NHK連続テレビ小説『風、薫る』で、主人公・りん(見上愛)の母親・美津を演じているのが水野美紀だ。武家の娘として生まれ、娘たちを優しく見守りつつ、いざとなったら強さも見せる母として、安定した演技を見せている。

【写真】ヘアヌードを初披露して話題に…映画『恋の罪』に出演した当時37歳の水野美紀


水野美紀 ©︎時事通信社

大河ドラマでは眉を剃り、女郎屋の女将を熱演

 水野といえば、昨年の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』で、吉原の女郎屋を切り盛りする眉毛のない女将・いねを熱演したことが記憶に新しい。冷たく見えるが、女郎たちの苦楽を知り尽くしており、彼女たちを温かく見守る役柄を十二分に表現していた。眉は特殊メイクによって消していたが、水野が極限まで眉を剃ったおかげでメイクを時短できたという。

 水野美紀ほど波乱万丈の俳優人生を送っている人もいない。また、水野美紀ほど演じた役の幅が広い俳優もいないだろう。エキセントリックな奇人役も穏やかな善人役もお手のもの。その上、今でも第一線どころか大河ドラマと朝ドラというメインストリーム中のメインストリームで大きな役を演じているのだから、本当に稀有な存在だと言える。

デビュー作は宇宙人役…アフレコで「ヴエエエ」

 1974年、三重県四日市市出身。小学6年生のときにマンガ『ガラスの仮面』を読んで俳優に憧れた。少林寺拳法の道場に通っていた経験も持つ。中学1年のとき、コンテストで準優勝したのをきっかけに大野しげひさが代表を務める事務所にスカウトされ、中学卒業とともに上京。デビュー作の特撮ドラマ『地球戦隊ファイブマン』(1990年)では、怪獣になって戦う敵の宇宙人役を演じた。アフレコで「ヴエエエ」という声を出すのが大変だったという。

18歳で唐沢寿明と共演、「チューして」のセリフが話題に

 一躍注目を集めるきっかけになったのが、18歳のときに唐沢寿明と共演したコーセーの化粧品「ルシェリ」のCMだ。「チューして」というセリフとその後、本当にキスをする場面が話題になった。頬に軽くキスするだけと聞かされていたが、監督と唐沢の間では唇にキスをすることが決まっていたという逸話がある。

 同時期に話題になったのが、カプコンのゲーム『ストリートファイターII』のCMだ。水野は人気キャラクター・春麗のコスプレ姿で見事なハイキックを披露。上京してからはアクション俳優・倉田保昭率いる倉田アクションクラブでトレーニングを積んでおり、その成果でもある。「水野美紀のCMといえばルシェリよりストII」というファンも少なくない。ロスの市街地で逆さ吊りになって「スピニングバードキック」を再現する予定だったが、ロス暴動の影響で中止になったらしい。

 2つのCMで注目を集めた水野は、1994年に大手芸能事務所のバーニングプロダクションに移籍。順調にドラマと映画への出演を重ねていった。就職氷河期の若者を描く『夢みる頃を過ぎても』(1994年)や内田有紀主演の月9『翼をください!』(1996年)などのドラマで等身大の女性像を演じる一方、映画『ガメラ2 レギオン襲来』(1996年)ではヒロインを演じている。

『踊る大捜査線』で人気確立 演技とアクションの“二刀流”も

 キャリアにおいて決定的だったのが、ドラマ『踊る大捜査線』(1997年)への出演だった。殺人事件の被害者の娘として登場した後、警察官を目指す女性・柏木雪乃を演じた水野は、スペシャルドラマ、劇場版にも出演し、シリーズの盛り上がりとともに絶大な人気を博した。シリーズ当初は青島(織田裕二)と恋仲になるプランもあったそうだが、いつの間にか立ち消えになったという。

 ヒロイン役や主演が増えていく中、映画『千里眼』(2000年)では香港アクション並のバトルを演じて、アクション俳優としての覚醒ぶりを印象づけた。内村光良とダブル主演を務めたドラマ『恋人はスナイパー』(2001年)でも、第1話の冒頭から激しいアクションを披露している。等身大の演技と激しいアクションの“二刀流”ができる日本では数少ない若手俳優だった。

舞台との出会いと独立トラブル

 2002年、劇団☆新感線の舞台『アテルイ』を経験して大きな衝撃を受けた水野は、2005年にバーニングプロダクションから突如、独立する。その理由を次のように語っている。

