この記事をまとめると

■登場した当初のトルコン式ATはMTに比べて伝達ロスが大きく燃費も劣っていた

■エンジンとミッションを直に繋ぐロックアップ機構の開発でトルコン式ATの燃費が改善

■トルコン式ATは、技術の進化がそれまでの常識を覆した一例となっている

「ATはMTよりも燃費が悪い」が常識だった

 現代のドライバーはそれほど気にしていないのかもしれないが、ひと昔前、MT(マニュアル・トランスミッション)とAT(オートマチック・トランスミッション)では、いろいろな部分、領域で違いが見られていた。歴史をたどれば、手動操作でギヤを切り替えるMTが原点で、時代の流れのなかで技術が進歩し、その結果、変速作用を機械が自動的に行うATが考え出されたことはよく知られるとおりだ。

 クラッチペダルを踏まず、シフトレバーを操作する必要もないATは、自動車の運転操作を簡略化し、ラクに運転が行えるメカニズムとして一大革命だったが、実用化当初のメカニズムは、MTと較べて動力伝達上の損失が大きかった。ATのメカニズムは、今も昔もその主流は変わらず、封入したオイルによって動力を伝達するトルクコンバーター+機械式変速機の方式で、クラッチの役割を果たす部分がオイル(液体)であるため流体継手とも呼ばれている。ただし、トルクコンバーターは、入力側と出力側の回転差を利用してトルクを増幅する働きがあるため、単純な流体継手とは異なっている。

 さて、このトルクコンバーターを使ったAT機構だが、エンジン出力をトルクコンバーターのオイルによって伝えているため、入力側より出力側が数パーセント前後低い回転数となってしまう。つまり、伝達ロスが発生するわけで、このロスの分が、機械的に1対1でエンジン出力を伝達しているMT方式より燃費を悪くしていた。

ロックアップ機構+多段式でトルコンATの燃費はMTと遜色ない

 逆の言い方をすれば、AT方式から見た自身のウイークポイントは、損失による燃費性能の悪さで、これの改善は早い段階から取り組まれていた。トルクコンバーターのウイークポイントが、オイルを介した動力伝達にあるのなら、オイル(流体)を介さない動力伝達とすればよいのでは、という考え方が生まれたのである。

 これを具体化した方式が、ロックアップ機構を持つATである。エンジンとミッションを直結にする「ロックアップクラッチ」を設け、いくつか設定した運転条件がそろった場合に、トルクコンバーターをパスしてエンジンとミッションをダイレクトにつなぐシステムを考え出したのである。

 初期のロックアップ機構は、最上位ギアのみに作動するシステムだったが、技術革新が進み、全段ロックアップ機構を備えるAT方式が確立した。もちろん、トルクコンバーターが作動する領域はあるのだが、巡航時やギヤをホールドしたときなどはロックアップクラッチを働かせ、MT車と同じ動力伝達が行える方式となっている。

 このため、入力側と出力側で回転差が生じることもなくなり、エンジン出力はロスなく100%トランスミッション側に伝達するることが可能となった。もちろん燃費性能は改善され、MT車と遜色ない数値をマークできるようになったというわけである。

 トランスミッションは、長らくMT方式が最高性能と見られてきたが、トルクコンバーター式ATでもロックアップ機構の組み込みによりMTと遜色ない燃費性能を確立することに成功しているし、純然たるスピードを競うモーターレーシングの世界でも、デュアルクラッチ方式の考案により、こちらのほうが「速く走れる」トランスミッションとなっている。技術の進化は、これまでの常識を逆転することも可能、と驚かされてしまう。