読書家・あいみょんが複数の取材でオススメした小説とは?「正直、後味が悪いんですが…」人間の暗部を描いた魅力に迫る
世界で活躍する大谷翔平選手や、NHK連続テレビ小説『あんぱん』で主演を務めた今田美桜さんなど、今をときめく有名人はどのような本を愛読しているのでしょうか。コラムニスト・ブルボン小林さんが『女性自身』で連載するコラムをまとめた『有名人の愛読書、読んでみました。』から一部を抜粋し、愛読書を通して有名人に鋭く迫ります。今回は、あいみょんさん、明石家さんまさんの愛読書をご紹介します。
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あいみょんの愛読書
『静かに、ねぇ、静かに』
本谷有希子
有名人の愛読書を調べるときに、初めに使うのはやはりネットだ。
「**(有名人の名前) 愛読書」で検索をかける。だいたい、1冊も出てこないのが普通だ。出てきても漫画を挙げていることが多い。1冊でも出てきたら御の字である。
そんな中であいみょんさんは、いきなり10冊以上出てきた。入れ食いだ! あちこちで取材を受ける度、少しずつ異なる本を挙げていて、つまりはかなりの読書家だ。
「官能小説を読む」ことが話題になったり、インスタグラムで彼女が手にしていた本をファンが話題にもしている。
ルーツに関わる愛読書というよりは、取材で聞かれた時点のという感じではあるが、複数の取材でオススメに挙げていた本谷有希子の短編集を読んだら面白くて止まらなくなった!
悪意を超えて「読ませる」魅力
映える写真をSNSにあげ続け、互いを肯定しあう臆病な3人組や、ネット通販に依存しすぎた女など様々な人々の暗部を活写した1冊だ。
その人物造形には悪意がある。主人公たちはこの世界を俯瞰し、他者の俗人性より高みに立っているが、その彼ら自身にこそ愚かさがある。そのことが読者にだけ巧みに俯瞰させるように描かれている。

『有名人の愛読書、読んでみました。』(著:ブルボン小林/中央公論新社)
人物だけでなく、彼らの放り込まれる状況がどれも面白い。海外旅行に出た3人組は常にスマホの充電先を探し、自撮り棒を持って旅の「よさ」を肯定し続ける。犯罪者に拉致され、生命の危険が間近になってさえ自撮りをやめられない。ネット通販依存症の女は倹約家夫婦のキャンピングカーに乗る羽目になり、気持ちや価値観を存分に揺さぶられる。
あいみょん曰く「正直、後味が悪いんですが(笑)、一度ページを開くと止まらなくなりますね」(「ダ・ヴィンチWeb」19年4月19日公開)。たしかに。悪意を超えて「読ませる」エンタメ的な魅力が本書にはある。
あいみょんの奏でる音楽には後味の悪さは決して感じないが、ただ爽やかでもキャッチーなのでもない、うっすらと暗い気配もある。だが悪意や人の愚かさが露骨に出ているわけでもない。それらを咀嚼できる、小説と同質の明晰さが彼女の曲作りにも発揮されているのだろう。
明石家さんまの愛読書
『漁港の肉子ちゃん』
西加奈子
明石家さんまが感動して泣いた映画はアニメ『ツヨシしっかりしなさい』だそうだ。他の誰もそれを名作に挙げない。そもそも映画化してたの? とさえ思った。
『フットボール鷹』という漫画にハマってアメフトに興味を持ったとも言っていた。川崎のぼる作だしきっと面白いのだろうがその漫画名も、テレビで挙げた人を他に知らない。『ツヨシ〜』も『〜鷹』も決してマイナーな作ではないが、なんだか独特な嗜好を持っているように感じられる。
気になって愛読書を調べても判明しなかった(つまり、インタビューなどでもそれを語ることがなかなかなかった)が、気付けば数年前、西加奈子の本作にほれ込み、自らプロデュースして映画化していた。
これも、たとえばビートたけしが映画を作ることと似て非なるふるまいに思える。島田紳助のように「本は読まない」と公言する大物芸人もいたが、そういう風でもなく突然、本に感動して映画化する。なんか、読めない!
彼だけのすさまじい勘
港町に暮らす少女の物語だ。
だらしない、しかし子供のように無垢で純粋な母親に育てられる娘の葛藤と成長を、周囲のさまざまな人物と自然が包み込む。読みやすい文章で魅力的に描かれる一方で、主人公だけが聴きとれる世界の声が自然に溶け込む幻想小説の趣もあり、けなげな母子の人情噺で、これは落涙する人も多かろう。しかし、別にさんまをひねくれ者と思ってなかったが、割に素直な感性だな、とも感じる。
西作品を映画化しようとしたきっかけを問われて「本屋さんに(西加奈子の)『サラバ!』が置いてあって。それでパッと本をめくったら“明石家さんま”って自分の名前が書いてある。それで買って、全部読んだらそのときの一度しか出なかった」と笑わせている(公開時コメントより)。西作品の関西弁のうまさに惹かれた、と続けるが、その後も、原作や映画に関するコメントのはずがいちいち笑いを取りに寄り道するのが他の有名人のインタビューとまるで違う点だ。
しかし、なんだ。誰でも本を「パッ」と買うものだが、その選び方には彼だけのすさまじい勘があるように思えてしまう。アニメのツヨシと漫画の鷹と小説の肉子ちゃんの並びに、既存の価値観の定規は当てはまらない。テレビのひな壇に並ぶタレントのことも、常人には分からない反射的ななにかで感受しているのだろう。

イラスト:死後くん
※本稿は、『有名人の愛読書、読んでみました。』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
