「またまた神奈川県警か…」不祥事のデパートに警察庁長官もオカンムリ 過去には県警本部長が“警官の覚せい剤事件”を隠蔽
「重大な事案だ」
2月の会見で、警察庁の楠芳伸長官は憤懣やるかたない表情でこう述べた。神奈川県警で発覚した交通違反の取り締まりを巡る“組織ぐるみ”の不祥事についてである。関係者は「警察内でも神奈川県警は、大阪府警と並ぶ『不祥事の量販店(デパート)』と揶揄されている」と指摘。県警ではこれまでも個人の資質が問われる事件が数多くあったが、組織的隠蔽体質も指弾されてきた。“懲りない神奈川県警”に特効薬はあるのだろうか。
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Googleマップで手軽に“捜査”
まずは今回の不祥事を簡単に振り返る。神奈川県の中西部を所管している県警第2交通機動隊で、茅ケ崎市に拠点を置く第2中隊第4小隊が2022〜24年に実施した取り締まりに関し、今年の2月になって不正が発覚、県警が2716件の違反を取り消した。

スピード違反の取り締まりでは、違反を確認するため、相手の車両を追跡して速度を計測するが、小隊所属の巡査部長らは、実際よりも長い距離を追跡したように青キップ(交通反則切符)にウソの記載を繰り返していた。県警の内部調査では、改竄に手を染めた警察官が他にも複数おり、不正は小隊ぐるみだった。
取り締まりは複数人で行われるが、経験豊富な巡査部長を注意する隊員はいなかった。違反者が反則金を支払わない場合、書類送検や逮捕といった刑事手続きに向けて実況見分調書を作成する必要があるが、巡査部長らは現場に行かないまま、GoogleマップやYahoo地図など、インターネットの地図を流用するなどして虚偽の調書も作成していた。県警は納付済みの反則金約3400万円を返還して違反点数を抹消するなど、取り消し作業を実施する方針だ。巡査部長ら7人は虚偽有印公文書作成容疑で書類送検され、主導的立場だった巡査部長は懲戒免職。ほか6人は停職処分などになった。
今村剛県警本部長は記者会見を行い「深くおわび申し上げる」と頭を下げたが、県警の体たらくに対し、警察庁の楠長官は2月19日の定例記者会見で「危険性の高い違反行為に重点を置いて取り締まりを行う必要がある」と強調した上で「前提として、取り締まり自体が適正に行われなければならない」と糾弾。神奈川の問題点を踏まえて全国の警察本部に再発防止策の徹底を指導する方針を示した。
神奈川県警では2011年3月、逗子ストーカー殺人事件で加害者に脅迫罪の逮捕状を執行した際、令状に記載された被害女性の結婚後の名字や転居先の住所を2度も読み上げてしまう不手際があり、加害者が被害女性の新たな名字や住所を知ったことが殺人事件に繋がった。
また08年2月には、警備部警備課長だった警視が「神世界事件」と呼ばれる被害総額100億円に上る霊感商法事件に関与していたとして懲戒免職処分となり、詐欺容疑で逮捕状が出ていた神世界グループの“教祖”の逃亡を助けたとして犯人隠避容疑で逮捕されるなど、警察官としての個人の資質が問われる不祥事が後を絶たない。
一方で、20世紀最後の年となった1999年から2000年にかけては、警察史上、例を見ない不祥事の続発があり、急遽、警察刷新会議が設置された上で抜本的な警察改革が断行された。実はこの時“口火”を切ったのは、神奈川県警の組織的な不祥事だった。
不祥事が続発
端緒となった1999年9月2日の一報は、時事通信が配信したスクープだった。神奈川県警厚木署地域1課・集団警ら隊の分隊長だった巡査部長ら5人が、新たに入隊した20代の巡査4人を殴ったり、拳銃を突き付けたり、手錠を掛けたりして集団で暴行し、県警がこの5人と上司の警部補2人の計7人を停職や減給などの処分にしながら公表していなかった事実が明らかにされた。
暴行は同年3月から7月にかけて複数回あり、体毛をライターで焼いたケースでは写真も撮影されていた。報道を受けて記者会見した県警側は「新隊員の教育に行き過ぎがあった」としつつも「部内の問題」と非公表にした判断を弁明したが、警察庁の関口祐弘長官(当時)は記者会見で「あるまじき行為」と述べ、深山健男県警本部長(同)は引責辞任に追い込まれた。
