現在、空前のコンサルブームが到来している。なぜなのか。組織開発専門家の勅使川原真衣氏は「コンサルは、成長を求める就活生や課題を抱えている企業から選ばれている。その背景には、決して手放しには褒められない理由がある」という――。

※本稿は、勅使川原真衣『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと 仕事にすべてを奪われないために知っておきたい能力主義という社会の仕組み』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/mapo
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■コンサルが就職先として人気の理由

『東大生はなぜコンサルを目指すのか』(集英社新書、2025年)が刊行された。著者のレジー氏は前作の『ファスト教養』(集英社新書、2022年)から一貫して、「成長」をキーワードに、世相を読み解いている。

昨今のコンサル人気について、「成長を強いられるビジネスパーソンが、成長をキーワードにコンサル業界を目指す。(中略)この業界で力をつければ将来安泰といった考え方が広まっていて、それによって新卒の大学生のみならず転職を目指すビジネスパーソンにも選ばれる職業となっている。」と言う。

確かに私の周りの組織開発のクライアント先や、大学の後輩などからも、「今の会社にいて他で通用するかわからない」「成長している感じがしない」などと不安がる話をしばしば聞く。

それもそのはず、就職みらい研究所「就職プロセス調査(2025年卒)」によると、内定者が就職先を確定する際に決め手となった項目第1位は「自らの成長が期待できる」(49.1%)だ。

ただ、ひねくれ者なので私はもう一歩、「成長」について深読みしてもいいところではないかと考えている。

というのは、「成長」と言っている中身は「成長実感」だったりする。

■「成長」と「成長実感」はまったく違う

かつて、東洋経済新報社の企画で、当時『Z世代化する社会』(東洋経済新報社、2024年)を上梓されたばかりの舟津昌平氏と対談させていただいた。際して、舟津氏から「成長」と「成長実感」は全然違うよね、というお話を伺い、腑に落ちた。

さらにどう違うかと言えば、「成長」は本来5〜10年スパンくらいで見るべきものではないか? と。一方の「成長実感」は今ここで感じることなので、瞬間的なもの。成長志向だなんだと言うときに、多くの人は「成長」と「成長実感」のあいのこのようなぬるっとしたままを扱うが、そもそもそんな時間軸の離れたものを一緒くたにすべきではないと言うのだ。

いかにも、と膝を打つ。その上で、昨今のコンサルブームに戻りたいのだが、コンサルを新卒から狙う人、ないしはコンサルへの転職を狙う人、これらの人に共通しているのは、

「今の会社にいて他で通用するかわからない」
「成長している感じがしない」

と言うそうだ。しかし私は、それを「成長」と「成長実感」が合わさったまま、

「今の若者は「成長」を志向しているのですね!」

と言うのはいささか尚早な気がする。

■再度考えたい「企業にとっての成功」

企業にとっての「成功」とは何か。昇進か? 社長表彰か? S評価でボーナスが増えることか? これらはいずれも、企業で働く個人の「成功」だろう。そうではなくて、企業の「成功」とは何か。

は? ふざけてるのか? と思った方もいるかもしれない。

「売上・利益・株主価値の最大化に決まってるだろが!」

と。はたまた、

「長期的利益・従業員満足・環境への配慮のバランスなどを含めた持続可能な成長でしょ!」

と言う人もいるだろう。

それはそうなのだが、いささか解せない点がある。経営戦略のいろはについてはコモディティ化するほど普及していると言えるのに、いつまで経っても、それどころかコンサルティングファームは規模の差こそあれ、活況である。

なにせ、PRタイムズにあるコンサル業界の市場規模推移を追った記事によると、2021年度は1.5兆円の市場規模に到達し、2017年からすると4年で63%の成長を遂げているという。

出典=『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと』

2027年度の予測は、市場規模が2.2兆円ほどになるとの予測だ(オプティミスティックシナリオでは2.7兆円!)。

出典=『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと』

と思うと、次の問いが一考に値しないだろうか。企業の「成功」が自分たちの経済的価値の最大化にあるなかで、自分たちの知的生産も進化しているはずなのに、なぜわざわざ多額のコンサルティングフィーをかけてまで、コンサルに頼る企業があとを絶たないのだろうか。

