「あぁ、美味しいっ……!」
 少し裏返るような声を上げ、加藤諒(30)の愛くるしい眼が、くるり宙を泳いだ。「茶亭 羽當」に立ちこめるコーヒーの香りは甘くまろやかで、近くの明治通りの喧騒が、嘘のようだ。

「僕、ふだんあまりコーヒーは飲まないんです。『飲むときは外で』と決めています。喫茶店のコーヒーは、家で淹れるのとぜんぜん違いますし、とくにこのお店のは格別ですね。酸味も苦みもちょうどよくて、ケーキが進む感じ。

 最初は友達に連れてきてもらい、グループでも来ていますが、最近ではひとりが多いです。少し “贅沢したいな” という、自分へのご褒美のときに……」

 緊急事態宣言のあいだは、「ずっとステイホームしていました」という。

「ようやく外に出られ、少し日常を取り戻した感じですね。自粛期間中は、友達とZoomで話すためにWi-Fiルーターを買ったり、春になってかえって寒くなったから、暖炉型のヒーターを買ってみたり……。あと、体重80kgまで乗っても大丈夫な牛のぬいぐるみも(笑)。

 それまで断捨離生活を送っていて、今もベッドはないんですけど。最近、地震も多いですし、机の下に潜って寝ると、すごく落ち着くんです(笑)」

 お茶目なトークは、バラエティ番組のようだ。加藤は1990年、静岡市に生まれた。エンターテインメント全般が好きな一家だった。

「母はバレエを習っていたし、落語も好きで、林家木久扇さんを聴きに行ったり。その影響は、ありますね。5歳からミュージカルスタジオのレッスンに通っていて、そのころから芸能界への興味はありました」

 2000年、10歳で映画『金髪の草原』(犬童一心監督)に出演し、デビュー。同時期に出演した『あっぱれさんま大先生』(フジテレビ系)では、明石家さんまとの掛け合いが人気を呼んだ。

「静岡では、放送していなかったんですけどね(笑)。中学・高校でもテレビや映画に出ていましたが、静岡から東京への通いですし、撮影に参加できるのは、土日か春休みや夏休みくらい。当時はまだ、学業優先だと考えていました」

 この仕事をずっとやっていこう、と思えたきっかけが、映画『HINOKIO』(秋山貴彦監督、2005年)に出演したこと。多部未華子の映画初主演作で、加藤はボーイッシュなヒロインに憧れる “子分” 役を演じた。

「ほかの共演者である本郷奏多さん、堀北真希さんも、みんな当時15歳くらいで、小6の役をやっていました。

 CGを駆使する作品で、ほぼブルーバックで撮影。演じるのが難しかったんですが、完成した作品を観て、すごく感動したんです。ずっとこういう感動を生み出して、残していきたいと思いました」

 だが、オーディションには、なかなか受からない。審査員には、演技を認められながらも「主役より “悪目立ち” する顔」だと、冷酷な言葉も浴びせられた。

「26歳くらいまでは、映画もドラマも、年に数えるほどしか出られませんでした」

『あっぱれさんま大先生』に出演していた、10歳のころ。

 大学時代は、舞台美術を専攻。自分でオーディションやワークショップを探しては受け、役者として生き残るために必死だった。

 2015年、『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)に出演し、5歳から鍛えたキレのあるダンスを披露。強烈なインパクトを残すと、2016年には同番組で、憧れのきゃりーぱみゅぱみゅとも共演した。

「そのときは、連絡先の交換なんて、とてもできなかったです。でも、その後 “日本一有名な一般人” の野崎くん(芸能界に交友関係が広く、メディアにも登場する会社員)が、あいだを取り持ってくれて、オランウータンに会いに、一緒に多摩動物公園に行ったりしました。

 いまでは、オンラインの人狼ゲームなんかして、ちょうどよい距離感で仲よくさせてもらってます」

 じつは、人見知りだという加藤。オフの日は、ひとりで映画を観まくることが多い。最大で5本を、はしごしたこともあるとか。

「自粛前に最後に観た映画は、『E.T.』と『ジョーズ』。公開延期になった新作の代わりに、急遽上映されていたんです。どちらも、スクリーンで観るのは初めて。『ジョーズ』に漂う不穏な空気が、コロナが忍び寄る感じと、とてもよく似ていると思いました」

「羽當」は、そんな映画旅の合間の “寄港先” でもある。

「近くに渋谷TOEIや、ヒューマントラストシネマ渋谷があるので、上映時間の合間にお邪魔しています。ひとりだとカウンターの席に通していただけるので、そこでバリスタさんの職人技を眺めながら、ブレンドコーヒーかダージリンの紅茶と、シフォンケーキを嗜みます。

 皆さん、コーヒーを淹れるときは真剣な顔をされていますが、常連さんと話すと笑顔になるところが萌えますね(笑)」

 バリスタの寺嶋和弥さんがドリップすると、コーヒーの粉が大きく膨らんだ。周囲を笑わせていた加藤だが、その瞬間、演技を盗むときの役者の眼になった。

かとうりょう
1990年2月13日生まれ 静岡県出身 2000年、『あっぱれさんま大先生』(フジテレビ系)に出演。多摩美術大学在学中に、指導教授の野田秀樹に誘われて初舞台に立ち、卒業後はバラエティ番組でも個性的なキャラと得意のダンスで注目を浴びる。おもな出演作は映画『翔んで埼玉』(武内英樹監督、2019年)、『劇場版パタリロ!』(小林顕作監督、2019年)、ドラマ『ルパンの娘』(フジテレビ系、2019年)など

【SHOP DATA/茶亭 羽當】
・住所/東京都渋谷区渋谷1-15-19
・営業時間/11:00-23:30(LO22:30)※当面のあいだ22:00閉店(LO21:30)
・休み/なし

(週刊FLASH 2020年6月16日号)