(※写真はイメージです/PIXTA)

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年末年始は絶好の帰省シーズン、子や孫の帰省を心待ちにしている人も多いのではないでしょうか。もっとも、なかにはその帰省を「ストレス」に感じる親もいるようです。大好きな孫に会えるうれしさよりも、娘夫婦への嫌悪感が勝ってしまった60代夫婦の事例から、子が成人した後の親子関係の難しさをみていきましょう。

年金暮らしの夫婦を悩ませるのは…

斉藤正敏さん(仮名・69歳)は妻、早苗さん(仮名・67歳)と都内の持ち家に2人で暮らしています。年金受給額は月に約37万円です。また、ふたりには退職金と合わせて5,000万円ほどの貯金もあります。

もっとも、斉藤夫妻は決して派手に稼いできたわけではありません。長年、公務員として堅実に働き、地道に家計を管理し、貯金に励んできたのです。

その結果、老後の生活には一定の余裕があります。しかし、それは「贅沢をしても減らないお金」ではなく、あくまで「老後の備え」。子どもに迷惑をかけるようなことはしたくない、夫婦はそう考えていました。

そんな夫婦を悩ませているのは、近ごろ目立って増えてきた一人娘の真理子さん(仮名・36歳)からの援助の相談です。

きっかけは、妻の早苗さんの定年退職でした。これで夫婦そろってリタイアとなったことで、真理子さん夫婦がお祝いの食事会を開いてくれました。

その席で、お酒も入ってつい気分がよくなった正敏さんが、軽口のつもりでこう口走ってしまったのです。

「おまえたちに相続税を払わせないように、いまから贅沢しないとな」

当然ながら、深い意味はありませんでした。むしろ、「お金を使って、相続のときに負担を減らしてあげたい」――そんな親心のつもりだったと言います。

しかし、娘夫婦は、正敏さんこの一言を聞き逃しませんでした。

食事会のあと、娘から相談が…

真理子さん夫婦には、4歳の娘、妃葵(仮名・ひまり)ちゃんがいます。斉藤夫妻にとっては、目に入れても痛くない、それはそれはかわいい初孫です。

食事会から数日後、娘から「子どもに新しく習い事をさせたい」という相談がありました。

孫のこととなると、斉藤夫妻の判断も甘くなってしまいます。「月に数千円なら」と、快く費用を負担することにしたそうです。

徐々にエスカレートしていく娘の“おねだり”

しばらくすると、車検と保険料の支払いが重なり、家計が少し厳しいという話。その次は、七五三の費用の相談……斉藤夫妻は、娘家族が本当に困っているのだと思い、自分たちにできる範囲なら、と応じていました。

しかし、娘夫婦からの相談は増える一方です。

「妃葵が、誕生日にこれが欲しいっていってるの。でも、ウチの家計じゃなかなか買ってあげられなくて……」

「妃葵がテーマパークに行きたいっていってるから、お父さんとお母さんも一緒に行かない?」

「そんなに家計が苦しいのか?」という疑問はあったものの、斉藤夫妻は「かわいい孫に不憫な思いをさせたくない」と、援助を続けていたそうです。

しかし、次第に「援助は当然」になり、感謝の言葉も薄れていきました。そして、帰省のたびに、要求する金額は大きくなっていったのです。

真理子さんが2人目を授かったことで、前の年のお正月には「車を買い替えたい」と言われました。もうすぐまたお正月がやってきます。

「今年はなにをおねだりされるのか……お正月なんてこなきゃいいのに」斉藤夫妻は、心が疲弊し始めているのを感じていました。

そして、とうとう、娘夫婦に対して嫌悪感を抱いてしまうようになったのでした。

そろそろマイホームを買おうと思う

「あのさ、相談があるんだけど……」

年末年始に帰省した真理子さんが、突然切り出しました。

イヤな予感がしてきた斉藤夫妻でしたが、イヤな予感とは当たるものです。

「そろそろマイホームを買おうと思うんだよね」

「ちょっと調べたんだけど、マイホーム購入のために親から資金援助を受ける場合、1,000万円までは税金がかからないんだって」

これまでとは桁の違う金額に、斉藤夫妻は絶句。「少し考えさせてくれ」とお茶を濁すのが精一杯でした。

娘家族が帰ったあと、斉藤夫妻は話し合いました。年金と貯金があるとはいえ、老後はまだまだ長い。こんなペースで援助を続けて大丈夫だろうか、不安が募ります。

またなにより、娘夫婦から連絡が来るたびに「今度はなんだ……?」という緊張が先に立ってしまうようになっている現状が許せませんでした。

「このままでは、関係が壊れてしまう。お金の問題を一度ちゃんと線引きしなきゃいけないな」

娘夫婦と距離を置くことが、夫婦の頭をよぎりました。

斉藤夫妻の決断

斉藤夫妻は、現在の資産と今後の支出を洗い出してみました。

・貯金

・年金

・医療費や介護費、住まいの維持費など近い将来生活のためにかかるお金

・旅行や趣味など、老後にやりたいこと

紙に書き出して話し合ったことで、「子や孫に嫌われるのでは」という迷いが吹っ切れたという斉藤夫妻。後日、娘に下記の3点を丁寧に伝えました。

1.老後資金は自分たちの生活資金であること

2.そんな青天井に援助するほど余裕があるわけではないこと

3.この先迷惑をかけないためにも、これまでのような援助は続けられないこと

娘の真理子さんは当初、明らかに納得がいっていない様子でしたが、時間が経ってこれまでの無自覚な依存に気づいたようでした。その後、マイホーム計画をいったん白紙に戻し、自分たちの家計管理を見直し始めたそうです。

思い切ってお金の問題にけじめをつけたことで、斉藤夫妻の気持ちは少しずつ軽くなりました。

「またなにか言われるのでは」と身構える必要がなくなったことで、孫との時間も純粋に楽しめるようになったといいます。

また娘の真理子さんも、経済的に自立したいという意志が芽生えたようで、現在働いているパート先で正社員を目指すことにしたようです。

親のお金を当てにしない関係へ、少しずつではありますが軌道修正しているということでした。

「親の自立」が家族のためになる

援助は、一度始めると前例化しやすいものです。親ならば、子どもがいくつになっても助けてあげたいと思うかもしれません。しかし、それよりもまず「自分たちの暮らしを守ること」を第一に考える必要があります。

だからこそ、生活費の補てんのような目的が明確でない援助はやめましょう。子どもの進路に関することなど、家庭ごとに「目的」や「金額」で境界線を引くことをおすすめします。

今回の斉藤夫妻のような、年金収入で生活できている家庭であれば、孫の教育費など目的を決めたうえで、たとえば貯蓄の1〜2割程度を援助したとしても家計への影響は限定的でしょう。

なお、きちんと話し合ったうえで、教育資金の一括贈与制度など「非課税となる贈与制度」を利用するというのもひとつの選択肢です。

境界線を引くには勇気が必要ですが、無理のない範囲でお互いを支え合っていきたいですね。

石川 亜希子
CFP