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351cu.inでファストバックのみのマッハ1

1969年から1970年の間にフォード・マスタングを検討していたら、ボス302より親しみやすい、ホモロゲーション仕様以外へ惹かれても当然だろう。1969年までは、390GTという選択肢が用意されていた。

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しかし、GTという響きに特別さは薄かった。シボレーやポンティアックの競合モデルに並ぶほどの性能も、備わっていなかった。そこで追加されたのが、マッハ1だ。1969年のコンセプトカー、レバカール・マッハ1が、名前の由来になっている。


フォード・マスタング・マッハ1(T5/1969〜1970年/北米仕様)

ボディはボス302と同様に、ファストバックのスポーツルーフのみ。価格は3271ドルとお手頃な設定ながら、中身はゴージャスなものだった。

マットブラックに塗られたボンネットには、ギミックだが、シェーカー・スクープを装備。ナスカーを模したボンネットピンが与えられ、ボディ・サイドとリアには専用ストライプが貼られた。

ステアリングホイールは専用アイテム。ハイバックのバケットシートが組まれ、フェイクウッドのトリムが車内の雰囲気を高めた。

V8エンジンは、2バレル・キャブレターが載った、351cu.in(5752cc)のウインザー・ユニットが当初の標準。オプションで4バレル・キャブレターを組めたほか、390cu.in(6390cc)や428cu.in(7013cc)のビッグブロックも提供された。

リアデフはオープンで、トランスミッションは3速マニュアル。その後、4速マニュアル
へアップデートされ、3速オートマティックとリミテッドスリップ・デフも選べるようになっている。

最高出力253ps 最大トルク48.9kg-m

今回ご登場願ったレッドのマッハ1は、モデルイヤーとしては1970年式。その時点でウインザー・ユニットからクリーブランド・ユニットへ変更されており、マスタング・ボス308と同じ、高性能なヘッドも獲得している。

多くの例と同様に、このマッハ1にもオプションがふんだんに指定されている。しかし、エンジンはオリジナルの2バレル・キャブレターのまま。最高出力253ps/5400rpmと最大トルク48.9kg-m/3400rpmを発揮する。


オレンジのレッドのフォード・マスタング・ボス302と、フォード・マスタング・マッハ1

ステアリングにはパワーアシストが装備され、トランスミッションは3速オートマティック。オープンデフということもあり、シリアスなボス302と比較して、おおらかなアメリカン・ドライブとの相性が良い。

2009年に当時で7万5000ドルという大金が投じられ、完璧な状態へレストアされている。2017年に英国へ輸入されたという。

2023年にステアリングホイールを握ってみても、ボディは大きく感じられる。シェーカー・スクープが、前方視界で存在感を放つ。リアピラーが太く、斜め後方の視界は良くない。それでも、狭い英国の一般道でもフロントノーズを導きやすい。

ダッシュボードのデザインは左右対称。助手席側には、時計とモデル名のエンブレムが並ぶ。運転席側にはスピードメーターのほかに、油圧、電圧、燃料計などの補助メーターがずらり。オプションのタコメーターは、この例には備わらない。

正確性の高いステアリング 悪くない姿勢制御

V8エンジンを目覚めさせると、マッシブなひと吠えを響かせるが、アイドリングは静か。エグゾースト系はオリジナルのままだが、デトロイトのV8エンジンらしい、独特のビートが伴う。

滑らかに変速する3速ATと相まって、リラックスした走りが心地良い。アグレッシブな見た目とは、少々対照的でもある。当時は、あからさまに唸りを上げる、社外マフラーへ交換するオーナーも多かったはず。


フォード・マスタング・マッハ1(T5/1969〜1970年/北米仕様)

ホワイトレターのBFグッドリッチ・タイヤは、15インチで扁平率が65。カーブでは、高くない速度でもスキール音を聞かせるが、優しい乗り心地を叶えている。

ステアリングは予想通り。非常に軽く、切り始めにデッドゾーンがある。とはいえ、ドラッグレースを得意とするモデルとしては正確。1970年代初頭のアメリカ車の割に、姿勢制御も悪くない。

