生誕100年

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 本年は、作家・星新一氏(1926〜1997)の生誕100年である。1月1日の全国紙全5段広告〈文学は、エバーグリーン。〉で、それを知った方も、多いだろう。「ショートショート」と称される掌編SF小説を中心に書きつづけ、その数は、1983年に「1001編」を達成した。現在、新潮社だけで、新潮文庫45点(すべて電子書籍あり)を中心に、全集3巻、電子書籍9点、オンデマンド版10点、そのほか評伝など関連書5点と、膨大な数が刊行されている。

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 いったいなぜ、星新一作品は、こんなに長く読まれつづけるのだろうか。

 星新一氏次女、星マリナさんに星作品の魅力などについて、お話をうかがうことができた。星マリナさんは、星作品の著作権管理会社・星ライブラリの代表をつとめている。

生誕100年

常に新しい読者が生まれている理由

――お父様の星新一さんが「生誕100年」と聞いて、どんな思いですか。

「すなおに、うれしいし、おめでたいことだと思います! 生誕100年であることに、気づいてもらえるひとって、そんなにいないと思うんですよ。父は、1983年に、ショートショート1001編を達成しましたが、1987年に推理作家協会の会報に近況報告を寄せた際、『あと10年も本が売れれば、もう文句はない』と書いてるんです。ですが実際には、10年どころか、今も読まれつづけています。とてもうれしいことです」

――なぜ、こんなに長く読まれるとお考えですか。

「もちろん、面白いからだと思うんですが、いまのひとは、長いものが読めないといわれてますよね。そんな時代に、5〜10分で読めるショートショートは、ピッタリなのではないでしょうか。理論社から父のショートショートの児童書シリーズが出ているのですが、それが多くの小学校の教室や図書室に置かれているらしく、新しい読者が常に生まれているんです。学校の“朝の読書”で読むにもちょうどいい長さなので、そのために文庫を買う人も多いのだと思います」

――ご自宅では、どんなお父様でしたか。

「実は、その答えになる本が、今年、新潮社から出る予定なんですよ。父の単行本未収録エッセイ集です。父は、自分のことを書いたエッセイは、単行本化の際に、なるべく外していたみたいなんです。それらのエッセイを、書かれている内容の時系列に並べたら、自伝みたいになったんです。面白いですよ。ぜひお読みください!(笑)」

――それではインタビューになりませんので(笑)、もうすこし、家庭での素顔を! 理解のあるお父さんでしたか?

「そうですね。好きなことをやればよい、という感じで、何かをしろとか、何かをしてはいけないと言われたことはないです。作家という職業は継げないから、と書いているのを読んだこともあります。自分が、星製薬を継ぐという重責を背負って育ったので、継げないことはいいことだという考えがあったのかもしれません」

――マリナさんは、学生時代、全日本学生サーフィン選手権で4連覇の偉業を達成してるんですよね。「わたしの波乗り日記 in Hawaii」(1985年 角川文庫)は、ハワイに短期サーフィン留学したときのエッセイで、ご両親がハワイに様子を見にくる話もあるし、星新一さんが解説を書かれていて、マニア必携の“副読本”ですよ。

「学生時代、よくサーフィンの大会のトロフィーを持って帰宅するたび、父はそれを眺めて『へえ〜、すごいなあ』なんて感心してくれました。サーフィンについて反対されたことはないです」

――その後、マリナさんは、TBS系列のTV番組「日立 世界・ふしぎ発見!」でリポーターをつとめてますね。このときもお父様は、なにも言いませんでしたか。

「まったく。わたし自身にも、ずっとリポーターをやっていこうという気は、ありませんでしたから。『ミクロネシアの、電気も水道もない島を取りあげるんだけれど、行ってくれそうなリポーターがいない』というディレクターに、知り合いの水中カメラマンが「ちょうどいい人がいる」とわたしを推薦して決まった、というだけの話なのです」

中国でも人気の「ボッコちゃん」

――それでは、ここから、マリナさんに、お薦めの星新一作品をあげていただきましょう。
(所収文庫は、文末を参照)

「ただのお薦めでは芸がないので、〈星新一の娘が選んだ女性キャラクター・ベスト5〉ではどうでしょうか。最初はやはり、ボッコちゃんですね」

――永遠の名作ですね。「ボッコちゃん」は、1971年にオリジナル短編集として新潮文庫に入り、現在までに、138刷、277万部という、驚異的なロング&ベスト・セラーです。

