医学的に証明された"百薬の長"になる酒量

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「酒は百薬の長」と言うけれど、もちろん飲み過ぎは体に毒。いったいどのくらいが適量なのだろうか。救急医療の最前線で活躍しつつ、オンライン健康相談「first call」で相談医を務める石川陽平氏が、最新の研究成果に基づく「適量」をアドバイスする――。

■全く飲まないより、少し飲んだほうが体に良い?

救急の現場にいると、飲みすぎて急性アルコール中毒になった方や、飲酒後に転倒してけがをされた方が、救急車で搬入されることが少なくありません。とはいえ、私自身もお酒が好きな部類の1人です。飲みすぎて反省することもしばしばあり、「お酒は止めてくださいね」と患者さんに伝えつつ、「自分もだけど」と心のなかでつぶやいています。

そこで今回は、科学的に証明されたお酒のメリット・デメリットをひもといていきます。実は、お酒は全く飲まないよりも、少し飲んだほうが体に良いという数値データが出ているのです。お酒にまつわる知識をつけて、楽しく飲み会に参加しましょう。

※今回の解説は、20歳以上の健康な男性、および妊娠していない20才以上の健康な女性についてのものです。病気をお持ちの方や、医師から飲酒を制限するよう指導されている方は、そちらの指導を優先してください。

まず、これからの解説を進めていく上で、アルコールのカウント方法について説明します。毎回アルコール度数を掛け算するのは、飲み会の席では現実的ではないので、「1ドリンク」という単位を設定します。

ここでは、350ml缶のビールひと缶(アルコール度数5%)を1ドリンクとします。アルコール量にして14g程度です。各種のアルコールはおおよそ次のような換算になります。

ビール350ml(5%)=1ドリンク
ワイン1杯(125ml)(14%):0.8ドリンク
日本酒1合(180ml)(15%):1.5ドリンク
焼酎1合(25%):2.5ドリンク
ウイスキーシングル(30ml)(43%):2ドリンク

■少しだけ飲むほうが死亡リスクは下がる

さて、カウント方法を覚えたところで本題に移りましょう。「酒は百薬の長」という言葉の真偽について、科学のメスを入れます。酒飲みの方であれば1度は聞いたことがある言葉でしょう。

この言葉は、中国の「漢書 食貨志」に記されていたそうで、「適量飲めば、他のどの薬よりも勝る」という意味です。おおよそ2000年ほど前の書とのことで、人と酒との長い歴史を感じます。ただ、これが書かれた時には「適量」がどれくらいなのかは正確にはわからなかったと思います。それから2000年の間、医学者は研究を重ねました。そして、それらの研究を統計的にまとめた論文が、2006年に発表されました(※1)。

これはイタリアの研究者たちの発表で、「健康に良い飲酒量」について、2005年までに発表された研究論文を統計学的に処理したものです。研究対象となったのは、約101万人の成人です。すると、飲酒をしていない人よりも、少し飲酒をする人のほうが、死亡の相対リスクが低いことがわかりました(図表2)。

そして、この研究において最も健康に良い(死亡の相対リスクが低い)飲酒量は、男性では1日あたり0.5ドリンク(アルコール量にして6〜7g)、女性では1日あたり0.3ドリンク(アルコール量にして4g)という結果となりました。この結果から、お酒を本当に「百薬の長」にするための適正量は、理想的には男性は0.5ドリンク、女性は0.3ドリンクという結論になります。2人暮らしであれば、ビールの350ml缶を2人で分けて飲むくらいが1番良いということですね。

この結果でもう一点、男性では1日2〜3ドリンク程度まで、女性では1〜2ドリンク程度までは、全く飲まない人よりも死亡リスクが低いという結果になっているのには、驚かれる方も多いのではないでしょうか。

日本の厚生労働省は、こういった科学的知見をもとに、節度ある適度な飲酒としては、1日平均純アルコールで20g程度(上の単位にして、1.4ドリンク)を推奨しています。また、現在飲酒していない人が無理をしてこの量まで飲むことは推奨していません(※2)。

