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平昌オリンピック真っ只中。冬季競技アスリートに注目が集まるこの時期に、都内で女子アイスホッケー界の新星・笹野文香(SEIBUプリンセスラビッツ)に会った。 美貌と実力を兼ね備えた、NEXT平昌世代。海外の強豪相手にも当たり負けない恵まれた体格のDFは、強烈なシュートを放ち、FWへキラーパスを供給するなど攻撃力のある次世代スタイルだ。東北・八戸で本格的にアイスホッケーを始め、大学入学を機に上京してまもなく2年。平昌五輪日本代表に8人を輩出する名門SEIBUプリンセスラビッツで共に汗を流したチームメイトは笹野の目からどう見えているのか?

また、14日に女子アイスホッケー代表「スマイルジャパン」が南北合同チーム「コリア」と対戦するが、彼女はそのベースとなる韓国代表とも対戦している。五輪本番を間近に控え、そのとき感じた思いを聞いた。

撮影 岸本勉 中村博之(PICSPORT)/取材 関谷智紀/構成 編集部



アイスホッケーのDFは「どんどん攻撃に絡む」



ーーそもそもホッケーを始めたきっかけは?

小学校に入る前に長野に住んでいたのですが、そこで兄や姉と一緒にスケートを始めたのがきっかけですね。その頃は「兄弟とスケートするのが楽しいな」って感じだったんですが、私が小学校に入学する年に家族全員で八戸に引っ越して、そこから高校生までは八戸レッズというチームで過ごしました。八戸では、リンクが3つくらいあるんですけれども、たまに屋外のリンクで練習するときもあって。そんなときは降ってくる雪が顔に当たったりしながらシュートの練習をしたり、走り回ったりしてました。

ーー八戸レッズ時代は全日本選手権で新人王にも選ばれたりなど大型FWとして評価されていましたが、SEIBUでDFに転向しました。その理由は?

実は、ある練習試合のときにチームにDFが足りなくなったというのがきっかけですね。そのときのプレーを八反田(孝之)監督が見て「文香はDFの適性があるんじゃないか。体格もチームの中では大きいほうだし」と言ってくれて。自分でも、プレーの幅を広げるためにDFに挑戦したい、と言う思いがあったので転向は躊躇しませんでしたね。

ーーDFの面白さは?

アイスホッケーのDFは守るだけじゃなくて、攻めにも重要なポジションなんですよ。DFのシュートから繋がって得点に至ることはとても多いので、得点に絡めるのが大きな魅力ですね。DFとしてプレーを重ねるウチにその奥深さにハマって、DFとして上を目指したいという思いが強くなりました。1対1で相手の攻撃を奇麗にカットできたときとか、FWに良いアシストできたときなどは「やったー」って感じです。FWと連携しながらどんどん相手ゴールに攻め込んで行く瞬間は本当に楽しいですね。



ーー笹野さんのシュートはとても強烈です。

今まで、そういうシュートは苦手だったので、一生懸命練習してきましたし、その成果が徐々に出てきたことが本当に嬉しいですね。自分がブルーラインから「バーン」ってスラップショットを打ってゴールにズバッと決まったときなんかは、爽快感というか、嬉しくてもう大はしゃぎですね。もう踊っちゃいたくなるくらい(笑)。もう1人のDFとリンクで抱き合っちゃったりして。

DFって、自分のミスが敗戦に繋がりかねない、という責任感もあるんですけど、その分、自分のプレーで勝利に大きく貢献できる、って実感もあって。そういうところが凄く魅力的なポジションだと思います。

「意識が高い」スマイルジャパン。対する韓国選手は「気持ちが凄くプレーに現れる」



ーーさて、ちょうど今、女子アイスホッケー日本代表・スマイルジャパンが平昌オリンピックで戦っています。SEIBUのチームメイトからは8人も代表に選ばれてますね。

代表選手と一緒に過ごせたのは、SEIBUに移籍してからの2年弱なんですけど、厳しいトレーニングに耐えていく姿とか、オリンピックへの思いを間近に見てきました。本当に悔いのないように戦ってきて欲しいと思っていて、私もテレビの前で全力で応援したいです。

八戸でプレーしていたときは代表メンバーなんて雲の上の存在で、もう憧れるだけっていう感じでした。前回ソチ五輪のときは八戸出身の中村亜実さんの壮行会で姉と一緒に記念写真を撮ってもらっていた位でしたから。こうやってSEIBUに移籍して、一緒にプレーしているのもなんか不思議な感じですね。

ーーSEIBUに移籍して分かった、日本代表選手の凄さとは?