同10月26日には埼玉県桶川市で桶川ストーカー殺人事件が発生。所轄の県警上尾署が被害者の女子大生や家族からの被害相談をずさんに扱っていたことが明らかになったほか、翌2000年1月28日には、新潟県三条市で9年間にわたって監禁されていた少女を新潟県警が保護。翌日には未成年者略取・逮捕監禁致傷容疑で家宅捜索に着手したが、誘拐捜査の不手際に加え、保護の報告を受けた県警本部長が視察に来ていた警察庁特別監察チームの関東管区警察局長との宴席を優先し、本部に戻らなかった事実が表面化した。
この問題は「被害者感情を踏みにじり、雪見酒に興じていた」と世論の批判を浴びた。
本部長が事件を隠蔽も
そして、この時期に相次いだ警察不祥事にとどめを刺したのも、神奈川県警だった。
1996年12月12日、警備部外事課に所属していた男性警部補が横浜市西区のマンションで、不倫相手の女性に頼んで腕に覚せい剤を注射。翌13日未明、朦朧とした状態で自ら県警本部に犯行を名乗り出たものの、報告を受けた渡辺泉郎県警本部長(当時)が握りつぶすように指示し、不倫を理由に諭旨免職にした上で尿検査の結果が陰性になるのを待って薬物対策課に捜査させ、事件化を見送っていたことが1999年になって発覚したのだ。
元警部補は不祥事発覚を受けて覚せい剤取締法違反の罪に問われ、懲役1年6月・執行猶予3年の有罪となり、犯人隠避罪に問われた渡辺元本部長は懲役1年6月・執行猶予3年。他に隠蔽工作にかかわった幹部警察官4人にも有罪判決が言い渡されている。
一連の警察不祥事を受けて1999年11月16日、小渕恵三首相(当時)は「言語道断」と異例の発言。2000年3月2日には田中節夫警察庁長官(同)が監督責任を問われ、減給の懲戒処分を受けた。こうしたことから国家公安委員会は有識者でつくる警察刷新会議を発足させ、同会議が行った提言を踏まえて警察庁は同8月、「国民のための警察の確立」や「警察行政の透明性の確保と自浄機能強化」を柱とする警察改革要綱を策定したという経緯がある。
警察庁元幹部は「怒鳴り散らすといった暴力団まがいの強権的な取り調べなど大阪府警も問題は少なくないが、神奈川県警の組織的な隠蔽体質も警察内部では問題視される機会が多い」と語る。
日本の警察は自治体ごとに細分化されているため、地域ごとに違いが生じがちだ。捜査関係者は問題点をこう語る。
「地方で警察といえば、超優良な就職先で、地域にとどまるエリートが採用される。一方で首都を預かり、ドラマにも頻繁に登場する警視庁は、全国から選りすぐりの警察志願者が集まり、優秀な人材も少なくない。表現は適切ではないが、採用試験で東京に隣接する神奈川や埼玉は、警視庁志願者の第二志望や第三志望かスベリ止め。人材の質の相違を指摘する声は根強い」
また、別の関係者は「警察内で教養と呼ぶ小手先の研修や教育では、根本的な改善は望めない」と懐疑的だ。警察官の“質”の問題解消には、自治体ごとの採用を抜本から変えるしかない、ということか。
神奈川県警では川崎臨港署が2024年6月以降、女性やその親族からストーカーの相談を受けていたにもかかわらず殺人事件を未然に防ぐことができず、昨年4月に遺体を発見。5月にストーカー規制法違反容疑で遺体が遺棄されていたマンションに住む男を逮捕し、同7月には殺人容疑で再逮捕した。後手の対応は「逗子ストーカー事件が教訓として生きていない」と批判を浴び、県警は同9月に検証結果と今後の改善策をまとめた報告書を公開している。
先の警察庁元幹部は「4月1日からは道交法の改正で自転車の交通違反にも赤キップが切られるようになる。“ながらスマホ”などの防止が目的だが、交通違反の取り締まりが正しく行われていなければ、違反者から協力を得るのは難しくなる。またぞろ発覚した神奈川県警の不祥事が全国の取り締まり現場に悪影響を与えないことを願いたい」と話す。
神奈川県警の不祥事は、横浜を舞台にした人気シリーズ「あぶない刑事」よろしく「またまた」となるか、それとも「さらば」となるか……。
岡本純一(おかもと・じゅんいち)
ジャーナリスト。特捜検察の捜査解説や検察内部の暗闘劇など司法分野を中心に執筆。月刊誌「新潮45」(休刊中)では過去に「裏金太り『小沢一郎』が逮捕される日」や「なぜ『東京高検検事長』は小沢一郎を守ったか」などの特集記事を手掛けた。
デイリー新潮編集部
