※画像はイメージです(以下同)

写真拡大

 2000年代の日本は、「ケータイ文化」が見事に花開いていた。カメラ、音楽プレーヤー、高画質の液晶画面等、海外の携帯電話メーカーが到底実現できないような新機能を日本メーカーは躊躇なく詰め込んだ。これは技術力の賜物でもある。

 中でも「おサイフケータイ」は革新的な機能だった。携帯電話がクレジットカード代わりになるのだ。このおサイフケータイの実現に一役買ったのは、ソニーの開発した『FeliCa』である。かんたんに言えば、駅の改札でSuicaをピッとタッチしたり、コンビニのレジで電子マネーを使ったり、という支払いの技術だ。

 スマートフォンが普及した現在、日本のモバイル決済事情を語る上でこのFeliCaは引き続き重要なカギを握っている。

◆FeliCaは日本独自のスピーディーな「タッチして支払い」端末

 近距離無線通信規格NFCは、複数種類存在する。巷では「ICチップ」と呼ばれているNFCだが、これをカードやスマホに組み込むことで「タッチして支払い」が可能になる。交通系ICカードに内蔵されているのもNFCだ。

 ただし、日本の場合はこの分野でもガラパゴス現象が起きている。世界の主流のNFCは、タイプAとタイプB。一方でおサイフケータイや交通系ICカードを含めた日本のNFCは、タイプFが大きなシェアを確保している。このタイプFこそが、ソニーのFeliCaである。

 FeliCaの通信速度は、他のタイプと比較して優に2倍に達する。鉄道の自動改札機を使うとよく分かるが、FeliCa内蔵の交通系ICカードは歩行速度を落とすことなくそれを端末に読み取らせることができる。海外のICカードでは、そうはいかない。

 ある意味で日本人の働き方を象徴しているかのようなFeliCaだが、それ故に世界の主流とは別の生態系を生み出してしまった。

iPhone7がテクノロジー界隈をザワつかせた理由

 2016年にAppleが発表したiPhone7は、日本のテクノロジーライターを驚愕させる内容だった。日本向け仕様の端末に、FeliCaが内蔵されていたからだ。海外メーカーのスマホがFeliCaを加えることは、ほとんどない。それはFeliCaが日本でしか使われていない代物だからだ。そう書くといささか語弊が出てくるかもしれないが、それでも日本のように「主流」を形成しているわけではない。現にAndroid端末でFeliCaを内蔵しているものは、総じて国内メーカーの製品である。

 しかし、FeliCaはプレイヤーが増え過ぎた日本のキャッシュレス決済戦争を終わらせる可能性も秘めている。QRコード決済とは、端的に言えば「低価格スマホ所有者向けのサービス」である。NFC搭載のスマホはどうしても中価格帯以上のものになってしまう。しかし、QRコードはスマホにカメラさえ内蔵されていればいい。だからこそ、新興国ではQRコード決済サービスによる社会のキャッシュレス化が凄まじい勢いで進んでいる。

 逆に言えば、FeliCa搭載の「おサイフスマホ」が普及すればQRコード決済サービスの影が薄くなっていくということだ。

◆中国メーカーがFeliCa搭載機を開発

 中国のスマホ製造メーカーOPPOが昨年投入した『OPPO Reno A』が、テクノロジー界隈でちょっとした話題になった。一言で言えば、この機種は「3万円台で買えるFeliCa搭載機」だ。3万円台とは中価格帯だが、そのような機種にFeliCaが内蔵されるというのは「異例中の異例」である。無論、このReno Aは日本限定モデルだ。

 ところで、OPPOというメーカーはあまり聞き慣れないという人が多いかもしれない。テクノロジーメディアの関係者やガジェットマニアはともかくとして、ごくごく普通の生活を日本で送っている諸兄姉にとっては「よく分からない海外メーカー」というのが正直な思惑ではないか。

 しかし新興国では、OPPOは革命的なメーカーとして認知されている。低価格高品質のAndroid機種を次々に市場投入し、それまで高級品だったスマホを「ありふれたもの」にしてしまった。最低法定賃金が月200ドル程度の国の市民にとって、OPPOのスマホは「生まれて初めてのネット接続端末」である。

 そんなOPPOは、今後もFeliCa搭載機の開発に注力すると公言している。皮肉なことであるが、日本独自の機能であるおサイフケータイの復権は海外メーカーにかかっているのだ。<文/澤田真一>

【澤田真一】
ノンフィクション作家、Webライター。1984年10月11日生。東南アジア経済情報、最新テクノロジー、ガジェット関連記事を各メディアで執筆。ブログ『たまには澤田もエンターテイナー』