コーナリング時に厄介なのが、ステアリングホイールのリムの内側に巡らされた、クラクション・リング。通称リムブローと呼ばれるが、うっかり握ると鳴らしてしまう。

対してオレンジ色のボス302は、1974年からグレートブリテン島で過ごしてきた。マッハ1とは対象的に、スポーティなスタイリングへ走りが合致する。

運転席へ座ると、ステアリングホイールは平凡な2スポーク。リムブロー機能はない。ダッシュボードのデザインはマッハ1と基本的に同じだが、運転席側にはタコメーターが備わる。

トランスミッションは、クロスレシオの4速マニュアル。ハースト社のシフターがやる気をそそる。

4000rpmから5000rpmで最高の豊かさ

エンジンを始動させると、ライブ感たっぷりなV8エンジンのノイズが車内を満たす。賑やかさでいえば、マッハ1の比ではない。発進に必要な回転数まで吹かすと、レーシングカーのホモロゲーション・マシンらしく、一層うるさい。

シフトレバーを倒し1速を選ぶだけでも、それなりの力がいる。ストロークの長いクラッチペダルは重い。全身を使って運転するタイプだとわかる。


フォード・マスタング・ボス302(T5/1969〜1970年/北米仕様)

2000rpm以下では目立ってパワフルな印象はない。それを超えるとハードコアなサウンドが野獣の雄叫びような響きへ転じ、4000rpmから5000rpmの範囲で最高の豊かさを楽しめる。マッハ1より乗り心地は硬く、路面をしっかり捉える。

ところが、ステアリングの反応は驚くほど一貫性が乏しい。切り始めで特にフィードバックが希薄で、きついカーブを攻め込むには、感覚から反応を予想する必要がある。グリップ力は高く、実はもっとペースを速められることを知る。

クーパー・コブラ・タイヤが路面を安定して蹴り、旋回性は悪くない。タイヤはスキール音を発しにくく、車重が1539kgあるマッスルカーとしては、コーナリングでの充足感がある。

ボス302で悩ましい部分が、動きの渋いシフトレバー。常に相応の力が求められるが、3速から2速へのシフトダウン時は感触が曖昧で、気配りも必要になる。パワートレインの熱が上昇すると、一層の筋力も必要になるようだった。

マッスルカーの代表格的なカリスマ性

どちらのマスタングも、グレートブリテン島で最高のドライビング体験を提供するファストバックとはいえないだろう。正直なところ、身のこなしは鈍重。ハリウッド映画の見せ場のような、機敏さは感じにくい。

それでも、マッスルカーの代表格的なカリスマ性は否定できない。マッハ1のエグゾーストノートをもう少し聴きごたえのあるものにすれば、筆者にとって理想的なアメリカン・クラシックカーになりそうだ。


オレンジのレッドのフォード・マスタング・ボス302と、フォード・マスタング・マッハ1

協力:レトロ・クラシックカー社、クラソーンホール・ホテル

ボス302とマッハ1 2台のマスタングのスペック

フォード・マスタング・ボス302(T5/1969〜1970年/北米仕様)

北米価格:3720ドル(新車時)/10万ポンド(約1610万円)以下(現在)
販売台数:7013台
全長:4674mm
全幅:1821mm
全高:1275mm
最高速度:220km/h
0-97km/h加速:6.5秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1539kg
パワートレイン:V型8気筒4949cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:294ps/5800rpm
最大トルク:40.0kg-m/4300rpm
ギアボックス:4速マニュアル

フォード・マスタング・マッハ1(T5/1969〜1970年/北米仕様)

北米価格:3271ドル(新車時)/5万ポンド(約805万円)以下(現在)
販売台数:11万3428台(初代マッハ1合計)
全長:4674mm
全幅:1821mm
全高:1275mm
最高速度:206km/h
0-97km/h加速:7.9秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1545kg
パワートレイン:V型8気筒5752cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:253ps/5400rpm
最大トルク:48.9kg-m/3400rpm
ギアボックス:3速オートマティック