私自身、もっと強くなりたい!とSEIBUに移籍したんですけど、初めて練習に参加したときに驚いたのは、1人ひとりの「強くなりたい」という意識の高さですね。氷上練習が始まる1時間くらい前から、チームとしての陸上ウォーミングアップが始まるんですが、日本代表に選ばれているメンバーはその前から黙々と走り込んでいたり、電気で筋肉を刺激するような機械を使って身体をケアしていたり…。本当に練習に対する意識が高いなぁ、って思いました。

八戸のチームにいたときは、みんなで楽しくできればいいやって、そんな感じでしたから。そういう意味では、本当に刺激を受けていますね。



ーー練習量も違いますか?

そうですね。SEIBUでは週に3〜4回はスケートリンクを借りて氷上での練習ができますし、陸トレを含めれば週6日はトレーニングできています。

ーー2月14日、スマイルジャパンは平昌オリンピックで南北コリア合同チームと対戦します。笹野さんはSEIBUのメンバーとして、韓国代表と練習試合をされてますよね(2016年11月に2試合戦って6−3、2−1と代表選手抜きのSEIBUが連勝)。そのときの印象は?

韓国代表が来日して、この東大和スケートリンクで2試合戦いましたけど、そのときは正直言って技術的には私たちのほうが上だったんじゃないかな、って感じました。でも、韓国のチームは元気だな、っていうか勢いのあるチームだと思いましたね。

ーーSEIBUとの2試合目は、試合時間残り少ないところで反則で2人少ない状態の韓国がカウンターから同点に追いついたりなど、気迫が凄かった印象があります。

韓国代表はフォアチェックだとか、バックチェックだとかしつこく来ていて、気持ちが凄くプレーに現れているなと思いました。

ーー南北合同チームになったという報道を聞いてどう思いました?

韓国の選手たちも今まで同じメンバーで練習してきたのに、ここでいきなり北朝鮮選手と一緒になって試合に出られるチャンスが少なくなるのはモチベーション的にも厳しいんじゃないかなと思います。韓国チームと試合をしたときは、終わったあとに交流会とかもしたんですけどみんなとても良い方で…。開催国でもありますし、韓国のチームも頑張ってオリンピックを盛り上げて欲しいと思っています。

アイスホッケー選手の悩み「荷物の運搬法」とは?



ーー日大の学生でもあります。アイスホッケーの練習時間は深夜になるときもあったりして、学業との両立が大変そうですね。

そうですね。私の場合は朝が弱いので、テストのときなどはチームの練習が終わってから眠くなるまで勉強するのが一番効率が良いですね。だいたい23時くらいから初めて深夜2時過ぎくらいまで勉強してるかも。

この4月から大学のほうでは3年生になります。将来アイスホッケー選手を引退したときに、スポーツトレーナーとしてアスリートを支えられるような仕事をしたいという目標があるので、勉強のほうもおろそかにしないように頑張っています。

ーー凄い!頑張り屋さんだ!

いえいえ、そんなことないですよ(笑)。練習が夜なので、授業ではその場で全部覚えられるように集中して聞くようにしてますが、空いた時間はひたすら昼寝してます(笑)。



ーーなるほど。寝られるときはしっかり寝る、と。で、英気を養って夜の練習に大きなバッグを担いでリンクまで来る、と。

八戸のときとは違って、東京では電車でリンクまで通うんですけど、やはりアイスホッケーの防具は大きいので、気を使いますね。電車に乗ると、すぐドア横のスペースにバッグを置いて、倒れないように壁とバッグの間にスティックを挟んで立てかけて。できるだけチームメイトと同じ電車に乗るようにして、みんなのバッグをポンポンと積み重ねたりコンパクトにして周囲の迷惑にならないように気をつけてます。

ーー大都市のチームならではの悩みですね。

それでも練習時間がラッシュと重なってしまうときがあって…。そんなときは心の中で「ごめんなさーい」と言いながら電車に乗っています。

ーーぜひ読者の方に、電車でアイスホッケー選手を見かけたら優しい気持ちで見守って欲しいとお願いしないと。SEIBUは遠征で飛行機に乗ることも多いですが、工夫していることは?

