「産めや、働けや、納税しろや」では何も解決しない…政府とマスコミが無視する「若者が結婚できない」根本原因

■「共働き夫婦が増えている」という報道は雑すぎる
そんな報道をテレビ、新聞、ネット記事などでしばしば見かけます。その際に必ず引用されるのが、内閣府の男女共同参画白書で公表されている以下のデータです(図表1)。
最新の令和7年度の白書においては、妻が64歳以下の世帯対象において、共働き世帯1222万世帯に対し、専業主婦世帯は398万世帯まで減少。共働き世帯は専業主婦世帯の約3倍にもなる、というものです。

とはいえ、これは以前から繰り返しお伝えしている通り、間違いではないが正確ではありません。共働き世帯といっても、妻がフルタイム就業なのか、パート就業なのかによっても見える状況は変わります。
■マスコミの論調は「産めや、働けや、納税しろや」
当然、白書では、それらを分解したデータも公表されています(図表2)。
それによれば、1222万世帯の共働き世帯のうち、フルタイム就業は527万世帯、パート就業は694万世帯です。そして、増えているのはパート就業の方で、1985年対比で約3倍増ですが、一方のフルタイム就業は同期間比14%増にすぎません。つまり、共働き夫婦が増えたといっても、パート就業が増えただけということになります。
絶対数ではなく、構成比でみても、フルタイム就業の共働き世帯の割合は1985年から40年間一貫して大体3割程度で変わりません。逆に、40年前であっても、夫婦の3割はフルタイム就業夫婦であったということになります。

にもかかわらず、メディアはこのフルタイムとパートを分けた白書のデータを報じたことは、私の記憶ではほとんどなく、常にフルタイムとパートを合算した共働き世帯のデータだけを使い報じています。
共働き夫婦こそが圧倒的大多数で、専業主婦世帯は時代遅れの遺物であるかのような論調で、まるで、すべての妻は、子が生まれても就業継続して、「仕事も子育ても両立するのが当たり前」のような新たな社会的圧力に似たものを感じます。戦前の「産めや、殖やせや」の標語並みの「産めや、働けや、納税しろや」という何らかの力がうごめているのではないかと勘繰りたくもなります。
■「若者の価値観の変化」は本当なのか
もちろん、結婚して子どもが生まれても自分のキャリアを優先したいという人もいるでしょう。それはそれで結構です。しかし、専業主婦すべてが不本意ながらキャリアを諦めたわけでもなく、逆に「仕事よりも子育てを優先したい」と願う人も存在します。また、当初は両立を図ったものの「仕事と子育ての両立はハードすぎる。結局どちらも中途半端」という経験を経て専業主婦を選択した人もいることでしょう。夫の仕事上の都合(出張や夜勤、長距離ドライバーなどどうあっても妻が家にいる必要がある)で、専業主婦にならざるを得ない夫婦もいます。
個々の事情は様々なのに、冒頭のおおざっぱな区分で「共働き夫婦が増えているのは、仕事も家庭も両立したいという若者の価値観の変化だ」などと言う雑な有識者もいます。大体、最近の若者は本当に「仕事も子育ても両立したい」と思っているのでしょうか。
ソニー生命が実施した2022年「女性の活躍に関する意識調査」では、「本当は専業主婦になりたい」という設問に対して、20〜60代女性全体では33%が「そう思う」と回答していて、これは2015年以降ほぼ変わりません。一方、「今後バリバリとキャリアを積んでいきたい」とする割合は35%で、専業主婦派とバリキャリ派はほぼ同割合です。
■20代女性の4割は「本当は専業主婦になりたい」
特に、注目したいのは20代女性で、「本当は専業主婦になりたい」は43.2%、「今後バリバリとキャリアを積んでいきたい」は38.3%で、20代では専業主婦派のほうがむしろ若干多いくらいです。
国の基幹統計である2021年の出生動向基本調査(対象18〜34歳未婚女性)においても、理想のライフコースとして「広義の専業主婦=専業主婦と一度退職して再就職合計」の割合は39.9%、「両立したい」は34%であり、前述のソニー生命の結果とほぼ一緒です。つまり、専業主婦になりたい派もバリキャリで両立したい派も同等のほぼ4割で、決して皆が皆バリキャリ志向ではないということです。
これら本人の希望や理想がそのまま実現できればよいのですが、実態としては、冒頭の白書によれば、専業主婦実現は25%、フルタイム就業のバリキャリ両立実現は35%であり、両立はほぼ希望が叶えられている反面、専業主婦は大きく希望より下回っています。
実はここにこそ問題が存在しています。
「最近の夫婦は共働きが多い」のは、若者の価値観がそうなったからではなく、「本当は専業主婦になりたい」という希望が叶えられないがゆえの、結果としての比率の低下なのです。

