山下美月(撮影:はぎひさこ)

写真拡大

 乃木坂46を卒業後、映画・ドラマへの出演が続いている山下美月。原浩の同名小説を映画化したミステリー映画『火喰鳥を、喰う』では、不可解な出来事に巻き込まれていく主人公・久喜雄司(水上恒司)の妻・夕里子を演じている。アイドルとして絶頂期を駆け抜け、表現者として新たなステージに立つ彼女は、乃木坂46卒業からの1年で何を得たのか。自身の結婚観や俳優業への思いを語った。

参考:山下美月、乃木坂46卒業後の心境や今後の展望を語る 「“人間力”を身につけたい」

ーー第一報が出た際に「早く完成した作品を見たいです」とコメントされていました。実際に作品をご覧になっていかがでしたか?

山下美月(以下、山下):いい意味で、想像していたものよりもポップに感じました。原作や脚本を読んだときは、一度では理解しきれないほど難しいお話だと感じていたんです。ですが、キャラクターの表情や長野の空気感を映像を通して観ることで、それぞれの心理描写が明確になりました。みなさんにも、難しく考えすぎずに、感覚で観ていただきたい作品だと感じました。

ーー役作りは原作小説を参考に?

山下:参考にしつつも、夕里子は原作だと“笑わない女性”として描かれているのですが、今回は「人間らしい感情や表情があっていい」という話があって。映像化するにあたって、よりリアルなものに近づけられたと思います。

ーー夕里子は今まで山下さんがあまり演じられてこなかったタイプの役柄ですよね。

山下:確かにそうですね。これまでは芯の強い、前に出ていくような役柄が多かったのですが、今回は芯が強くありつつも、雄司と北斗(宮舘涼太)の間で揺さぶられるという。まっすぐに進みたいのに進めない状況にもどかしさを感じる役どころは、あまりやってこなかったジャンルでした。

ーー“妻役”も新鮮でした。

山下:奥さん役は初めてかもしれません。ラブストーリーでも、恋愛関係になるかどうかを描いた作品だったり、付き合って結ばれる過程を描いた作品が多かったので。今回は“夫婦愛”がテーマでもあるので、「夫婦って何だろう」という考えから始まったんですよね。私は「女はみんな女優だ」という言葉が好きで。「女性ってカッコいい」と思っているんですよね(笑)。この映画の中の夫婦は、夫が亭主関白で、妻が家事をこなすという、古き良き日本の伝統的な夫婦の形を理想系として描いていて。夕里子はあまりにもその“普通”に対する執着が強いのですが、私は夕里子のそういうところがすごく好きなんです。今の時代、夫婦の形は多種多様ですが、その中で古風な形を理想として描くという、その固定観念が今作のテーマとすごく重なるなと思っています。私は夕里子とは真逆の人生を生きているからこそ、その部分に惹かれました。

ーーもしご自身が結婚されるとしたら、夕里子のような妻としてのあり方はどうですか?

山下:私はあまり現実的には考えられないですね。この間、占いに行ったら「あなたは家庭に入ったらよくないことが起こります」と言われたんです(笑)。

ーーヤバいですね(笑)。

山下:マジか……って(笑)。でもそれは自分でもすごく納得できて、私は一生働いていそうだなと。おばあちゃんになっても仕事をやっていると思います。夕里子のように仕事をしながらも家庭で旦那を献身的に支えるという立ち回りは、自分の中ではあまり考えられないですね。

ーー結婚願望自体はあるんですか?

山下:結婚願望自体はあります。小さい頃から「いつかは結婚したい」とは思っているものの、その「いつか」が全然現実味を帯びないというか……。今年26歳になりましたけど、30代までは仕事を全力で頑張りたいと思っていますし、30歳になったとしても「もう仕事はいいか」とは思えないだろうなと。

ーー乃木坂46を卒業されてから1年ちょっと経ちましたが、この1年の間の仕事ぶりも凄まじいですよね。

山下:ありがとうございます。現役時代より忙しかったです(笑)。特に昨年は本当に忙しくて。

ーー感覚的にはあっという間ですか?

山下:あっという間に過ぎ去ってしまって、ちょっと悔しいというか。この1年、本当にいろんな仕事をさせていただいたのですが、自分の中で「もっとできたのに」という悔しさが結構出てきました。

ーー “悔しい”というのは具体的にどういうことでしょう?

山下:1人になったからには、今まで以上に責任感を持ってちゃんとお芝居をしなきゃと思っていたはずなのに、振り返ったときに自分の中であまり達成感がなくて。例えば、グループ在籍時に『舞い上がれ!』で朝ドラに初めて出させていただいたときは、終わってから1年乗り切ったことへの達成感がありましたし、朝ドラが終わってからも連続ドラマに続けて出演させていただいて、いろんな人に巡り会えたことへの充実感があったりしたんです。でも、この1年はそういう感情が芽生えなくて。

ーーそうだったんですね。

山下:一昨年までの自分のお芝居と比べて、自分の中ではあまり変化がなかったなと感じたんですよね。でもだからこそ、ここからの1年、自分はもっと伸びなきゃな、成長しなきゃなと思えましたし、すごく勉強になりました。大変だったし、辛かったけど、ここからがまた楽しみだと思える、“バネの年”になったと思います。

ーー作品を観ている側としては全くそんなふうには感じませんでした。

山下:本当にありがたいことに、「卒業してからも順調だね」と言ってくださる方が多くて。もちろん前には進めていると思うのですが、アイドル時代よりもお芝居のお仕事に集中している分、もっと伸ばせたんじゃないかなって。自分のキャパをもっと広げなきゃいけないなと思いました。

ーーそういう反省が確実に進歩に繋がると思います。

山下:恵まれた環境にいるからこそ、ちゃんとそこに応えたい自分がいます。自分が思っている以上に、いろんな人の期待や思いを背負ってここまできたので、そこに還元しなきゃという気持ちが大きいです。

ーー今の乃木坂46の後輩たちの指針にもなりますよね。

山下:現役のときは、「お芝居をやりたい」とか「こういう作品に出たい」と思えば、卒業しなくてもアイドルをやりながらでもできるという例を、ひとつの道として後輩に提示したいという気持ちがあったんです。それができた上で卒業できたのはすごくよかったなと思っていて。だからこそ、今こうやっていろいろな作品と向き合う中で、その役が“自分じゃなきゃできない理由”を見つけなきゃな、と思っています。

ーーそんな山下さんが今やりたい役、出たい作品はありますか?

山下:すごくぶっ飛んだ役をやりたいですね。例えば殺人鬼だったり、最後にものすごい裏切りをするような役(笑)。私は過去に闇を抱えた役や、複雑な役をやらせていただくことが多いので、そこを突き詰めて、“最後まで悪役”みたいな役をやってみたいです。

(取材・文=宮川翔)