松本人志は“完全敗北”だったのか…やっと見えた!「芸能界復帰への道」弁護士が指摘する「被害女性&文春とのある合意点」の可能性
人気お笑いコンビ「ダウンタウン」松本人志氏が週刊文春を名誉毀損で訴えを起こした件で、11月8日に双方が合意し、訴えが取り下げられた。松本氏は声明で「会合に参加した女性の中で不快な思いをした方がいれば、心よりお詫び申し上げます」とコメントした。この訴訟は、2023年12月の週刊文春の記事で、松本氏による性的被害を訴える女性2名の証言が掲載されたことが発端であり、5億5000万円の賠償を求めたが、文藝春秋側は全面的に争う姿勢を示していた。今後の展開が注目される中、城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士に見解を聞いた。(聞き手:小倉健一)
松本裁判「尋問に至れば大勢の傍聴人の前で恥をさらしてた」
ーー野澤弁護士は、今年2月22日付の記事において、「松本人志氏が助かる方法はないのでしょうか」と問われ、こう述べています。
<裁判を続ければ、3年以上、時には10年近くもの時間が無駄になり、たとえ勝訴しても期待するほどの賠償金を得るのは難しいと思われ、事件が忘れ去られた頃に出される訂正記事によって名誉が形式的に回復されたとしても、大物芸能人の地位が元に戻るわけではありません。/結局、社会的に支援する方向で考えるなら選択肢は限られており、松本氏らに対し現実的な解決案を提示できる然るべき立場にある方々は、『(短期的な)恨みを買うかもしれない』ことを覚悟の上で徐々に事を進める必要があります>
ーー実際、指摘されたように、松本氏側としては、このまま長期間にわたって実益の少ない裁判に労力と時間を費やすよりも、早期に決着をつけることを選択した可能性が考えられます。特に、裁判が長引くことで生じる社会的な影響や、事務的負担も無視できないものであり、企業としてのリスクや関係者への影響も踏まえた現実的な判断があったのかもしれません。訴えを取り下げるという決断について、どのように受け止めるべきでしょうか。
野澤隆弁護士
早期解決の場合でも、あれだけ啖呵を切った松本人志さんの行動を踏まえると、裁判は少なくとも4~5回程度の期日を重ね、ある程度の言い分を主張したり尋問準備が始まったりする段階、具体的には来年の夏から秋頃に和解や訴えの取り下げで終わると予想していました。尋問に至れば、大勢の傍聴人の前で恥をさらすような問答が行われることも予想されますし、書類作成とは異なり、弁護士任せにできるものではありません。
弁護士「この訴訟は現実的な選択肢ではなかった」
こうした状況で期日を重ねると、冷静に現実的な判断を本人が下すことが多いからです。マスコミ報道レベルで出ている情報を分析した限りですが、年内決着で終わった経緯を見たところ、法律専門家としては、この訴訟は現実的な選択肢ではなかったのだろうと判断せざるを得ません。
ーー松本氏側が解決を急いだ理由は何が考えられると思いますか。
野澤隆弁護士
あくまで推測ですが、今回の件には、松本人志さん自身の人気商売としての側面と、吉本興業という組織を守る側面の両方が影響していると思われます。芸能人にとって、5年や10年という長い時間を無駄にすることは致命的です。また、松本人志さんのような大物の場合、その行動や印象は個人だけでなく、吉本興業という組織全体に影響を及ぼします。
もし裁判が長期化すれば、その影響は同じ事務所の芸人仲間にも波及し、多大な迷惑をかける可能性が高いです。特に吉本興業が関与しているクールジャパンや大阪万博といったソフト分野の事業では、企業ブランドやイメージの維持が極めて重要になります。
松本人志の完敗だったのか
これらの事業は、参加できる企業が限られており、随意契約や形だけの競争入札が行われることも多いです。そのため、企業としての信頼性や役所・政治家に対する良い印象を保つことが最優先事項となります。
松本人志さんに影響を与えた人物たちは、この組織の最優先事項を考慮し、説得を試みたのではないでしょうか。そして、松本人志さん自身も組織における重要な立場にいる以上、最終的にはその説得を受け入れたと考えられます。組織人としての責任感が、今回の早期解決に至る決定を後押ししたのではないかと思われます。