飛行機だと重量制限があるので本当にパッキングには頭を使いますね。とにかく空いているスペースは有効活用!(笑)。ホッケーパンツの中にレガースを入れて、ヘルメットをショルダーガードでくるんだりとか。あと、スケートの刃はかなり繊細なので、バッグを置いた瞬間、直に地面にぶつからないように防具と防具の間に挟んだりとか…。そんな感じです。

ーー海外の男子選手なんかにインタビューするときは、もわーんと独特の防具の香り…、なんというのかな、高校の授業で剣道をやったときに体育倉庫に入ったときのような強烈な香りが漂ってきたりするんですけど、日本の女子選手は全然匂わないし、逆に凄く良い香りがするというか…。

ああー、たしかに海外はそうかも。私は汗をかいた練習着を入れられるように、メッシュの洗濯ネットを防具バックには必ず入れていますね。練習が終わったら、付けていたアーマーなどもそこに入れて必ず洗うようにしています。防具などは乾かさないと本当に臭くなっちゃうんで、私の場合はグローブは練習2回に1回は必ず洗ってますね。他の防具も必ずファブリーズしたりとかして、ケアしてます。

自称「掃除機」の理由。お米好き、そして「ステーキは500グラムくらい行けるかな?」



ーーなるほど、日本の女性らしい細やかな配慮ですね。ところでチームのホームページによると、「自分を電化製品に例えたら『掃除機』」だとか。そのココロは?

あ、見られちゃいました?(笑)。『掃除機』と書かせてもらったのは、本当に掃除機が吸い込むようによく食べるほうで(笑)。チームの中でも1,2番くらいに量を食べると思います(笑)。

ーー好きな食べ物は?

とりあえず、炭水化物が大好きです。あと、お肉(笑)。最近は馬刺しが大好物で、月に1度くらいごほうびに馬刺しをスーパーで買って食べてます(笑)。お米は大好きですね。お米って、本当にお米だけでもおいしいんですよ!(笑)。噛めば噛むほど、甘いのが出てくるっていうか。お米って、お肉でもお刺身でもどんなものにでも合って、逆にお米がないとお肉食べられないくらいって感じ(笑)。

この間、『いきなりステーキ』に行って、300グラムのステーキを頂いたんですけど、食べ終わったあと物足りないくらいで(笑)。でも、友達と行ったので、みんなに合わせてそこでやめたんですけど、内心「もうちょっと頼めば良かったー」と(笑)。もう100、200グラムくらい行けたかな? ご飯もおかわりしたりして(笑)。



オフからオンへ。彼女の「切り替え」メソッドは、「思いを口にする」。そして、五輪への思いも



ーーところで、アイスホッケーって凄いなと思うのは、普段はにこやかでおとなしい子も、リンクに上がるともう女戦士になっちゃう。まるで別人のようになりますよね。豹変するというか…。

そうですね。そういう選手は結構いますね。

ーーチームメイトにもこの変化は凄いなー、って選手はいますか?

そうですね。中村亜実さんもそうですし、あと日本代表DFの鈴木世奈さんは本当に切り替えが凄いなって思いますね。世奈さんとはDFパートナーを組ませてもらったこともあるんですけど、私がDF転向した直後はスティックを置く位置から細かくDFプレーを教えてくれたりしてくれて……。本当に優しいんです。普段はとってもにこやかで、よく冗談なども言って笑わせてくれる先輩なんですけど、試合時間が近づいてくると、もう絶対に話しかけられないというか、近づけないオーラが満々(笑)。「心の底から試合で勝ちたい」って気持ちがあふれ出ている感じですね。

世奈さんもアグレッシブなプレーが得意な選手なので、スイッチのON/OFFの部分も含めてぜひ見て学んでいければと思ってます。

ーー笹野さんも、試合前に気持ちを切り替えるルーチンとかあるんですか?

正直、決まったルーチンとかはないです。でも、ロッカールームで防具を着けていったり、スケート靴の紐を締めていきながら、自然と気持ちが盛り上がっていきますね。

試合直前のミーティングだとか氷上での円陣で「今日はこういうプレーをします」と思いを口にしているウチにどんどん戦う気持ちに切り替わっていきます。「1対1のぶつかり合いでは絶対に負けないぞ、今日は絶対に勝つぞ!」といった感じで、試合への気持ちを作るようにしています。

ーーお世話になっている鈴木選手を始めとした、平昌で戦うチームメイトたちにエールを。

今のスマイルジャパンは、本当にメダルを狙える強いチームになっていると思うので、1つひとつの試合を大事に、メダル目指して頑張って欲しいと思います。

ーーホッケー選手として、笹野さんの現在の目標は?