■コンサルは何をやってくれるのか

変化の激しい市場のことを、自社以上に調べ上げ、鋭いファインディングスを運んできてくれるとされるコンサル。特に、企業のあるべき姿が流布されると、その耳慣れないが、自社も他人事でいられなそうなキーワードに反応し、

「うち(当社)に合うものを教えてください!」
「なんとかしてください!」

的な依頼が増える。DX(デジタルトランスフォーメーション)や、人的資本開示義務と人的資本経営などは、最たるものだ。だって……何をどうしたらいいかわからないもの。

現場ではキャッチアップしきれないような先端技術やトレンドについて、この人たちはいち早く指針を示してくれる。

新しいものだけでなく、新型コロナウイルス禍以来、自社の経営上の脆弱性をありありと見せつけられた企業が大半なので、経営再建やそこまでいかなくても業務改善の依頼などもあとを絶たない。そこで登場するのが、「頭がいい」とされるコンサルタントたちだ。そう、ビジネスの、

「正解」

を教えてくれるのが、コンサルなのだ。

■だからコンサルは廃れない

そう考えると、コンサルブーム自体が、答え合わせの時代の象徴と言えないだろうか。

換言すると、コンサルはなぜ廃れないのか、という問いに対して、こう答えることができる――企業側が「正解」を探しているからである――と。

知的に優位とされる人たちが繰り出す「正解」を、導入企業は知りたがっている。自分たちでほぼその方針を決めていても、最後に「コンサルもこう言った。やっぱりそうなんだ」を得ようと。「正解」というお墨付きを得るために。

コンサルとして独立してからも、しばしばこんな話をクライアント企業(メーカーなど)から聞く。

「コンサルがうちのチームに入ってくれると、我々の底上げになるんですよね。特に経営企画なんて言っても探り探りやってるじゃないですか? 社員教育ですよ、もはや」

……まばたきをシパシパしてしまう。

コンサルが知的に優れていて、フレッシュでトレンディーな(ということばがナウくないのだが)「正解」を持っている存在である。そして自分たちはそれこそ彼らとワークすることで知的生産の「成長実感」すら得ているというわけだ。

コンサルに就職したがる若者も話題になっているが、コンサルを使いたがる氷河期世代も話題にせねばならない、ということだろう。

■コンサル以外にも「正解」はある

ちなみに、大手のコンサルティングファームを辞めて、いろいろな企業と野良としてお付き合いするようになって早10年弱だが、思うことがある。それは、ニーズの高まりによって、コンサル就職のバーは確実に下がっていて、どの程度知的優位なのか? はちょっとわからない。

勅使川原真衣『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと 仕事にすべてを奪われないために知っておきたい能力主義という社会の仕組み』(KADOKAWA)

逆に企業、それも製造業の組織開発に入ると、30代までの若手の優秀さに驚嘆することが多々ある。

まず、よく勉強している。工学系・化学系・薬学系……各々の専門性もありながら、ビジネス界の「常識」「正解」と呼ばれるようなことも。MECE(ミーシー)に仮説思考で話してくれて、プレゼンもうまければ、上の世代の巻き込みも、アルバイトの方とのコミュニケーションまでうまかったりする(逆に50代より上の世代には、いまだにiPadを虫眼鏡でのぞき込んでいるようなタイプがいなくもなかったりするが)。

若い人はコンサルでなくても、自分たちの「正解」が蓄積しつつあることを、ぜひ感じてほしい。

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勅使川原 真衣(てしがわら・まい)
組織開発者
東京大学大学院教育学研究科修了。BCGやヘイグループなどのコンサルティングファーム勤務を経て、独立。教育社会学と組織開発の視点から、能力主義や自己責任社会を再考している。2020年より乳がん闘病中。著書に『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社、紀伊國屋書店じんぶん大賞2024 第8位)、『働くということ』(集英社新書、新書大賞2025 第5位、紀伊國屋書店じんぶん大賞2025 第11位)、『職場で傷つく リーダーのための「傷つき」から始める組織開発』(大和書房)、『格差の“格”ってなんですか? 無自覚な能力主義と特権性』(朝日新聞出版)などがある。
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(組織開発者 勅使川原 真衣)