモビッチをめがけたロングボールが中心で連動性に欠け、守備は前からプレスをかけるわけでもなく、かといって、さほど高くない最終ラインもサイドバックの裏をあっさりと攻略されてしまう。攻守両面において、まるで機能していなかった。

 戦術上の問題もあったが、なにより気になったのは2失点目を喫した後の場面。試合を再開した直後にすぐさまボールを奪われ、FW土居聖真にあわやというミドルを打たれてしまう。明らかに集中力を欠いたそのシーンからは、勝利への執着心を感じることができなかった。

 この日が名古屋に来て2試合目の出場となった扇原は、厳しい表情で試合を振り返った。「早い時間帯に失点してしまっているので、前半は0−0で終えるくらいの気持ちでやらないと厳しい。出足は鹿島のほうが早かった。そこはもっと早くしないといけないし、チーム全体でもっと運動量を上げて、五分のボールを自分たちのものにするような、そういう戦う姿勢を見せていかないといけない」と、現状のチームの課題を指摘した。

 より悲壮感を漂わせていたのは、GK楢崎正剛だ。3失点を喫したことについて触れ、「どうにかできたところはあったとは思いますけど、自分が助けにならなかったという反省しかないです」と肩を落とした守護神は、悲痛な表情で言葉を続ける。

「そもそも、なかなかマイボールが前に進まないし、すぐに守備の時間になってしまう。サッカーのやりかた自体がこのままだと、しんどいというか......。川崎戦、鹿島戦と続けてこういう状態。もちろん(相手は)上位にいるチームではありますけど、ほとんどサッカーをさせてもらえなかったので、違うアプローチでやらないと勝ち点は獲れない」

 楢崎が今のやり方に限界を感じているのは、間違いない。そしておそらくこれは、彼だけの意見ではないはずだ。

 小倉監督が求めるのは、FW出身の指揮官らしく、「5人目までが連動する」攻撃サッカーだ。しかし、実際にピッチで表現されているのは、個々の能力に頼った単発的なものばかり。理想を描くのは監督のあるべき姿だが、それを崩されたときにどう対応するかにこそ、真の能力が現れる。そこには経験がモノをいうだろう。数々の修羅場をくぐり抜けてこそ、正しい方向へと舵を切れる。その意味で、新人監督には厳しいミッションである。

 今の名古屋に求められるのは、理想を捨て、現実路線を突き進むこと。言い換えれば、「守備重視のサッカー」である。リーグ最多の36失点を喫している現状を考えれば、そこに辿り着くのは必然だ。

「監督も、もちろん分かっているとは思います。それをもっと極端にやるべきなのか。ただ、今は補強した選手もいるし、なかなかそういうふうに割り切れないところもあるだろうとは思いますけど。今は信じてやっていくしかない」

 苦しい胸の内を吐露した楢崎は、現実を知っている。では、チームを束ねる指揮官は? 名古屋の運命は、新人監督の決断にかかっている。

原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei