kino cinemaの狙いはどこにある? “地域に根差す”映画館を目指して
コロナ禍によって多くの観客を失った映画館。数字だけ見れば映画興行の数字は回復傾向にあるが、配信サービスの興隆もあり、数年前とは映画館を取り巻く状況は大きく変化している。多くのミニシアターが閉館も余儀なくされる中で、新たな映画館として存在感を示しているのが「kino cinema」だ。横浜みなとみらい、立川髙島屋S.C.館、天神、神戸国際、新宿、心斎橋と、この数年で6館の劇場をオープン。良質な映画を配給してきたキノフィルムズによる「kino cinema」の狙いはどこにあるのか。運営部長の栗谷大輔氏に話を聞いた。(編集部)
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●コンパクトなkino cinemaだからできること
――全国で6館目となる「kino cinema」が、2024年12月13日に大阪・心斎橋にオープンしました。まずは、kino cinema全体としてのビジョンや展望みたいなところから聞かせていただけますか?
栗谷大輔(以下、栗谷):私どもkino cinemaの親会社が「木下グループ」という企業で、木下工務店をはじめとする「住まい」に関する事業、木下の介護など「医療福祉」に関する事業など、さまざまなことをやっている一方で、スポーツへの協賛であったり、映画の協賛であったり、そういった文化事業に対する支援を、グループ全体の方針にしているところがありまして。それが、木下グループのパーパスである「人々の生活を豊かにする」ことに繋がっていくと考えているんです。
――設立翌年の2019年の4月に「kino cinema横浜みなとみらい」を開館したことを皮切りに、約6年間で6つの映画館を全国でオープンしました。そのあいだにコロナ禍があったことを考えると、かなり速いペースと言いますか、なかなか大変なところもあったんじゃないですか?
栗谷:kino cinemaの場合、運営自体がそこまで大きい規模ではなく、非常にコンパクトなんです。大型シネコンというのは、スクリーン数が8とか9、もしくは12とかになると思うのですが、それだけ面積が広くなりますと、やはりスタッフの数も増やさなければならないのですが、kino cinemaの場合は、いちばん多いのが神戸の4スクリーンで、それ以外は2とか3スクリーン。運営効率という意味では、他の映画館さんと比べても、非常にコンパクトなんですよね。
――どちらかと言えば、ミニシアターに近い規模感で。
栗谷:そうですね。あと、それまで映画館として営業していたところを改装する形でオープンしているのも、大きく。映画館をイチから作ろうとすると、もうとんでもない金額が掛かるのですが、2023年の11月にオープンした「kino cinema新宿」もそうでしたが、今回の「kino cinema心斎橋」も、残せるものは前のものを残して、カーペットや壁紙は張り替えましたけど、建物自体はいっさい手を加えてないんです。
――なるほど。
栗谷:スクリーンの張り替えや、映写機とスピーカーは、もちろん全部入れ替えさせていただいて。そういったところで、目と耳の肥えたお客様からも、一定の評価はいただけていると感じております。あとは、椅子ですよね。SNSなどを見ていると「椅子が快適だ」という声をすごくいただいております。
――写真でしか見ていないのですが、心斎橋も新宿と同じ椅子ですか?
栗谷:そうです。コトブキ社さんの椅子を入れています。ちゃんと映画を観ることを前提に、リクライニングの角度など、いろいろと考えられて作られた椅子なので、実際すごく快適です。そこは他の劇場さんとは、ちょっと違うと感じていただけるのではないかと。そのあたりも「映画は良い環境で観てほしい」という、木下グループ代表の強い思いが反映されています。
――ちなみに、上映する番組の編成については、どんなことを意識しているのでしょう? 全体として何かひとつの方針があるのか、あるいはそれぞれの館で違うのか?
栗谷:それぞれの館で上映する作品の選定というのは、非常に難しいところがありまして。最初にお話ししたように、キノフィルムズが配給している作品は、もちろん全国のkino cinemaでかけたいという思いはあるのですが、必ずしもkino cinemaがメインではなくてもいいと考えています。kino cinemaは、そこまで大きな規模の劇場ではないので、大手シネコンさんであるとか、より大きな劇場でかけられるのであれば、配給としてはやはりそちらをメインにしたほうがいいわけで。そのあたりは、割と柔軟に考えてやっているところはあります。メインは他の劇場さんで、なおかつkino cinemaでも上映するという。
――なるほど。
栗谷:もちろん、キノフィルムズ以外の作品も、積極的に取りに行くことは意識しています。規模は小さいながらも素晴らしい作品というのは、世の中にたくさんとあると思いますし、そういった作品――特に、海外の中規模作品を日本で上映する機会が、年々減ってきている印象もあって。そのあたりはしっかりと押さえつつ、いろいろと厳選しながらブッキングしています。
――ミニシアターの数が減りつつある昨今、そのあたりは是非期待したいところです。
栗谷:はい(笑)。ただ、番組の編成については、やはり地域ごとの特徴というものもありまして。東京のお客様と大阪のお客様では、それぞれ嗜好が違うんです。なので、私どもの基本方針としては、全国のkino cinemaで同じ作品をかけるのではなく、まずはその地域に即した作品を入れていきましょうと。
●“地域に根差す”映画館に
――具体的には、それぞれどんな特徴があるのでしょう?
栗谷:kino cinema心斎橋の場合は、いわゆるアジア系と言いますか、とりわけ韓国映画については、我々kino cinemaとしても積極的に上映したいと思っています。徐々にそれぞれの館の特徴みたいなものが出すことができればと考えております。
――kino cinema全体として云々よりも、まずはそれぞれの地域で認知され、いずれは愛されるような映画館を目指すと。
栗谷:そうですね。やはり、まずはそこだと思っています。今回のkino cinema心斎橋のオープンに際しても、通常の大手シネコンですと、ものすごい額のオープニング宣伝費をかけたりするのですが、我々の場合は、そこまで予算がないというもあって、支配人が街頭でチラシを配ったりもしています。ただ、興行の原点というのは、やっぱりそこだなと、個人的には思うようなところがありまして。映画館の外観や内装は、オシャレなアート系をイメージしていたりはするのですが、全体の運営を任されている私としては、やはり興行の原点に立ち返って、まずは地域密着でやっていきたいと思っています。そういう意味で、映画館そのものの宣伝に、今後も力を入れていきたいと言いますか、作品自体の宣伝は、もちろん配給会社さんにやっていただくのですが、「その作品を観るならば、是非kino cinemaで」という映画館としての宣伝であったり、そういう部分は、まだまだ足りないと思っているので。
――なるほど。
栗谷:あと、私どもの会社の中で、この夏に新しい部署が立ち上がりました。要は、シアターレンタルであったりとか、映画館を通常の形とは違う形でご利用いただくための専門の部署なのですが、その部署の人間は、各地域の商工会にも入らせていただいていて。まずは、劇場の近くにある店舗さんであったり、企業さまに、kino cinemaというものを知っていただきたいと。その上で、何か機会がありましたら、映画を軸とした取り組みを一緒にさせていただけないかという。そういう活動も、ある意味「地域に根差す」というところに直結してくると思うんですよね。
――具体的には、どんなことをやるのでしょう?
栗谷:たとえば、今年の9月にkino cinema横浜みなとみらいで、発達障害がある子どもたちを招いた上映会を実施いたしました。普段は映画館に行けないような子どもたちも、貸切りという形であれば、映画を楽しめるのではないかということで、そういった活動をされている団体と、それを支援していただけるような企業を結び付けて。もちろん、そのような試みは、他の興行会社さんでもやられていることだとは思うのですが、我々としても、そういった活動は、今後もしっかり打ち出していきたいと思っています。だから、両輪ですよね。通常の興行は、もちろん頑張ってやっていくのですが、その興行をどうやってもっと多くの人たちに楽しんでいただけるのか。kino cinema心斎橋のオープン前のイベントでは、子どもたちに映画の仕組みを説明する企画も行いました。
――それは、どういう企画だったのでしょう?
栗谷:kino cinema心斎橋は、35mmの映写機も残していて、今度それで『オッペンハイマー』の上映をする予定なのですが、今の子どもたちって、映画がフィルムで上映していたことを知らなかったりするじゃないですか。なので、近隣の学童クラブさんにお声掛けして、子どもたちに「映画っていうのは、もともとこういう形で上映するんだよ」と説明する機会を設けたんです。トークイベントなど他の劇場さんがやっているような試みは、もう当たり前のようにやりつつ、その一方で、映画というものを、より多くの人たちにより身近に感じられるような試みと言いますか、そういう企画は、今後も率先してやっていきたいなって思っています。
――映画館で上映される作品の本数自体は、以前よりも各段に増えていますよね。
栗谷:作品の数が多過ぎて、もはやチラシのラックに入りきらないんですよね。ただ、そこはやっぱり一本一本ていねいに……特に、私たちのような規模の映画館は、映画館の側が責任を持って興行を行うことが、今後ますます大事なところになってくると思うんです。
(文=麦倉正樹)