ーー「取り下げ」の意味について教えてください。松本氏は「完敗」だったと言うことでしょうか。
野澤隆弁護士
民事訴訟法の条文にある『訴えの取り下げ(261条)』と『請求の放棄(266条)』の違いについては、クライアントからよく質問されます。どちらも裁判が実質的に終わることに変わりはありませんが、大きな違いは、前者では被告(この場合、週刊文春側)の同意が必要であるのに対し、後者では同意が不要という点です。
完全敗北ではなかったという見方も可能
この違いにより、『訴えの取り下げ』の場合は、週刊文春側もこちらの主張を一部受け入れ、これ以上の裁判の長期化を避けることに合意したと、松本人志さん側が主張しやすくなります。その結果、完全敗北ではなかったという見方も可能になります。
また、事件終了後に松本人志さん側と週刊文春側の双方が手堅い外向けのコメントをすぐに出していること、裁判期日が先送りされた経緯などを考えると、秘密保持条項などによる非公開の合意事項が含まれている可能性もあります。さらに、お互いに相手のコメントを事前にチェックし、妥協の産物として今回の解決に至った可能性が高いと考えられます。
ーー週刊文春は「原告代理人から、心を痛められた方々に対するおわびを公表したいとの連絡があり、女性らと協議のうえ、取下げに同意することにしました」とホームページでコメントし、朝日新聞(11月8日)には<週刊文春が昨年12月27日発売号で記事にした女性2人のうち30代の1人は8日、朝日新聞の取材に対して、「割り切れない思いはありますが、一定の謝罪がなされたことは重要で、これでそれぞれが前に進めると感じています」とコメントした>とあった。この両者も「合意」に応じた理由は何だと思いますか。
野澤隆弁護士
被害者とされる女性、そして報道した週刊文春の双方に、早期解決を受け入れる下地があったと考えられます。
目に見える大きな利益を見込むのは難しい
まず、被害者女性についてですが、事件を思い出すこと自体がつらい中で、SNSや一部マスメディアで批判を受けている状況がありました。その批判は、裁判が続く限り終わらない可能性が高く、想定以上の精神的疲労が重なり、もう関わりたくないと考えたとしても不自然ではありません。
次に、週刊文春についてですが、発行元である株式会社文藝春秋が公に語るのは難しいとしても、『訴訟経済』、つまり「お金」の問題が大きな理由だったと考えられます。週刊誌業界全体が厳しい経営環境に置かれている中で、松本人志さんや吉本興業関連の記事を続報として出したとしても、目に見える大きな利益を見込むのは難しい状況です。こうした中で、弁護士費用や担当社員の人件費をこれ以上負担することは非効率と判断し、早期解決に応じたのはやむを得ない経営判断だったと言えるでしょう。
松本人志復活への道
ーー松本氏は芸能界へと復帰できるのでしょうか。
野澤隆弁護士
『君主論』で有名なマキャベリの言葉に「戦争はやろうと思ったときに始まるが、やめたいと思ったときに終わらない」というものがあります。この格言に照らすと、松本人志さんの裁判が早期に終わったことは珍しく、むしろ良い結果だったと考えます。個人的には「松本人志さんの独り相撲だったな」と感じる人も多いのではないかと思いますが、早期解決に至ったのは肯定的に捉えるべきでしょう。
今年2月22日の記事で私が述べた「裁判を和解や訴えの取り下げによって解決し、業界内でスポンサーや芸能関係者に謝罪訪問を行い、さらに記者会見で公に対応するのが最善の策ではないか」という見解に沿った展開が今後見られるかが注目されます。
日本社会は、不景気が長く続く中で社会的寛容が失われつつある側面がありますが、かつて北野武さんがフライデー襲撃事件から復帰した例を見ても分かる通り、一定の社会的制裁を経た後に才能ある人物が再び活躍する場を設けることは、社会として決して間違いではないと考えます。
以上が野澤隆弁護士の見解である。被害者が関与する事件であった以上、今後の道のりは決して平坦ではないだろう。しかし、仮に復帰を目指すのであれば、深夜枠のテレビ番組出演やインターネットを活用した動画配信など、小規模な活動から徐々に再スタートを切るのが妥当と考えられる。すでに被害者との間で「一定の合意」に達している現状を踏まえつつ、慎重に行動できるかどうかが重要であり、その姿勢を世間は注視している。

