2020年版『東京ラブストーリー』はなぜ「隠れた名作」と言われるのか 大ヒットした1991年版との明確な違い
●月9のシンボル的作品を29年ぶりリメイク
lead=『東京ラブストーリー』(フジ系、FODで配信中)は、今なお語られることの多い月9ドラマのシンボル的な作品だが、20年にFODなどの配信ドラマとして29年ぶりにリメイクされていた。令和の20年版は平成の91年版とどこが違い、どんな見どころがあるのか。できるだけネタバレを避けながらその本質をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。
19日にドラマ『102回目のプロポーズ』(FOD)の配信がスタートした。同作は1991年に放送された『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系、FODで配信中)の続編であり、35年の時を経て制作されたことが話題を集めている。
同作を見ながら思い浮かんだのが、同じ91年に放送された『東京ラブストーリー』(フジ系、FODで配信中)。今なお語られることの多い月9ドラマのシンボル的な作品だが、同作も20年にFODなどの配信ドラマとして29年ぶりにリメイクされていた。
令和の20年版は平成の91年版とどこが違い、どんな見どころがあるのか。できるだけネタバレを避けながら、その本質をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

2020年版『東京ラブストーリー』(C)フジテレビ
○主人公がリカから完治に変わった背景
ドラマ『東京ラブストーリー』は柴門ふみの漫画を実写化した作品であり、登場人物やストーリーの大筋は91年版も20年版もほぼ同じ。「カンチ、セックスしよっか」などの要となるセリフも共通している。
しかし、2020年版を見ていくと、時に「本当に同じ作品?」と思わされてしまうのが面白いところ。29年という年月における人間と社会の変化やドラマシーンの技術的な進歩が感じられる。もちろん91年版を見たことのない人は令和のラブストーリーとして新鮮な楽しさを感じられるだろう。
まずキャストをあげていくと、91年版で織田裕二が演じた永尾完治は伊藤健太郎、鈴木保奈美が演じた赤名リカは石橋静河、有森也実が演じた関口さとみは石井杏奈、江口洋介が演じた三上健一は清原翔、千堂あきほが演じた長崎尚子は高田里穂、西岡徳馬が演じた和賀夏樹は眞島秀和が演じた。
当時、業界内で「次世代主演間違いなし」と言われた若手キャストが集結し、「2020年の東京」という舞台設定に違和感なくフィット。91年版は「素朴な若者たちによる等身大のラブストーリー」というムードがあったが、20年版は恋愛の生々しさとスタイリッシュさが混在した繊細な作品に見える。何よりまず三木康一郎監督らが手がける映像の美しさに驚かされるだろう。特に女優たちと東京の夜景が美しい作品であることは間違いない。
91年版と20年版を見比べて面白いのは主人公が異なること。91年版は女性のリカだったが20年版は男性の完治が主人公となり、それぞれの目線から物語が進んでいく。
ところが91年版は女性が主人公でありながら「完治や三上の行動や意思にリカ、さとみ、尚子らが左右されていく」という当時らしい男性主導の社会構造から描かれていた。一方、20年版は男性が主人公でありながら、女性たちの自立心や決断力にフィーチャー。問題の多い完治や三上に流されることなく自ら決断・行動していく姿が描かれている。
これは「年月の経過とともにそれだけ女性の社会進出が進んだ」という個人と社会の変化を反映させたものだろう。
●「よりまっすぐで強く激しい」リカ
特筆すべきはリカのキャラクターで「自由奔放かつ大胆不敵な都会の女性」として描かれていた。そんな91年版よりまっすぐで強く激しいリカを石橋が熱っぽく演じている。
一方のさとみは91年版とほぼ同様のキャラクターだが、当時嫌われた「男に媚びる女」というニュアンスはそれほど感じさせない仕上がり。これも時を経た女性と社会の変化であり、さらに配信ドラマならではの自由度もあってか、20年版はどこかリアルな痛々しさが漂う作品となっている。