ちなみにお酒をコントロールする方法として、「1週間のうち6日はお酒を我慢して、残りの1日で大量に飲んでストレス解消しよう!」と思っている方もいるかもしれませんが、それはリスキーです。1〜2時間以内に3ドリンク以上を平らげてしまう飲み方は、“ビンジドリンカー(binge drinker)”と呼ばれます。簡易に和訳すると、“ばか飲み”です。これをしてしまうと、過剰な食欲増加につながったり(※3)、心筋梗塞後の患者さんなどでは突然死のリスクが2倍になるなどの報告が挙がっているので注意してください(※4)。

■「少量だけ飲める人」は「飲み方がうまい人」かもしれない

今回ご紹介した研究を、意外に思われた方もいるかもしれません。「少し飲めば体にいいらしいよ」というのは飲酒の免罪符にすぎない、と感じる方もいらっしゃるでしょう。ただ、海外でも、日本でも、少量のアルコール摂取が体に良いという事実は科学的に正しいと言えます。

とはいえ、この研究には落とし穴もあります。多くの研究は、「普段どのような飲酒をしていますか?」と聞いたうえで、その人たちの健康状態を何年間も追跡しているものです。ですから、「少量のアルコールが体に良い」という結果は、もしかすると「少量だけに抑えられる、飲み方のうまい人」の性格そのものを反映している可能性があります。つまり、これを読んでいただいた皆さんが「少量飲酒」を達成できたとしたら、それができる性格や意志そのものが、健康にいい行動や生活習慣につながるかもしれません。

お酒が好きな人にとって、お酒は日々の大切な楽しみですが、飲みすぎて体を壊してしまっては元も子もありません。この際、お酒を「百薬の長」にすべく、適度な飲酒を心がけて、健康を高めるキッカケにされてはいかがでしょう。

■健康を高めるには「行動」が大切

私が救急の現場で臨床に従事しながら、オンライン健康相談「first call」の企画に従事しているのは、健康を高めるためには、医療機関での「検査や投薬」だけでなく、普段どのように生活を送ればよいのかといった「行動」が大切なことを痛感しているからです。

このコラムでは、普段病院で患者さんにはなかなかお伝えできない、ちょっとしたことだけれども実は大切な、「行動」に焦点を当てて、科学的なエビデンスをもとに皆さんの疑問にお答えしていきます。個別に医師に聞いてみたい事がありましたら、「first call」でも気軽にご相談ください。

【参考文献】
※1 Di Castelnuovo A, Costanzo S, Bagnardi V, Donati MB, Iacoviello L, de Gaetano G. Alcohol dosing and total mortality in men and women: an updated meta-analysis of 34 prospective studies. Arch Intern Med. 2006 Dec 11-25;166(22):2437-45.
※2 厚生労働省 健康日本21(アルコール)より
※3 Stickley A, Koyanagi A, Koposov R, McKee M, Murphy A, Ruchkin V. Binge drinking and eating problems in Russian adolescents. Alcohol Clin Exp Res. 2015 Mar;39(3):540-7.
※4 Mukamal KJ, Maclure M, Muller JE, Mittleman MA. Binge drinking and mortality after acute myocardial infarction.

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石川 陽平(いしかわ・ようへい)
オンライン健康相談「first call」相談医
医師/聖路加国際病院救急部/東京慈恵会医科大学分子疫学研究部。2007年東京慈恵会医科大学入学後、世界保健機関(WHO)ジュネーブ本部インターンなどの経験を経て、13年より聖路加国際病院に入職。14年度、聖路加国際病院ベストレジデント。現在は、聖路加国際病院・救急部医師として臨床に従事する一方、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部にて研究を行う。15年にMediplat(現メドピアグループ)の設立に参画し、オンライン健康相談サービス「first call」の企画・運営も行っている。

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(オンライン健康相談「first call」相談医 石川 陽平)