〈「自分が映像で培ってきたお芝居の経験や感覚が、舞台では全く通用しなかったんです。それがもう新鮮で、とにかく舞台に出て芝居がうまくなりたい、と。でも、その方向は事務所のカラーとは決定的に違っていて、だったら一人でイチからやってみよう、ということで辞めたんです」(『週刊文春』2009年4月9日号)〉

 テレビの仕事は捨てる覚悟だった。事実、水野のテレビ、メジャーな映画への出演は激減した。『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』(2010年)でも出番は与えられなかった。

 テレビの仕事は激減したが、自身の言葉どおり、阿佐ヶ谷スパイダース、PIPER、ナイロン100℃など、名だたる舞台に出演し続けた。2007年には演劇ユニット「プロペラ犬」を設立。近年は脚本と演出も担当しながら精力的に公演を行っている。個人事務所を設立し、自身でメールをやりとりしながらマネジメント業務をこなしていった。余談だが、筆者はこの頃、水野に直接連絡して取材させてもらったことがある。

ヘアヌードから日本刀アクションまで…挑戦続いた30代

 この時期は風変わりな映画の仕事も多い。白石晃士監督の『口裂け女』(2007年)では特殊メイクを施し、巨大なハサミを持った悲しきモンスター「口裂け女」を熱演。押井守総監修の実写映画『真・女立喰師列伝』(2007年)では西部劇風の世界で二丁拳銃を操る「バーボンのミキ」を演じた(監督は辻本貴則)。

 辻本監督の『ハード・リベンジ、ミリー』(2008年)は、荒廃した近未来を舞台に、夫と子を殺された主婦が仕込み刀と格闘術で仇を皆殺しにする低予算ハードバイオレンス映画。翌年には、同監督でゴア描写が進化した続編『ハード・リベンジ、ミリー ブラッディバトル』も作られている。

 香港で撮影した『さそり』(ジョー・マ監督/2009年)は、水野が宙吊りで拘束されたり、刑務所内で凄絶なリンチを受けたり、日本刀アクションを披露したりするのに、ストーリーがよくわからない珍品。ワイヤーを使ったスタントはスタッフがよそ見をしていて本当に危険だったという(『5時に夢中!』2025年8月6日)。園子温監督の『恋の罪』(2011年)は主役扱いで、ヘアヌードを披露し、自慰シーンもあるのに、出番がごくわずかという変な作品だった。

「怪演女優」として再びメインストリームへ

 日曜劇場『空飛ぶ広報室』(2013年)に出演するなどテレビの仕事も増え、映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012年)で人気シリーズへの復帰も果たした水野が、本格的に再ブレイクしたのは2017年のこと。

 きっかけは鈴木おさむ脚本の“ドロキュン”サスペンスドラマ『奪い愛、冬』での「怪演」ぶりだった。特にキスを交わしている主人公たちに向かって「ここにいるよぉ〜」と言いながらクローゼットから飛び出して高笑いするシーンは語り草に。

 水野は「それまで舞台で培ってきたものをもっと出してみようとも思ったんです」と演技のコンセプトを明かしている(「THE CHANGE」2025年10月28日)。舞台でのハイカロリーな芝居をテレビドラマに持ち込んで見事に成功。ドラマはカルト的な人気を得て、2019年には『奪い愛、夏』も制作された。

 その後もドラマ『となりのナースエイド』(2024年)で頼りがいのあるベテランのナースエイドを演じたかと思えば、『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』(2025年)では娘の仇をとるために全身整形して若返る主人公を怪演した。

「若い頃の煩わしさから解放され、やりたいことが自由にできる」

 43歳で出産を経験したことも大きな転機になった。目の前の仕事に没頭していたこれまでとは変わって、社会との接点が増え、自分と家族に向き合い、人生を振り返ることも増えたという。

 水野はこれまでの人生を「ずっと迷っているというか、茨の道を歩いているイメージです」と表現する(「大人のおしゃれ手帖web」2026年3月11日)。その一方で、今は「若い頃の煩わしさから解放されて、やりたいことが自由にできると感じることが多いし、チャレンジしたいことも年々増えていっています」と力強く前を向いている(「OTONA SALONE」 2025年10月21日)。

 特技は今でも「回し蹴り」で、旋風脚の練習を日課にしている。年齢をまったく感じさせないが、逆に何歳の役柄でも演じてしまいそうだ。可憐な少女から口裂け女まで、どんな役柄にもチャレンジして自分のものにしてきた。

「我々の仕事のご褒美は、ギャラじゃなくて次の仕事ですから」(公式YouTube 2024年8月16日)。この言葉を地で行く水野美紀。次はどんな役を演じるのか、想像もつかないが、きっとすごいものに違いない。

(大山 くまお)