「ロボットのボッコちゃんには、意思がまったくないのに、まわりで物語がどんどん進んでいくところが面白いですね。この当時、昭和の男性作家や作詞家が書く女性って、未練がましい感じが多かったという印象ですが、ボッコちゃんは、そういう面が皆無で、男性のほうが勝手に自滅してゆく。そこが今でも新鮮です」

――「ボッコちゃん」は、星さんの最初期の作品ですね。

「1958年に、SF同人誌『宇宙塵』に掲載されましたが、すぐに江戸川乱歩さん編集の『宝石』に転載されています。そして1961年に新潮社から出た新書判の短編集におさめられました。ただし、そのときの作品名(書名)は『人造美人』となっています。というのも、当時、大ヒットしていたビニール人形の“ダッコちゃん”に響きが似ており、まぎらわしいと、改題したそうです。のちに、もとの『ボッコちゃん』にもどりました」

――1958(昭和33)年は、アタシが生まれた年ですよ(笑)。そんなむかしに書かれた作品を、いまの若いひとたちがふつうに読んでいるなんて、すごいことですね。

「『ボッコちゃん』は、中国でもすごく人気があるんです。題名は『人造美人』のままです。2021年に新しく翻訳された『人造美人』が、中国のSNS〈ウェイボ〉でその年の〈8月の小説トップ10〉に選ばれたのは、さすがにおどろきました。中国では教科書にも星作品が採用されていて、星新一の知名度はかなり高いようです」

――それでは、〈女性キャラクター〉の2人目は?

「『花とひみつ』の、ハナコちゃんです。花が大好きな女の子で、草木の世話をするモグラがいたらいいなと思って、絵に描きます。その絵を見て勘ちがいした研究者が、ロボットのモグラをつくってしまうのですが。これこそ、まさに、いまの地球に一番必要なロボットですよ!」

――ブラックユーモアとは真逆の、心が温かくなる作品ですよね。

「実は、母が、すごく花が好きだったんです。この『花とひみつ』を読んでいると、ハナコちゃんのモデルは、母のような気がしてならないんです。初出は、和田誠さんが私家版で出版した絵本でした。いつまでも残ってほしい作品です」

泣かせる長編ファンタジー

――なるほど。では、3人目は?

「『ブランコのむこうで』の、マリオくんのママです。これは、父には珍しい長編ファンタジーで、しかも“泣ける小説”です。父は、こういうタイプの小説は、あまり書いていません。いままでショートショートしか知らなかった方に、ぜひ読んでいただきたい作品です」

――これは、記録を見ると、1971〜73年の間に、10冊だけ出た、書き下ろし「新潮少年文庫」のなかの一点ですね。ほかに三浦哲郎さんの「ユタとふしぎな仲間たち」、水上勉さんの「蛙よ、木からおりてこい」(のちに「ブンナよ〜」に改題)、そしてNHKでドラマ化された新田次郎さんの「つぶやき岩の秘密」など、そうそうたる名作が並んでいます。

「その時のタイトルは『だれも知らない国で』でしたが、のちに『ブランコのむこうで』と改題されました。これは、他人の夢のなかに入り込んでしまう、〈ぼく〉の成長ストーリーです。10章に分かれています。そのなかの第4章〈さびしい街〉で、〈ぼく〉は、交通事故で亡くなったマリオくんに間違えられます。現実世界で辛いことを体験した人が、夢の世界で癒される可能性の物語です。表面的にはわからない、その内面に入り込んで、泣けます。しばらく、マリオくんのママのことが頭から離れなくなると思います」

――そして、4人目ですが。

「『ユキコちゃんのしかえし』の、ユキコちゃんです。ユキコちゃんが、“犬がなつくクスリ”を、“強い相手を恐れいらすクスリ”と勘ちがいして使ってしまう。それまで、おとなしい性質で、いじめられることのあったユキコちゃんが、強気になって、いじめっ子に文句を言いにいくわけです。1966年に、朝日新聞に掲載されたのが初出です」