3月にスマイルリーグ(日本リーグ)の決勝トーナメントと全日本選手権という女子クラブチームの全国大会が立て続けに北海道で開催されるんですけれども、SEIBUプリンセスラビッツとしては都リーグとも合わせて、その3大会全てに優勝するのが目標です。スマイルリーグは5連覇しているので、6連覇を。全日本は王者奪還が目標ですね。

ライバルには、日本代表キャプテンの大澤ちほさん、米山知奈さんがいる道路建設ペリグリン。獅子内美帆さん、堀珠花さんのいるトヨタシグナス。小野粧子さん率いる御影グレッズ。浮田留衣さんや竹内愛奈さんのいるDaishinとか、北海道の強豪がひしめいているんですけれども、そこをぜーんぶ破って優勝したい。相手が日本代表選手でも、1対1では絶対に負けたくないし、そのつもりで戦います。

ーー代表に定着している相手に良いプレーが見せられれば、また自信になりますね。

実は去年の全日本選手権決勝(SEIBU対ペリグリン)で、私たちは試合時間残り1秒で大澤さんに決められて優勝を逃しているんですよ。あのときは私も氷上にいて、大澤さんの動きを止められなかったし、本当に悔しかった。今年はもう、絶対にそんな思いをしたくない。最後の1秒まであきらめずに、優勝に向かって頑張りたいなと思います。

私にとってのオリンピックは、3月のスマイルリーグと全日本選手権。良いプレーをして、優勝したいです。

ーーそれが叶えば、またその先が見えてきますね。

まだまだ覚えないといけないことがたくさんです。平昌の次、4年後の冬季北京五輪で代表メンバーに選ばれるためには、体力や筋力をもっと付けたいですし、スケーティングの技術ももっと伸ばしたいです。そしてDFとしてのホッケーの知識レベルも高める必要があると思います。ムダのない動きというか、相手の攻めに対して的確なポジションを取ったり、いかに効率よく守れるか、動き自体の質を上げていくということですね。

自分の体格を活かして、守りではどんどん距離を詰めて相手にプレッシャーを与えられるような選手に。その上で、もっとFWと連携してアグレッシブに攻められる、どんどん攻撃参加ができるDFを目指していきたいと思っています。

やはり最大の目標は、スマイルジャパンに入ってオリンピックに出場することです。オリンピックのリンクに立てたときには、ここまでホッケーを続けられてきた感謝の気持ち、厳しい練習を乗り越えたといった思いが一気にあふれてくると思います。4年後には、オリンピックの舞台で、そういった気持ちをプレーで全部ぶつけたいです。



アイスホッケー選手の魅力の1つに、普段とリンクに立ったときとのギャップがある。日々厳しいトレーニングを自らに課し、ひとたび試合になれば相手を倒すために全身全霊をかける一方で、普段の彼女は時に冗談をいい仲間を笑わせる。笑顔を絶やさないその表情はチャーミングだ。つまり、“切り替えのできる女子たち”。

そして、ひとたびリンクで戦った相手に対しても、全力で戦い抜いた相手に対するリスペクトと仲間意識が生まれるのがアイスホッケーというスポーツの良さだ。韓国代表に話が及んだとき、敬意を交えながら慎重に言葉を選ぶ彼女の姿勢にも凜とした美しさを感じた。4年後の五輪の舞台で自分を表現する、という大きな目標のために、彼女は今日も大きなバッグを担ぎ、大好きなスケートリンクへと向かう。




<プロフィール>
笹野文香(ささの・ふみか)
1997年6月26日、長野県生まれ。

2013年女子アイスホッケーU-18世界選手権ハンガリー大会代表。2017ユニバーシアード カザフスタン大会代表。八戸北Jr.−八戸レッズを経て、2016年4月の日本大学入学と同時に、SEIBUプリンセスラビッツに移籍。昨年7月に行われた日本代表合宿ではDFとして招集されている。姉・由紀江さんもアイスホッケー選手。