埼玉・飯能の住宅街にクマが出た!? 現地を訪れて判明した“相次ぐ目撃情報”の衝撃の顛末

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埼玉の住宅街に!?

ここ数年、年を追うごとに大きなニュースになっているクマの被害。4月に入ってからは冬眠明けのクマ「春グマ」の出没が全国で相次いでいる。5月7日には岩手県八幡平市で山菜採りに出かけたまま行方不明だった女性が心肺停止の状態で発見され、クマに襲われたとみられている。

東京・池袋から急行で50分の埼玉県飯能市でも4月末にクマの目撃情報が相次いだ。

4月20日午前0時45分ごろ、飯能市美杉台2丁目で、体長約1mのクマのような動物を目撃したとの情報が寄せられたのだ。目撃現場は市立美杉台小学校の東側で美杉台通りにかかる歩道橋の下。目撃者は車内からクマらしき動物を確認し、ドライブレコーダーにもその姿が残っているという。

さらに30日の午後4時ごろには、飯能市美杉台1丁目で、やはりクマのような動物の目撃情報が報告された。

飯能市では4月14日に、県による「緊急銃猟」の想定訓練が初めて実施されている。

「『緊急銃猟』は昨年9月に導入された制度で、住民への危害を防止するために緊急の必要がある場合、従来の警察官による命令を待たずに市町村長の判断で銃猟が可能となるというものです。

県は冬眠明けの3月から6月にかけてクマの出没が急増するとして、山林や河川敷での警戒を強めていて、訓練はこの一環として行われました。県や県警、猟友会と県内各自治体の職員ら約130人が参加し、住民の安全を確保しながら迅速に銃器を使用して駆除を行うための実働手順や役割分担を確認したということです」(全国紙社会部記者)

その背景には、埼玉県内でのクマの目撃情報と個体数の急激な増加があった。

埼玉県のまとめによると、最新の調査では県内の推定生息数は最大約690頭と、5年前の調査から約4倍に急増しているとの結果が出ています」(同前)

これまでも飯能市でのクマ目撃情報は目にしたことがあったが、そのほとんどが登山道など山間部だった。しかし「小学校の東側」となると、完全に生活圏ではないのか。気になって地図で確認すると、美杉台での2件の目撃証言はやはり住宅街のようだった。

これまで住宅街でのクマ目撃情報は本州では東北地方が多い印象だったが、都心への通勤圏内である飯能市でも住宅街にクマが出没する事態になっているのだろうか。県や市もそのことを予想していたからこそ、「緊急銃猟」の訓練を行ったのではないか。

付近の住人がどれくらいクマの脅威に怯えながら生活しているのか、GWに現地を訪れてみた。

現地で話を聞いた

5月5日の飯能市は雲ひとつない青空が広がっていた。午後1時の気温は約20℃。日差しは強いものの涼しい風が吹いているため、あまり暑さを感じない。

飯能駅南口を出て、駅を背に美杉台通りを真っすぐ20分ほど歩いたところにある歩道橋の下が、4月20日にクマが目撃された現場だ。歩道橋の両端には住宅街が広がっている。近くを散歩していた60代の男性に「クマの目撃情報」についてたずねると、このような返答が返ってきた。

「この下をクマが走っていたというのはニュースで見ました。あと、1丁目の公園でもこの前、クマが出たとかで、『注意してください』と張り紙がしてあったそうです。なので、ついこの前までは怖いなと思ってクマよけの鈴を持って散歩していました」

しかし、現在も警戒しているかというと、そうではないようだ。

「今はもう昼間は持ち歩いてません。ただ、早朝や夕方など、暗い時間帯に散歩する人のなかにはクマよけの鈴を持ってる方も見かけますよ」

歩道橋のすぐ近くにある一戸建ての前で洗車していた男性もやはり「クマ目撃」のニュースを見たといい、こう話した。

「そこの歩道橋の下を夜中にクマが走っていたというニュースは見ました。ここまで下りてくるの? と驚きましたよ。でもさすがに昼間は出ないだろうって、こうのんびりとかまえちゃってるんです」

美杉台小学校から美杉台1丁目にかけては、ところどころ空き地や公園があるものの、一戸建てが密集してる地域だ。時折子どもの笑い声が聞こえるほかは閑静な住宅街。確かに山は近い。ここに、夜になるとクマが下りてくるのだろうか。

それでも山は危険

2件目の目撃情報があった美杉台1丁目には美杉台公園という大きな公園がある。GWということもあり、サッカーチームが練習していたり、家族で散歩していたりと老若男女それぞれ休みを楽しんでいる様子で、「クマが出た」という緊張感はまったく感じられなかった。

美杉台公園の奥は木々が生い茂り、ちょっとした森のようになっている。ちょうど散歩していた50代の男性に「この辺にクマが出たというニュースがありましたが」と声をかけると、「あったね」と苦笑しながら、このように話してくれた。

「この辺はイノシシやらアナグマやら何でもいますけど、さすがにクマはいないですよ。カモシカを見間違えたんでしょう。カモシカってけっこう大きいし黒いんです。私も初めてカモシカを見たときにクマかと思って、一瞬、恐怖を感じました。

うずくまっているカモシカを後ろから見るとクマに見えるんですよ。初めて見間違えたときも、よく見たらカモシカだったんです。しょっちゅう見るんで、一時期はよくカメラで撮影したりしていました」

この4月末に相次いだクマの目撃情報は、カモシカだったのだろうか。飯能市役所の環境経済部農業振興課は次のように説明してくれた。

「クマの目撃証言があれば、すべて現場で確認しています。まず20日の深夜に目撃されたものですが、現場にクマの足跡や糞などの痕跡はありませんでした。ドライブレコーダーも確認したのですが、ピョンピョン飛び跳ねてるんですよ。猟友会などの専門家に言わせるとこれはクマの歩き方ではないとのことでした。

また30日の目撃証言ですが、正確な場所は住宅街の中なんです。実際に目撃現場にも行きましたが、やはりクマの痕跡はありませんでした。見たのは下校途中の小学生1人だけで、これはカモシカを見間違えたのだろうと判断しました。午後4時だとまだ明るいですし、散歩している人がいたりと、けっこう人目もある場所なので。

あの辺にカモシカがすみ着いているのは地元の方には周知されていますし、毛の色も茶色の個体で後ろから見るとクマと見間違える可能性は十分あるんです。連日のようにクマのニュースが流れると、大型動物を見たときにそう思ってしまうのかもしれません」

やはり、カモシカの見間違いだったようだ。そのうえで、担当者はこう注意を促すのだった。

「美杉台は山が近いので、今後クマが出る可能性は十分あります。カモシカに慣れちゃってるので、本当にクマが出たときに『またカモシカだ』とならないよう注意は怠らないでほしいですね。もちろん住民に危険が及びかねない状況になれば防災無線でその旨を伝えます。

ただ、山に入るとクマに遭遇する危険は十分あります。ハイキングなどで山に入る場合は、クマよけの鈴など事前にちゃんと対策をしてください」

飯能市で相次いだ住宅街での“クマ目撃情報”は見間違いだったようだ。住民の方々もひと安心といったところだろう。せっかくなので国の特別天然記念物・ニホンカモシカをひと目見たくて夕方まで探してみたが、結局、その姿を見ることはできなかった。

取材・文・写真:中平良