新幹線の新大阪駅から多くの外国人観光客が乗り込んできた。彼らのお目当ては、車内のハローキティとの撮影と、1号車に設けられた特設売店でのキティちゃんグッズの購入だ。

【画像】「なぜここに?」外国人観光客がこぞって乗りに来る新幹線の“特別な車体”デザインは…


「ハローキティ新幹線」で記念撮影を行う観光客 筆者提供

 関西空港と大阪・京都を結ぶ特急「はるか」にもハローキティの装飾が施されており、ホームでは列車を背景に写真を撮る外国人観光客の姿が見られるが、キャラクター列車のなかでも人気が高いのがこの「ハローキティ新幹線」である。JR西日本では訪日客向けに、この列車で利用できる周遊パスも販売している。

 多くの外国人観光客は、新大阪駅から新神戸駅までのわずか13分の乗車の間、車内では写真撮影や車内限定品の買い物を楽しむ。写真スポットも特設売店も、大騒ぎだ。ハローキティは東南アジアや欧米でも知名度が高く、日本旅行の記念として「キャラクター列車に乗る体験」そのものが目的になっている。

観光資源として注目される日本の鉄道

 興味深いのは、この列車に使用されている500系車両が、日本ではすでに主力ではなくなった形式であるにもかかわらず、海外では「日本の新幹線を象徴するデザイン」として人気が高い点である。流線形の先頭形状は、外国人観光客にとって「未来的な高速鉄道」というイメージと重なる。

 ハローキティ新幹線は2026年5月で運転終了予定だが、JR西日本は2025年4月から人気漫画・アニメ『ONE PIECE』とコラボレーションした「ONE PIECE新幹線」を山陽新幹線(新大阪―博多間)で運行している。海外でも知名度の高い作品であり、鉄道とアニメを組み合わせることで、乗車そのものが観光体験となる。

 アニメ作品に登場した鉄道や、キャラクターが描かれた列車に乗ることは、いわば「作品の世界を体験する」行動とも言える。鉄道とコンテンツの相乗効果によって、移動そのものが旅行の目的になっている。

 外国人観光客にとって、日本の鉄道は単なる移動手段ではない。時間の正確さ、安全性、清潔さといった基本的な品質の高さに加え、多様な車両デザインや沿線風景が「体験型コンテンツ」として評価されている。訪日旅行では「モノ消費」から「コト消費」への移行が指摘されており、鉄道乗車そのものが旅行価値を持つようになっている。

東急世田谷線、御茶ノ水の聖橋…外国人観光客が集まる理由

 東京都内で外国人観光客の人気を集めているのが東急世田谷線である。沿線にある豪徳寺は招き猫発祥の地として知られ、SNSを通じて海外で話題となった。招き猫は、ラッキーキャットとして、世界的に人気になっている。

 東急300系車両には猫の顔をデザインした「招き猫電車」が運行されており、写真撮影を目的に訪れる観光客も多い。小さな車両が住宅地の中を走る風景は、日本人にとっては日常の一部であるが、外国人にとっては「日本の生活文化」を感じられる風景として評価されている。

 また、アニメ作品に登場した鉄道や駅を訪れる「聖地巡礼」も鉄道観光を後押ししている。東京・御茶ノ水の聖橋周辺では、JR中央線、総武線、東京メトロ丸ノ内線の3路線が立体的に交差する景色を見ることができる。

 もともとは鉄道写真の撮影地として知られていたが、映画『すずめの戸締まり』の影響もあり、海外の旅行サイトやSNSで紹介されるようになった。三色の電車が同時に見える都市景観は、巨大都市東京の鉄道網を象徴する風景として関心を集めている。

 さらに、地方のローカル線も外国人観光客の人気を集めている。田園地帯や海岸線、山間部を走る鉄道は、日本の原風景を体験できる移動手段として評価されている。車窓から見える里山や漁村、棚田などの風景は、都市観光とは異なる魅力を持つ。とりわけ欧米の旅行者の間では、ゆっくりと景色を楽しみながら移動する旅行スタイルが支持されている。

鉄道会社も需要に対応、鉄道が「旅の目的」になる時代

 こうした需要を受け、鉄道会社もインバウンドを意識した列車の運行を進めている。阪急電鉄の「京とれいん 雅洛」は、京都の伝統文化を意識した内装が特徴で、車内空間そのものが観光体験となる。近鉄では「しまかぜ」「青の交響曲(シンフォニー)」など、快適性とデザイン性を重視した観光特急が人気を集めている。

 小田急電鉄の「ロマンスカー」、東武鉄道の「スペーシアX」なども、車両デザインや車内空間そのものが観光資源として評価されている。JR九州の観光列車も、デザイン性の高さから海外での評価が高い。これらの列車では、「どこへ行くか」だけでなく「どの列車に乗るか」が旅行計画の一部となっている。

 鉄道会社は、多言語対応のきっぷ販売、無料Wi-Fi、外国人向け周遊パスなど、利用環境の整備も進めている。訪日客の増加に伴い、都市部だけでなく地方への旅行も広がっており、鉄道は広域移動を支えるインフラとして重要な役割を果たしている。

 日本人にとって鉄道は日常の移動手段であるが、外国人観光客にとっては日本文化を体験できる観光資源の一つである。時間通りに到着する正確さ、整然としたホーム、地域ごとに異なる車両デザインなどは、日本社会の特徴を象徴する要素として受け止められている。

 神社仏閣やテーマパークだけでなく、鉄道そのものを楽しむ旅行スタイルは今後さらに広がる可能性がある。アニメ作品やキャラクターとの相乗効果、ローカル線の風景、特徴ある車両デザインなど、日本の鉄道が持つ魅力は多様である。日本人にとっては見慣れた風景であっても、海外から見ると新鮮な観光体験となる場合も多い。

 外国人観光客が注目する「鉄道観光」は、日本の魅力を再発見する視点を提供しているとも言える。どの列車に乗り、どの風景を見るかという選択そのものが、旅の目的になりつつあるのである。

(中村 智彦)