理工系学部の入試に「女子枠」を導入する大学が急速に増えている。                         

【映像】大学学部別の女子比率(グラフあり)

 しかし、導入が広がり始めてから数年が経つものの、毎年入試のタイミングを中心に同じような不公平感や疑問を訴える声があふれる。

 経済状況など、性別以外にも不平等は存在する中で、女子枠を設置した大学側はその意義をどう説明していくのか。また、今後この制度はどうなるのか。

 ニュース番組『わたしとニュース』では、東京大学-IncluDE准教授の中野円佳氏とともに深掘りした。

◾️拡大する“女子枠”に不満の声

 女子学生の割合が低いとされる分野で、女性を対象に別枠で定員を設ける「女子枠」。多様性のある学問の環境を確保する狙いなどから導入する大学は急速に増えており、国公立大学の理系学部では2023年度の5校から2026年度には38校に増加している。(文科省『国公立大学の入学者選抜』)

 一方でSNSでは、次のような賛否の声が上がっている。

「理工系学部に女子が少なすぎる。社会全体の意識を変えるために必要」

「女性優遇でしかない。男性差別

下駄をはかされた扱い。優秀な女性をバカにしているだけ」

 そんな中、実際に行動を起こす学生の存在も出てきている。4月には「公平な入試を求める学生の会」が文部科学省を訪問し、女子枠入試の廃止を求めて入試担当者と意見交換を行った。

◾️女子枠合格者に偏見「スティグマになりかねない」懸念

 女子枠を設置する大学が増えていることについて、中野氏は次のように語る。

「女子枠自体に諸手を挙げて賛成ではなく、もっと多様性に配慮できた方がいいと思っている。ただ、国立大学は文系も含めてだが、特に理系は女性の割合が非常に少なく、いろいろな形で是正していかないといけない。現状は、女子枠に対して反発も出ていて、合格した女性に偏見の目が向けられるなど、社会的なスティグマになってしまいかねない議論は懸念して見ている」(中野氏、以下同)

 その上で、大学側の問題点についても指摘する。

「大学によっては、一般入試の前の推薦入試で女子枠を設定しているところもある。むしろ一般入試よりも優秀な人たちを取るやり方なので、『能力の低い女子が入ってくる』『点数が低くても入れる』ということではないと思う。ただ、大学側の発信だったり、環境整備が追いついているのかについては疑問に思う。そういうところに丁寧な議論が必要なのだが、感情的な側面が入ってしまって、今SNSなどでは話題になりやすい状況なのだろう」

◾️女性の存在は空気?男女比が引き起こす「環境型ハラスメント」

 理工系分野で女子枠を実施する大学が38校まで増加したことについて、中野氏は女性を増やそうとする動き自体は歓迎しつつも、現状の課題を語る。

「当初は一部の大学のみが実施していたため、それが大学の特色となり、明確なメッセージを伴った発信ができていたと思う。ただ、これだけ広がってくると、理系を志望する女子学生自体がそれほど増えていない状況では、限られたパイを大学同士で奪い合うことになりかねないのではないか」

 理系の中でも医学部や農学部は女性比率が比較的高いものの、理学、数学、工学部などは上昇傾向とはいえ割合的にはまだ低い。その上で、男女比率の偏りがもたらす問題について次のように指摘する。

「例えば理工系だと女子学生も少ないし、その先にいる教員も女性が少ない現状がある。9対1とか8対2にも届かないような環境だと圧倒的なマイノリティで、ハラスメントが起きやすい。それは学生に対する教員のハラスメントだけでなく、環境型ハラスメントもある。例えば、学生60人とかのうち女子学生が5、6人しかいないような環境では、彼女たちの存在がまるで空気のように扱われてしまいがち。周囲が平然と性的なジョークを口にし、それを不快に思う人がいても無視して話し続けたり、結果として女性を排除するような言動が起こりやすくなると思う」

「環境を変えようにも、あまりにもマイノリティだと声を上げにくく、どういう風に変わってほしいかという議論が進まないところもある」

◾️性別以外にも不平等は存在 大学が発信すべきこと

 大学入試に関する河合塾のテストを受けた人を対象にした調査では、2023年に比べて2024年は女子枠賛成派が減少した。賛成派からは「女性が増えることによって男性とは違う視点を加えられる」などの意見があがる一方、反対派からは「理系に進む女子が少ない根本的な原因がなくなるわけではない」などの意見があがった。

 反対の声にある「根本的な原因」として、中野氏は幼少期からのジェンダーバイアスを挙げる。

「2026年になっても、ジェンダーバイアスは依然として根強く残っている。赤ちゃんは生まれた時から、洋服やおもちゃが『女の子っぽいもの』『男の子っぽいもの』に分けられている。大人たちの態度、親や教師、子どもに関わる人たち、あるいはメディアも、『男の子ならロボットやレゴが好き、女の子ならぬいぐるみが好き』といった固定観念がある。年齢が上がると女の子は外見を整えるコスメ系のおもちゃやコンテンツにかなりさらされる。そういった環境の中で、そもそも理工系への関心や勉強を頑張ることに対して、男の子と女の子で周囲の期待が違っているのではないか。そうした根底の部分から変えていかなければいけないと思う」

 ただ、経済的状況や地方出身であることなど、入試や進学先の選択に不利となりうる要素は性別だけではない。こうした問題に対してはどう対応していけばよいのか。

「地方出身者や、ファーストジェネレーションと言って家族が大卒ではない子など、『女子であること』以外にも不利益を被ったりマイノリティであったりした経験を持っている方はいるはず。そうしたところも考慮して、多様性枠のような形でできるといいのかなとは思う」

「しかし、実際に制度設計するのはすごく難しいところもあるかもしれない。例えば、経済的な状況にしても、親のキャッシュフローは確認できても資産の有無はどうするのか、また、親がその子供を援助してくれるかどうか、ということは別だったりもする。何かを評価すると、それに合わせて考慮しないといけないことが増えるので、ある意味女子枠は、確定しやすい属性ではあるのかと思う」

 そのうえで、女子枠に対する「不公平感」の根底には、日本の入試制度や社会構造の問題があると指摘する。

「そもそも日本はペーパーテスト信仰が強いが、ペーパーテストなら不公平ではないかと言えばそうとは限らない。環境によって、ペーパーテストで答えるような学力を身に付けるのが難しい人もいれば、別の才能に秀でている人が評価されにくい側面もある。『本来同じペーパーテストで通るべきなのに、ズルをしているのではないか』といった見方があるが、AO入試や学校推薦など別の試験形態も広がっている。それぞれに富裕層に有利なんじゃないかとか、学校の先生に気に入られる優等生しか取られないとか問題もあるわけだが、女子枠は属性でわかりやすく批判がされやすい」

「日本は大学受験がゴールになりやすく、入学したことがステータスになってしまっている。『どこの大学に入るかはそんなに重要ではなく、大学で何を学んだかが重要』という社会や『得るべきものを得ないと卒業できない』という形であれば、入り方や入った大学がどこであれ、『この大学に女子枠のせいで入れなかった』という不満は大きくならないのでは。実際は企業も学歴や大学名を見ているところがある」

(『わたしとニュース』より)