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「30過ぎて実家暮らしなんて、このままでいいのか」――かねてから、実家にい続ける娘に、頭を抱えていた父。定年を目前に控え、意を決して娘に「自立」を促したところ、待っていたのは、妻の「まさかの言葉」でした。 その内容とは?

 「いつまで親に甘えるんだ」定年前の父が娘に放った一喝

「……瑞希。お前、もう32歳だろう。親に甘えて、いつまでこの家にいるつもりだ。結婚するのか? しないなら一人暮らしをして、自立を考えるのが“普通”なんじゃないのか」

メーカーに勤める中沢浩一さん(64歳)は、意を決して娘の瑞希さん(32歳)に切り出しました。

来年に完全退職を控え、老後の資金について考え始めた浩一さん。家に3万円入れているだけでいつまでも実家で暮らす娘に、「今こそ自立を促すとき」と考えたのは、自然なことだったのかもしれません。

しかし、スマホを置いて顔を上げた娘の返答は冷静そのものでした。

「私の手取り、知ってる? 月21万円だよ。ここを出て都内で一人暮らしをしたら、家賃と光熱費だけで10万円は消える。残りで食費や奨学金の返済、通信費を払ったら、貯金なんて1円もできないよ。それより、今ここにいてしっかり貯金したほうが、お父さんも安心なんじゃない?」

さらに、隣で聞いていた妻・恵子さん(62歳)から、思わぬ援護射撃が入りました。

「あなた、変な一般論で瑞希を追い出さないでちょうだい。私は、この子にずっといてほしいと思ってるんだから」

「一人暮らしはコスパが悪すぎる」

かつては、一定の年齢になったら自立するのが当たり前とされ、30代を過ぎて実家に留まる人は「パラサイトシングル」や「子ども部屋おじさん・おばさん」と揶揄されることもありました。

しかし、現代において、その価値観は通用しなくなっています。

背景にあるのは、物価上昇と賃金の伸び悩みです。様々なものの価格が上がる一方で、初任給引き上げのニュースはあれど、多くの中小企業では実質賃金がマイナスのまま。手取りが低い若者にとって、一人暮らしはコスパが悪すぎる――そんな現実があります。

総務省統計局「労働力調査(2024年平均)」によると、35歳から54歳の未婚者のうち、親と同居している人は、全国に約511万人。実家に住めば、住居費を抑えながら貯蓄ができる。家事を分担できる。――実家暮らしは家族にとって「合理的な選択肢」になっているのです。

家族観や世間体の変化

もう一つ大きいのは、家族観や世間体の変化です。

かつては、周囲の目や親戚の声を気にし、多少苦しくても一人暮らしを選ぶ人も少なくありませんでした。しかし、今は違います。

結婚しない生き方も珍しくなくなり、独身でいることも自然な選択肢になりました。さらに、他人の暮らし方に口を出す風潮も以前より弱まっています。世間体よりも、自分たちにとって快適な暮らしを優先する時代へと変わってきたのです。

中沢家でも、その変化ははっきり表れていました。

「瑞希がいれば一緒にスイーツを食べに行けるし、スマホの新しい機能だって教えてくれる。家事だって手伝ってくれる。あなた、そんなこと何もしてくれないじゃない」

さらに、恵子さんは笑いながらこう続けました。

「結婚して家を出るならお祝いするけど、そうじゃないなら、無理に一人暮らしして苦労することないわ。あなたが退職して、ただ二人で黙々とテレビを見てるより、瑞希がいた方がずっと家の中が明るくなるわ。ねえ?」

自立の定義が変わる時代

結局、中沢家では「当面は3人で暮らす」という結論に。ただし、浩一さんが退職し、収入が減るという現実がある以上、これまで通りというわけにはいきません。

瑞希さんは、家に入れる額を少し増やす。そして、浩一さんは定年後に向けて、少しずつ家事を覚えるという小さな約束をしました。

浩一さんはこう語ります。

「娘が家にいるのは甘えだと思っていました。でも、一人暮らしだけが自立じゃないのかもしれません。私のほうこそ、退職後に妻から“お荷物”と思われないよう、娘に家事を教わらないといけませんね」