そんなはっきりとした違いがある一方で変わらないのは、視聴者に「キュンキュン」と「モヤモヤ」の両方を感じさせるなど、感情移入をうながしていること。完治のまじめさと葛藤、リカの強さともろさ、さとみの弱さとずるさが濃密に描かれ、「男ってけっきょく、さとみみたいな子が好きだよね」「リカは魅力的だけど、ちょっと引いちゃうところもある」などのコメントを引き出した。
91年版を見た人にとって20年版はいくつかの驚きがあるだろう。なかでもその最たるものは終盤の展開。原作漫画から91年版ではカットされた衝撃的な事態がリカと完治に訪れ、シビアな決断を迫られる。制作サイドは、最終話を見終えたとき、それぞれの決断や結末に賛否の声があがる脚本・演出を用意していた。この衝撃的な展開はゴールデン帯の月9ドラマでは避けたいようなものであり、配信ドラマの自由さを感じさせられる。
○今年、再評価が期待されそうな背景
20年版が配信された6年前、見た人々の声はおおむね肯定的で「知る人ぞ知る名作」という声もあがっていた。
原作漫画や91年版の良さをベースにしつつ、次世代スター候補を集めて、どちらとも異なる令和の東京らしい世界観を生み出し、差別化に成功。スマートフォンやSNSの登場、洗練された映像美、小田和正からVaundyに変わった主題歌なども、新鮮さや質の高さを感じさせた。
その20年版は、最終話が配信された直後の同年6月に男性2番手の清原が脳出血となるという悲劇に見舞われた。さらに同年10月には主演・伊藤が自動車運転中に接触事故を起こし、相手が負傷。事故対応をせず立ち去ったことから逮捕されるという不祥事を起こしてしまった。
これらによって作品として評価される機会が失われていたが、今年後半に風向きが変わるかもしれない。ヒロインの石橋が今秋の朝ドラ『ブラッサム』(NHK)主演に起用されるだけに、彼女の演技が称賛を集めた20年版が再評価される可能性もありそうだ。
ともあれ全国各地の若者たちが令和の今でも「東京って楽しそう」「こんな恋愛がしてみたい」と憧れを抱ける作品であることは確かだろう。冒頭にあげた『102回目のプロポーズ』とともに平成ドラマの令和リメイク成功例となれば、さらに他作品のリメイクにつながっていくのではないか。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
lead=『東京ラブストーリー』(フジ系、FODで配信中)は、今なお語られることの多い月9ドラマのシンボル的な作品だが、20年にFODなどの配信ドラマとして29年ぶりにリメイクされていた。令和の20年版は平成の91年版とどこが違い、どんな見どころがあるのか。できるだけネタバレを避けながらその本質をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。
同作を見ながら思い浮かんだのが、同じ91年に放送された『東京ラブストーリー』(フジ系、FODで配信中)。今なお語られることの多い月9ドラマのシンボル的な作品だが、同作も20年にFODなどの配信ドラマとして29年ぶりにリメイクされていた。
令和の20年版は平成の91年版とどこが違い、どんな見どころがあるのか。できるだけネタバレを避けながら、その本質をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

○主人公がリカから完治に変わった背景
ドラマ『東京ラブストーリー』は柴門ふみの漫画を実写化した作品であり、登場人物やストーリーの大筋は91年版も20年版もほぼ同じ。「カンチ、セックスしよっか」などの要となるセリフも共通している。
しかし、2020年版を見ていくと、時に「本当に同じ作品?」と思わされてしまうのが面白いところ。29年という年月における人間と社会の変化やドラマシーンの技術的な進歩が感じられる。もちろん91年版を見たことのない人は令和のラブストーリーとして新鮮な楽しさを感じられるだろう。
まずキャストをあげていくと、91年版で織田裕二が演じた永尾完治は伊藤健太郎、鈴木保奈美が演じた赤名リカは石橋静河、有森也実が演じた関口さとみは石井杏奈、江口洋介が演じた三上健一は清原翔、千堂あきほが演じた長崎尚子は高田里穂、西岡徳馬が演じた和賀夏樹は眞島秀和が演じた。
