2023年10月、リブゴルフ・チーム選手権でのグレッグ・ノーマン

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新たな出資者は現れるのか

 ゴルフ界は今季2つ目のメジャー大会、全米プロを迎えようとしているが、今の話題の中心は、何と言ってもリブゴルフである。

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 サウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」の支援を受けて、2021年に創設され、2022年から試合開催を開始したリブゴルフ。5シーズン目となる今季がすでに進行中だが、PIFからの支援が2026年いっぱいで打ち切られることが4月に発表されて、現在は大揺れしている。

 スコット・オニールCEOは、新たな出資者を獲得して2027年以降もリブゴルフを継続すべく、新たに社外取締役2名を迎え入れ、ニューヨーク拠点の投資銀行「デュセラ・パートナーズ」とパートナーシップを結んで資金繰りのアドバイスを求めるなど試行錯誤を始めている。

2023年10月、リブゴルフ・チーム選手権でのグレッグ・ノーマン

 果たして、新たな出資者は現れるのか。リブゴルフを継続することはできるのか。規模を縮小すれば、継続可能となるのか。それとも、リブゴルフは今季限りで消滅してしまうのか。その答えは、今は誰にもわからない。

 とりあえず、今季の残り試合は予定通りに開催され、これまで通りの賞金もギャランティされているため、リブゴルフ選手全員が残り試合に出場することはまず間違いない。

 問題は、今季の全試合が終了する8月以降、選手たちがどうするかだが、リブゴルフ自体の先行きが未定の現在は、選手たちも自身の身の振り方を決めあぐねている様子である。

 それにしても、あれほど豪華絢爛な試合を開催していたリブゴルフが、なぜ突然、こんな危機的状況に陥ったのか。あらためて考えてみると、最大の失敗はいわゆる「仁義」を切らなかったことだと思えてならない。

リブゴルフはまさに「Oil the wheels」

「仁義を切る」とは、日本の任侠映画などでしばしば聞かれる言葉だが、AIアンサーによると、「元々は『正しく挨拶をする』という意味。ビジネスシーンでは『礼を尽くす』『筋を通す』という意味で使われる」などとある。

 英語にも「根回しをする」「筋を通す」という意味の言い回しが、いくつかあり、「Oil the wheels(直訳すると〈車輪に油を差す〉)」はその1つだ。

 このフレーズは、「仁義」を欠いたことでサウジアラビアのオイルマネーの流入が途切れることになったリブゴルフにあまりにもぴったり。それがなんとも皮肉に感じられ、思わず苦笑させられた。

 そう、リブゴルフの最大の失敗は、PGAツアーやDPワールドツアーといった既存のトラディショナルツアーに対して、仁義を切らなかったことだ。

「新しいゴルフツアーを立ち上げます」「こういう日程、こういう競技形式でやります」「よろしくお願いします」という具合に、あらかじめ挨拶を交わし、理解や協力を求めていたら、リブゴルフの歩みは、もっとスムーズだったのではないだろうか。

 しかし、既存のツアーに対して何の挨拶もないまま、突然、創設を発表し、大金をオファーしてPGAツアーやDPワールドツアーのスター選手を次々に奪い取ったリブゴルフの進め方は、米欧両ツアーからすれば「聞いてない」「筋が通らない」という話になり、怒りや不快感を煽った。

PGAツアーとノーマンの微妙な関係

 仁義を切るべき立場にあったのは、言うまでもなく、リブゴルフ創設に奔走し、初代CEOになったグレッグ・ノーマン氏だった。彼が古巣のPGAツアーに仁義を切らなかったことは何よりの失敗だったが、昔からPGAツアーに対して敵対心を抱いていたノーマン氏がリブゴルフを立ち上げ、CEOを務めたことは、仁義云々以前の根本的失敗だったと言っても過言ではない。

 ノーマン氏はPGAツアー選手だった時代に、斬新な構想を思い描いては提案。その1つだったワールドツアー構想は、後の世界ゴルフ選手権になった。プレジデンツカップの草案もノーマン氏のアイデアだった。しかし、ノーマン氏が発案者だったことは、まったく表に出されず、優れたアイデアマンとしてのノーマンの存在は、毎回、掻き消されてしまった。

 そうした過去の経緯を大いに不満に思っていたノーマン氏は、まるで「PGAツアーの鼻を明かしてやる」と言わんばかりに、端から敵対する格好でリブゴルフを立ち上げた。だからこそ、挨拶もなく、礼を尽くすこともなく、仁義を切ることをしなかったのだ。

 そして、当時のPGAツアーを率いていたジェイ・モナハン会長は、そんなノーマン氏に真っ向から応戦する形で、敵対心や対抗心を剥き出しにした。

 もしもリブゴルフが、つまりノーマン氏が事前に仁義を切っていれば起こらなかったかもしれない対立や確執が、実際には仁義を欠いたことで起こってしまった。今思えば、きわめて残念な始まり方だった。