――学校でのいじめがおおやけになり始めたのは、1980年代以降ですから、ずいぶん、早い時期に、この問題を取り上げていたのですね。

「いじめられている子たちに対して、“自信をもってほしい”と、エールをおくっているのではないかと最近気づいて。そこに作者の優しさを感じますね」

――では、いよいよ、最後の5人目です。

「『ほら男爵 現代の冒険』の、ミニラちゃんです。この作品は、別々の雑誌に断続的に発表された中編『ほら男爵』シリーズ4編をまとめた連作集です。ドイツの〈ほらふき男爵〉ことミュンヒハウゼン男爵に孫がいたという設定で、架空のシュテルン・フォン・ミュンヒハウゼン男爵が主人公です。〈シュテルン〉は、ドイツ語で〈星〉のことです。この男爵が、各地を旅するのですが、名作童話や神話、落語などが取り込まれており、さらに、各話ごとに女性キャラクターが登場するのです。第1話は女優のリーラ、第2話は銀行の課長令嬢ピア、第3話は男装のウサちゃん、そして、最終第4話『砂漠の放浪』に登場するのが、ミニラです。1970年に『別冊小説新潮』に掲載されました」

――12歳くらいのアラビア人の少女ですね。和田誠さんの挿絵も、とても可愛らしくて、品があります。

「そうですね。母親が占い師だったので、ミニラちゃんにも少しばかり予知能力があるという設定です。口に出すことばが、いちいち面白いんです。夕日を見ながら『あたしの予感によると、まもなく夜になる……』なんて当たり前のことを言ったりする。わたしと姉が小さい頃の作品なので、2人の言動を参考にしているような気がします。手塚治虫さんの『ブラック・ジャック』の、ブラック・ジャックとピノコちゃんの関係にちょっと似ています。手塚さんもそうだったのではないかと思いますが、父にも、幼い娘の発言が面白い、というのはあったと思います。最後に、このミニラちゃんが、どこの何者なのかが明かされますが、それは、読んでのお楽しみということで」

星新一賞とSFミュージアム

――とても楽しい〈女性キャラクター・ベスト5〉、人間4人とロボット1人でした。そういえば、先日授賞式があった、第13回日経「星新一賞」で、AI作品が多いことが話題になりましたね。

「全体で、一般部門1923編、ジュニア部門184編、計2107編の応募がありました。生成AIを使用した創作も応募可能で、今回は、一般部門受賞4編のうち3編が、創作の過程でAIを使用していました。星新一賞には、プロンプト(AIに対する指示)の制限や、AIの文章を加筆修正して、その記録を残しておかなければならないなどの、細かい応募規定があります。また、AIを使っていることを申告せず、あとで判明した場合は受賞を取り消すというルールもあります。SFは科学と文学の融合なので、AIを禁止するのではなく、どのように使うかのルールを示していくほうが、SFらしくていいのではないかと私は考えています」

――今後は、どんな活動をお考えですか。

「父の残した資料や原稿などの保存整理もさることながら、日本のSF界全体のための〈日本SFミュージアム〉を作りたいと考えています。そこで、多くのSF関係者の資料や原稿などを保存し、継承していけたらいいと思うのです。また、父の作品については、著作権が保護されている間は、作品を管理し、守っていこうと考えています。でも、日本の著作権保護期間は、以前の没後50年から、没後70年に延長されたんですよね。ということは、父の著作権が切れるころ、わたしは105歳ですよ! そんなに生きられるのか……(笑)」

――全然、大丈夫ですよ! 本日は、ありがとうございました。

【次女マリナさんが選んだ、星新一作品〈女性キャラクター・ベスト5〉】
ボッコちゃん(新潮文庫『ボッコちゃん』所収「ボッコちゃん」より)
ハナコちゃん(角川文庫『きまぐれロボット』所収「花とひみつ」より)
マリオくんのママ(新潮文庫『ブランコのむこうで』より)
ユキコちゃん(角川文庫『きまぐれロボット』所収「ユキコちゃんのしかえし」より)
ミニラちゃん(新潮文庫『ほら男爵 現代の冒険』より)

星マリナ(1963〜)
アメリカ・ハワイ在住。星ライブラリ代表。作家・星新一の次女。幼稚園から大学まで青山学院。祖父は星薬科大学創立者・星一。星作品の英訳をてがけ『A Well-Kept Life』など4点の英訳電子書籍を刊行している。編著に『泡沫の歌 森鷗外と星新一をつなぐひと』。

聞き手/森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部