三笠宮家の彬子さまは、女性皇族として初めて海外で博士号を取得し、著書『赤と青のガウン オックスフォード留学記』が累計38万部を超えるほどのベストセラーとなっている。『赤と青のガウン』には、彬子さまが英国のオックスフォード大学に留学していたときの生き生きとした生活ぶりが描かれている。なかでも興味深いのは、食にまつわるエピソードだ。今回は、エリザベス女王から招かれたアフタヌーン・ティーの緊張の様子と、アフタヌーン・ティーに欠かせないスコーンの物語である。

オックスフォード大学留学の思い出をつづった本

彬子さまは、2001年9月からの1年間と、2004年9月からの5年間、2回にわたって英国のオックスフォード大学マートン・コレッジに留学された。その涙あり笑いありの……と使い古された言葉で恐縮だが、まるで皇族の留学とは思えない、一般人と変わらないような抱腹絶倒の旅行記が『赤と青のガウン オックスフォード留学記』である。

最初の留学の1年間は、学習院大学在学中の短期留学。2回目は学位取得を目指した博士課程への留学であった。何度もくじけそうになりながら博士課程を無事終了し、学位を授与され袖を通すことができたのが、「赤と青のガウン」であった。

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連載「天皇家の食卓」は、「天皇家の食にまつわるエピソードを紹介する」というくくりで書いているために、彬子さまの伸び伸びとした行動ぶりや「それは一般人だってやらないかも!」という失敗談をご紹介しにくいのはすこぶる残念である。しかしながら、食べるのも食事を作られるのもお好きな方で、食にまつわるエピソードもたくさんある。

そんなたくさんのエピソードの中から、彬子さまが「ハイライトというべき思い出」と綴られているのが、亡くなられたエリザベス女王からのお茶のお誘いであった。

エリザベス女王みずからいれたティーのお味は?

2005年の夏、在英日本国大使館にエリザベス女王陛下から彬子さまあてへ、バッキンガム宮殿へのお招きの連絡が届いた。彬子さまのオックスフォード大学の指導教授が、彬子さまのご様子を宮殿サイドに伝えていたことから実現したのであった。

彬子さまにとっては、突然のお招きである。「えっ」と言ったまま絶句する彬子さま。さて、いったい何を着ていけばいいのか? 帽子や手袋は? そもそも何の話をしたらいいのか。誰かに聞こうにも女王陛下と対面で話をした友人などいないし、不安でいっぱいになりながら当日を迎えた。

日本大使館から差し回しの黒塗りの車に乗り、バッキンガム宮殿に向かう。宮殿の中に入ると、まず女王陛下が飼っているたくさんのコーギーがお出迎え。走り回る犬たちとともに、大きな窓から庭が見える明るい部屋に通されると、エリザベス女王陛下が待っていてくださった。

エリザベス女王は彬子さまににこやかに手を差し伸べて握手を求め、ソファーに誘ってくれる。少ししてやってきた給仕は、テーブルにティーセットとお菓子の乗った銀の皿を置くと、下がってしまった。

「どうしたらいいの? お茶、私がいれるの?」

頭の中でぐるぐる思考がまわる彬子さま。するとエリザベス女王がさりげなくお茶をいれ、お菓子をすすめてくださったのだ。そのお姿が彬子さまの祖母の百合子さまと重なり、彬子さまは少しだけ緊張がほぐれた。

1時間ほどの、女王陛下と彬子さまの2人きりのアフタヌーン・ティー。女王陛下のいれてくださったお茶は、どんなお味だったのだろうか。

緊張しきっている彬子さまのために、エリザベス女王は楽しい話題を振ってくれた。孫のウィリアム王子やヘンリー王子の話をするときには、ほんとうに柔和な「おばあちゃま」のお顔になられるのが印象に残ったという。

外はカリッと、中はしっとりほわほわ、ほんのり甘い絶品スコーン

英国のアフタヌーン・ティーに欠かせないのが、スコーンである。2〜3段重ねのティースタンドに、キュウリのサンドイッチやケーキと一緒にスコーンは乗っている。ずんぐりむっくりの丸い姿がかわいらしい焼き菓子である。

紅茶とスコーンのセットには、クリーム・ティーもポピュラーだ。クリーム・ティーとはいうけれど、紅茶にクリームを入れるのではなく、スコーンにジャムとクロテッドクリーム(アフタヌーン・ティーに欠かせない英国の伝統的なクリームで、デヴォン、コーンウォール両地方の名産)を塗って食べる。

パリッと焼けたスコーンを、割れ目に沿って2つに分け、クロテッドクリームとジャムを乗せる。クリームを先に乗せるのが、デヴォン式。ジャムを先に塗るのがコーンウォール式。ちなみに彬子さまは、ジャムが塗りやすいからという理由で、コーンウィール式がお好みだという。

彬子さまは、友人の自宅でしばしば本場英国式の、つまり「家庭の手作りスコーン」をごちそうになった。友人のジェイミーは、彬子さまの住むマートン・コレッジ(学寮)の向かいのチャペルで働いている男性である。彼の焼くスコーンは「とんでもなくおいしい」と評判で、彬子さまたちは誘い合わせ、お昼を抜きお腹をすかせて彼の家でお茶をいただくのである。

「そこでジェイミニーが出してくれた焼きたてのスコーンは目が飛び出るくらいのおいしさだった。外はカリッと、中はしっとりしてほわほわ、ほんのりした甘さの加減も絶妙なのである」

と、彬子さまは絶賛している。ジェイミーのスコーンは、プレーンとシナモン味が基本で、ときどきリクエストに応じてチーズ味も焼く。「ジャムとの相性が悪い」という理由で、レーズン入りは作らない。

日本に帰ったらあの絶品スコーン作りたいと思い、彬子さまはジェイミーからレシピを教わった。しかし、日本ではどうしても同じ味にならなかったという。
「あの味は英国の空気とジェイミーの手あってこそのものなのだ」
と思う彬子さまであった。(連載「天皇家の食卓」第35回)

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参考文献:『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(彬子女王著、PHP文庫)

※トップ画像は、宮内庁提供

文/高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。