斬新すぎたがゆえの失敗

 しかし、リブゴルフの失敗は、それだけではなかった。これまでの概念を一新する斬新なゴルフツアーを目指して創設されたリブゴルフは、ギャラリーに「Quiet, please!(お静かに)」と呼びかけられるゴルフの試合会場を、それとは正反対のお祭り騒ぎの場として、「Golf, but louder!(ゴルフだけど、大騒ぎしようぜ)」を謳い文句に掲げた。

 とはいえ、それは必ずしも失敗や間違いとは言い切れず、実際、リブゴルフの観戦に訪れたギャラリーは、賑やかなフェスティバルを大いに楽しんでいた様子だった。

 だが、斬新さが必ずしも良い結果を生むとは限らない。リブゴルフが「ゴルフは4日間72ホール」を覆して「3日間54ホール」をウリにしたこと、それをアイデンティティに掲げたこと、そして全組が一斉にショットガン・スタートする形式にしたことは、斬新すぎたがゆえの失敗だった。

 選手にとって3日間の短期決戦は、疲労が少なく、“コスパ”も良かったのかもしれない。しかし、ゴルフのTV中継においては「木曜から日曜の4日間72ホール、1番と10番からの順次スタート」が長年の「定型」となっているため、不慣れな日程、不慣れな形式のリブゴルフは、日程的にも技術的にも「調整が難しい」「手を出すのはリスキー」と見られ、リブゴルフの放映権契約は難航をきわめた。

リブゴルフの失敗の根源はやはり

 世界ランキングの対象ツアーとしてOWGR(オフィシャル・ワールド・ゴルフ・ランキング)からの承認を得る上でも、型破りな3日間54ホールであることは最大の難点と見なされ、こちらも難航をきわめた。

 もっとも、世界ランキングの承認がこれほど遅れた背景には、OWGRの意思決定を行うメンバーにPGAツアーやDPワールドツアーのトップが含まれていることも大きく影響したと見られていた。放映権契約に関しても、既存のツアーから裏切り者のように見られることを避けたとも言われていた。

 そうだとすれば、やっぱりリブゴルフの失敗の根源は「仁義を切らなかったこと」になる。

 最終的には、リブゴルフが今季から競技形式を4日間72ホールに変更したため、今年2月にようやく世界ランキングのポイント付与が認められた。しかし、周囲からは「リブゴルフがアイデンティティを捨てた」などとも言われ、むしろ評価が下がった感もあった。

リブゴルフの功績

 それでは、リブゴルフが個人戦と同時並行でチーム戦を行い、各チームをフランチャイズ化したことは、どう見られているのか。

 PGAツアーには、2人1組のチーム戦で競うチューリッヒ・クラシック・オブ・ニューオーリンズという大会がある。だが、3人あるいは4人のチームで競い合う大会は、現状では1つもない。

 しかし、3〜4人のチームを結成し、年間数試合に臨むチーム戦がなかなか楽しいものであることは、リブゴルフがある意味でお手本となった。そのおかげで、リアルゴルフとバーチャルゴルフの融合であるTGLが同様の形式を採用したと言われている。

 そう考えると、リブゴルフがチーム戦を採用したことは失敗ではなく、斬新なグッドアイデアだったと言えそうである。各チームをフランチャイズ化したことも、ゴルフ界初の新しいビジネス形態であり、リブゴルフ選手のイアン・ポールターの言葉を借りれば「10チームは黒字化している」そうである。

 しかし、それらのチームは“リブゴルフあっての”チームであり、“リブゴルフあっての”ニュー・ビジネスだ。母体のリブゴルフが消滅してしまったら、その中で「営業」している各チームも、おそらくは同じ運命を辿ることになる。

「新たなツアー」は現れるのか?

 リブゴルフが傾きかけた今、彼らの失敗は明らかに多々見て取れるのだが、既存のゴルフ界はリブゴルフの一連の経緯から何かを学び取り、今後の糧にしたいところである。

 リブゴルフの衰退ぶりを見るにつけ、PGAツアーを頂点とするゴルフ界のピラミッドが、いかに頑強でパワフルであるかを最終的に見せつけられた感がある。

 一方で、「ゴルフ界には今後、新しいツアーは決して出現しないのか。新たなツアーは成り立たないのか」という疑問も湧いてくるのだが、新規ツアーをすべて締め出すようでは、ゴルフ界に今以上の広がりはない。

 TGLがPGAツアーの肝煎りでキックオフしたことは、ゴルフの裾野を広げることにつながりそうである。ブライソン・デシャンボーはリブゴルフが消滅したら自身のYouTubeでゴルフリーグを盛り上げていくと宣言している。

 ゴルフ界は、「リブゴルフ対策」に四苦八苦してきたこの5年間を無駄にすることなく、今後は「新たなツアー」が登場しても、いたずらに敵対するのではなく、ともに向上を目指す協調路線を歩んでほしい。

 どちらの側にも、大きな「失敗」をおかしてほしくない。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部