年収3000万円、資産5000万円の50代男性が「明日生きられない」と絶望...圧倒的に稼ぐエリートでも”家計の黒字倒産”に至る意外な理由
世間では、年収2000万円を超えるような高所得者は、将来不安とは無縁だと感じる人がほとんどだろう。都心のマンションに住み、教育にもお金をかけ、日々の支出にそれほど神経質にならずに暮らしている--。そんなイメージを抱く人も少なくない。
たしかにそれだけの入金力があれば、昨今の物価高や電気代の高騰、少々の相場の波乱など、痛くも痒くもなく乗り越えられるように思える。メディアも彼らを別世界の勝ち組として報じがちだ。
しかし、現実はそう甘くない。年収数千万円を稼ぎ出しながら、なぜか手元に現金がなく、ある日突然立ち行かなくなる。
前編『新NISAブームの裏で浮上する「大増税」…凄腕FPが明かす“勝ちパターン崩壊”の実情』に続き、昨今エリート層の間で起きている、いわゆる“家計の黒字倒産”の実態を、ファイナンシャルプランナーの鳥海翔氏が明かした事例から見ていこう。
年収3000万円・資産5000万円で絶望していた相談者
鳥海氏のもとには、特定の企業や業界に強く依存して高収入を得てきた人たちからの切実な相談が目立っている。
例えば、あるIT系関連の特殊な営業職や、政治家の秘書、イベント・タレント関連のマネジメントなど、一種の「特需」や極めて属人的なポジションで年収2000万〜3000万円を稼ぎ出すエリートたちがいる。彼らは高い専門性を持つがゆえに、状況が一変した際のリスクに無防備になりやすい。
「直近でも、特定の企業から専属フリーランスのような形で業務を請け負い、ピーク時は年収3000万円近く稼いでいた50代後半の男性が相談に来られました。彼は企業の組織変更に伴い、業務が内製化されることになり、年齢を理由に社員登用も断られ、事実上のクビ宣告を受けました」(鳥海氏、以下同)
突然職を失ったショックで、男性はうつ病の一歩手前まで追い詰められていたという。しかし、鳥海氏が家計のヒアリングを行うと、意外な事実が判明した。
なんと、手元には5000万円ものまとまった資産があり、遠くない未来に親からの相続財産も入る予定だったのだ。適当なアルバイトで食いつなぐだけでも、老後はまったく問題のない状況である。
「5000万円も資産があるのに、『明日生きられない』と絶望の淵に沈んでいました。金銭的な余裕は十分にあったにもかかわらず、です。原因は『自分が毎月いくら使っていて、今後どうお金が推移していくのか』という長期的なキャッシュフローを一度も計算したことがなかったから。目の前の収入が途絶えたショックだけでパニックになり、完全に視野が狭くなっていました」
高収入世帯を襲う“見えない借金”
前述の男性は「資産5000万円があるのに絶望した」という心理的な錯覚だったが、より深刻なのは、高収入でありながら実際にキャッシュフローが回らなくなる、真の“家計の黒字倒産”に陥るケースだ。
社会的信用の高さ、すなわち“属性の強さ”が仇となり、過剰な借金を背負い込んでしまうのである。
ある子どもを持つ高収入の専門職女性(年収1500万〜2000万円)は、「老後に賃貸物件が借りられなくなるかもしれない」という過度な不安から、都心郊外に高額なタワーマンションを購入してしまった。
「フタを開けてみると、完全にローンまみれでした。月15万〜20万円の住宅ローンに加え、教育ローンが1000万円。さらに、大学生の子ども2人に対して、家賃や仕送り、高額な習い事の費用などを含め、毎月数十万円という常軌を逸した金額を支援し続けていたんです」
低解約返戻金型の生命保険にも加入しており、資金は完全にロック状態...。教育ローンの返済に回す余裕すらなく、利息だけが雪だるま式に膨れ上がっていたという。
「こうした専門職は社会的信用が高いため、数千万円単位のローンが簡単に組めてしまいます。自分の家計に巨大な爆弾を抱えていることに薄々気づきながらも、ブレーキの踏み方がわからなくなっていたのです」
年収は高いのに苦しい。黒字倒産する人の共通点
普段は論理的なエリートたちが、なぜこんな単純なミスを犯すのか。それは、毎月大きな額が振り込まれることによる錯覚と、いざという時に現金化しにくい資産ばかり持っているからだ。
クレジットカードで無意識に決済を繰り返しても、毎月大きな収入が入ってくるため、口座の残高だけを見て「まだ余裕がある」と錯覚してしまう。毎月の「実質の生活費」という数字を直視する機会がないのだ。
「いざ収入の柱が折れた時、『じゃあ、明日から生活レベルを下げよう』と急ブレーキを踏める人はほぼいません。一度上げてしまった生活水準を下げるのは至難の業だからです。焦って不動産を手放そうとすれば足元を見られ、1億円で買った物件を9000万円で売却することになり、一撃で1000万円の損失を被るリスクすらあります」
さらに年齢を重ねれば、親の介護費用のような想定外の出費も突然やってくる。使うお金は一切減らせないのに、入ってくるお金だけが唐突に途絶える...。そんな恐ろしい事態が、高収入世帯に降りかかる黒字倒産の実態だ。
では、すでに首が回らなくなっている場合、どうやって家計を立て直せばいいのだろうか。前述のローンまみれの医師に対して、鳥海氏が実際にアドバイスした手順は極めて現実的だ。
複雑に絡み合った保険と借金を整理するため、まずは低解約返戻金型の生命保険を返戻率が跳ね上がるタイミングまでキープさせ、上がった瞬間に解約して教育ローンの完済に充てるようプランを組んだ。
「同時に、日常の無駄な出血を徹底的に止めました。大手キャリアから格安スマホへ変更し、重複していた医療保険を解約。そして何より、子どもへの過度な支援をやめさせ、月額の上限を明確に決めさせました。家計簿をつけさせ、使途不明金をあぶり出した上で、月5万円程度の少額から積立投資をスタートさせたのです」
「子どもが大学を卒業したら、それまで支援に回していた月数十万円を全額投資に回せる」という明確なゴールを見せたことで、彼女の精神的な不安は劇的に改善された。
高収入世帯の最大の強みは、一度余分な出費を塞いでしまえば、圧倒的な入金力で家計がV字回復することだ。
「年収が高い方々がお金に困る根本的な原因は、増税でもインフレでもなく、管理能力の欠落です。裏を返せば、高収入だからこそ、支出のコントロールさえ身につければ、極めて再現性高く資産を作れるのです」
タワマンやお受験自体が悪いわけではない。自分がコントロールできないほどの固定費を無自覚に背負い込むことが危険なのだ。
外部要因に怯える前に、まずは自分の口座の引き落とし履歴と真正面から向き合う。それが、もっとも確実で最強の資産防衛戦略となるだろう。
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