当時、業界内で「次世代主演間違いなし」と言われた若手キャストが集結し、「2020年の東京」という舞台設定に違和感なくフィット。91年版は「素朴な若者たちによる等身大のラブストーリー」というムードがあったが、20年版は恋愛の生々しさとスタイリッシュさが混在した繊細な作品に見える。何よりまず三木康一郎監督らが手がける映像の美しさに驚かされるだろう。特に女優たちと東京の夜景が美しい作品であることは間違いない。
91年版と20年版を見比べて面白いのは主人公が異なること。91年版は女性のリカだったが20年版は男性の完治が主人公となり、それぞれの目線から物語が進んでいく。
ところが91年版は女性が主人公でありながら「完治や三上の行動や意思にリカ、さとみ、尚子らが左右されていく」という当時らしい男性主導の社会構造から描かれていた。一方、20年版は男性が主人公でありながら、女性たちの自立心や決断力にフィーチャー。問題の多い完治や三上に流されることなく自ら決断・行動していく姿が描かれている。
これは「年月の経過とともにそれだけ女性の社会進出が進んだ」という個人と社会の変化を反映させたものだろう。
●「よりまっすぐで強く激しい」リカ
特筆すべきはリカのキャラクターで「自由奔放かつ大胆不敵な都会の女性」として描かれていた。そんな91年版よりまっすぐで強く激しいリカを石橋が熱っぽく演じている。
一方のさとみは91年版とほぼ同様のキャラクターだが、当時嫌われた「男に媚びる女」というニュアンスはそれほど感じさせない仕上がり。これも時を経た女性と社会の変化であり、さらに配信ドラマならではの自由度もあってか、20年版はどこかリアルな痛々しさが漂う作品となっている。
そんなはっきりとした違いがある一方で変わらないのは、視聴者に「キュンキュン」と「モヤモヤ」の両方を感じさせるなど、感情移入をうながしていること。完治のまじめさと葛藤、リカの強さともろさ、さとみの弱さとずるさが濃密に描かれ、「男ってけっきょく、さとみみたいな子が好きだよね」「リカは魅力的だけど、ちょっと引いちゃうところもある」などのコメントを引き出した。
91年版を見た人にとって20年版はいくつかの驚きがあるだろう。なかでもその最たるものは終盤の展開。原作漫画から91年版ではカットされた衝撃的な事態がリカと完治に訪れ、シビアな決断を迫られる。制作サイドは、最終話を見終えたとき、それぞれの決断や結末に賛否の声があがる脚本・演出を用意していた。この衝撃的な展開はゴールデン帯の月9ドラマでは避けたいようなものであり、配信ドラマの自由さを感じさせられる。
○今年、再評価が期待されそうな背景
20年版が配信された6年前、見た人々の声はおおむね肯定的で「知る人ぞ知る名作」という声もあがっていた。
原作漫画や91年版の良さをベースにしつつ、次世代スター候補を集めて、どちらとも異なる令和の東京らしい世界観を生み出し、差別化に成功。スマートフォンやSNSの登場、洗練された映像美、小田和正からVaundyに変わった主題歌なども、新鮮さや質の高さを感じさせた。
その20年版は、最終話が配信された直後の同年6月に男性2番手の清原が脳出血となるという悲劇に見舞われた。さらに同年10月には主演・伊藤が自動車運転中に接触事故を起こし、相手が負傷。事故対応をせず立ち去ったことから逮捕されるという不祥事を起こしてしまった。
これらによって作品として評価される機会が失われていたが、今年後半に風向きが変わるかもしれない。ヒロインの石橋が今秋の朝ドラ『ブラッサム』(NHK)主演に起用されるだけに、彼女の演技が称賛を集めた20年版が再評価される可能性もありそうだ。
ともあれ全国各地の若者たちが令和の今でも「東京って楽しそう」「こんな恋愛がしてみたい」と憧れを抱ける作品であることは確かだろう。冒頭にあげた『102回目のプロポーズ』とともに平成ドラマの令和リメイク成功例となれば、さらに他作品のリメイクにつながっていくのではないか。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