■問題の本質は「経済環境の変化」
これは何も女性側が「玉の輿」や「専業主婦になって楽をしたい」と思っているからではありません。専業主婦を希望する女性の中には「何より子どもとのかけがえのない時間を大切にしたい」という気持ちが大きく、せめて子が幼少のうちは家にいたいと思っているからでしょう。
とはいえ、結婚は経済生活ですから、ある程度の世帯年収は必要になります。専業主婦世帯の場合、それは夫の稼ぎの問題になります。が、昨今の物価高や税・社保料負担の増加、児童手当はあっても年少扶養控除はないなど手取りが増えない中にあって、「専業主婦をしたくてもお金が足りない」というのが正直なところだと思います。
つまり、「共働きが増えた」という表面的な話ではなく、「なぜ専業主婦世帯が激減したのか」にフォーカスを当てると、それは結局「かつて夫の一馬力でも結婚して子を産めたのに、今やパートで妻が稼がなければ家計が維持できなくなった」という経済環境変化があると考えるべきです。
周知の通り、婚姻減で子のいる世帯数は激減しています。労働力調査から、妻年齢34歳までの子がいる夫婦を対象に、2013年と2024年とを比較すると図表3のようになります。
全体世帯数の減少分は専業主婦世帯の減少分とほぼ一致します。

■13年までは「夫の一馬力」で子育てできた
さらに、夫の個人年収別に妻の就業状況を比較したものが図表4です。
専業主婦世帯の中の夫の年収300〜700万円という中間層だけが特に減少が顕著。裏返せば、2013年までは中間層でも夫の一馬力で子育てをすることができたということです。

夫の年収だけでは足りない分を埋めるべくパート主婦が増えたのは夫年収500〜700万世帯です。2013年では夫が300万円台だった場合に多かったパートが今では500万円以上でもパートに出ざるを得なくなりました。あわせて、フルタイム就業の夫婦が増えているのも夫500万円以上ですが、パートと違って妻の年収もそこそこあるでしょうから、これは夫の年収が同じでも専業主婦とフルタイム世帯とでは世帯年収に大きな夫婦間格差が生まれることにもなります。
■働き方「全体主義」では何も解決しない
共働き夫婦が増えているといっても、その実情は、フルタイム就業のバリキャリ妻が増えているわけではなく、せめて子が幼少のうちは専業主婦を希望する夫婦が経済的理由でパートなどに行かざるを得なくなる環境に起因するのであり、そうした環境がそもそも「結婚することすら無理」「子どもを持つのは無理」と婚姻減と出生減に拍車をかけているといえなくもないでしょう。
仕事も家庭も両立し、バリキャリを目指したいスーパーママならそうすればいい。が、全員がそうしたいわけでもできるものでもない。夫婦間の合意の上で専業主婦を選択したいと思ってもその選択すら許されないほど、夫婦を取り巻く経済環境が悪化しているからこそ、特に経済中間層の専業主婦世帯だけが激減しているのです。そこを見ないふりで「全員共働きすればいい」という働き方全体主義の押し付けでは何も解決しません。
■「すべての夫婦は共働き」である
そもそも「夫婦が共に就業している」ことを「共働き」というのはおかしな話です。それは「共稼ぎ」というべきもの。外で働いて稼いでいようがいまいが、専業主婦であろうと専業主夫であろうと、「すべての夫婦は共働き」なのです。
どちらにせよ、本来はそれぞれの夫婦が選べばいいだけのもので、一方が正義で、もう一方が間違いというものではありません。ネット上でも「ワーママvs.専業主婦」のような論争がたびたび起きていますが、共働きか専業主婦かという二項対立論は無用な分断を招くだけで筋が悪いでしょう。
また、二項対立論でしばしば忘れられているのは、終身専業主婦や終身フルタイム就業という「一旦どちらかを選択したら二度と変更できないものではない」ことです。それぞれの事情やライフタイムに応じて夫婦どちらも「専業主婦(夫)のちフルタイム」や「フルタイム時々専業主婦(夫)」のような柔軟性があっていいし、それに対応する選択肢、たとえば、子育て後の年齢からでもキャリアが積めるような雇用の仕組みや短時間正社員の制度などが用意されているほうが望ましいでしょう。
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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
