「こんなはずじゃなかった」高校無償化…授業料ゼロでも家計は苦しい、世帯年収700万円・40代共働き夫婦の誤算【CFPが警鐘】
「無償化」と聞くと、教育費の負担がなくなるように感じるかもしれません。しかし実際には、その言葉の印象と現実のあいだに少なからずギャップがあるようです。東京都の高校無償化にあやかろうとした40代共働き夫婦の事例をもとに、高校無償化の仕組みと注意点をみていきましょう。※個人の特定を避けるため、登場人物の情報は一部変更しています。
「高校無償化だから大丈夫」のはずが…
カズキさん(仮名・45歳)は、妻(43歳)、長女(17歳)と東京郊外の賃貸マンションに暮らしています。世帯年収は約700万円(夫600万円、妻100万円)、月の手取りは合計で約46万円です。
一家はもともと、埼玉県に住んでいました。しかし、2年前に、東京都の高校無償化制度を知った妻が「都内に引っ越そう」と言い出したのです。
「あなたも都内まで通勤しているんだし」
妻からそう言われたカズキさんは、いくら教育費が減るとはいっても、家賃が上がることになるので気が進みませんでした。しかし、「無償化なんだから都内に住んでもやっていけるはず。私ももっと働くから大丈夫」と、妻に押し切られました。
都内に引っ越したことで、家賃は月15万円から19万円に、月4万円上がりました。それでも、妻の希望するエリアでは家賃が高すぎたため、妥協した結果です。
そのような経緯だったので、都内とはいえ、カズキさんの通勤時間は今までとあまり変わりませんでした。
そして、長女は無事に都内の私立高校に合格、「教育とこれからの生活のため」前向きにスタートを切ったはずでした。
しかし……長女が私立高校に進学してすぐ、夫婦のあいだに違和感が生じます。
まず入学までに、入学金25万円と、制服や学校指定品一式で約15万円が飛んでいきました。
また、東京都の「私立高等学校等授業料軽減補助金」、いわゆる高校無償化制度を申請したのは7月です。年間約70万円の授業料等も、申請前に学校に納入しなければなりません。
そして、なにより想定外だったのが「お金が戻ってくるタイミング」です。
7月に申請手続きをした補助金は、翌年3月の中旬になって、ようやく振り込まれました。金額は49万円、振り込まれたことはありがたかったのですが、「やっとか」という思いのほうが大きかったといいます。
「こんなはずではなかった……無償化の恩恵を受けているはずが、家計は全然楽にならないじゃないか」
「高校無償化」の落とし穴
高等学校等の授業料支援制度には、国の「高等学校等就学支援制度」と都道府県独自の制度があります。
2025年度、国の「高等学校等就学支援金制度」は私立・公立問わず所得制限を撤廃し、一律11万8,800円が支給されることとなりました。
また、東京都には独自の「私立高等学校等授業料軽減補助金」制度があります。これは、国の就学支援金と合わせて、都内私立高校平均授業料が上限となり、最大49万円支給されるというものです。
文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」によると、高校における学習費の総額は、私立に進学した場合、年間で117万9,261円となっています。
[図表]学校種別の学習費総額出典:文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」より筆者作成
学校教育費とは学校内でかかる費用で、入学金や授業料、施設費、制服やバッグなど指定品、修学旅行費などです。一方で学校外活動費は、学習塾や習い事など、学校教育費以外の活動に支出する費用を指します。
つまり、最大49万円の支給は、学校教育費の一部に充当されるにすぎないのです。
また、子どもにかかる費用は教育費だけではありません。交際費や交通費などについても、子どもの成長とともに自然と広がっていきます。
カズキさんの長女も、都内の高校に通うようになって交際範囲が広がりました。都心に遊びに行くことも増え、「お小遣いが足りない」と不満げです。
今年、長女の学年は海外への修学旅行が予定されています。50万円以上かかる見込みとのことで、夫婦は頭を抱えていました。
カズキさんが抱いた違和感の正体
カズキさんが抱いた違和感は、この制度と現実のギャップでした。
無償化と聞くと、「最初からお金がかからない状態」をイメージするかもしれません。しかし、実際は「あとから一部だけが戻ってくる仕組み」です。
この違いは大きく、キャッシュフローに余裕がなければ、その恩恵を受けにくいともいえます。
家賃も上がり、無償化のはずが長女に関する支出も増えました。カズキさんは、家計も見直しましたが、限界があります。それより、「私ももっと働くから」といっていた妻が一向に動かないことについにしびれを切らしました。
「都内に引っ越したいといったのは君だろう」
夫から“詰められた”妻は…
夫の言葉を受けた妻はようやく重い腰を上げ、パートから派遣社員に。夫婦の手取りは月に約52万円となりました。しかし、これから長女が大学に進学することを考えると悩みはつきません。
夫婦はなんとか自分たちの収入だけでやりくりしながら、補助金や児童手当を高校3年間分(約200万円)貯蓄し、大学費用に備えようと考えているそうです。
2026年度より制度の拡充へ
2026年3月31日には、高校授業料の無償化について2026年度から拡充する改正法が可決、成立しました。具体的には、高校生向けの「就学支援金」の所得制限が撤廃されます。また、全日制の私立高校に通う場合、支給上限が全国一律で年45万7,200円に引き上げられます。
「高校無償化」という言葉のインパクトは大きいですが、実態は「授業料の一部が支援される制度」であり、教育費全体をカバーするものではありません。
「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、制度の範囲を正しく理解し、家計全体で教育費をどう支えていくかを考えましょう。
石川 亜希子
CFP
