●リーガルでもクリエイティブでも先陣を
注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、最先端のAI生成技術を駆使したクリエイターとして先頭を走る、AI映像クリエイターの宮城明弘氏だ。

昨年9月から放送された、全ての映像素材を生成AIで制作したSFショートドラマ『サヨナラ港区』(読売テレビ)を制作し、業界内外を驚かせた宮城氏。今年1月には実写と生成AI映像を融合した『TOKYO 巫女忍者』(日本テレビ)を発表。新時代の作品を次々と打ち出し、現在はGP帯の連続ドラマ『月夜行路 −答えは名作の中に−』(日本テレビ)、『サバ缶、宇宙へ行く』(フジテレビ)の2本にAIクリエイティブディレクターとして携わる。

時代の先端を行く宮城氏だが、そのベースは10年以上の映像プロデューサー経験に基づき、さらにテレビへの純粋な愛着を口にする。ライバルも師匠も不在の中で、戦い続ける宮城氏が、確固たるポリシーを語った――。

宮城明弘
1980年生まれ、栃木県宇都宮市出身。10年以上にわたり映像プロデューサーとしてCMやMVなどの映像企画制作に携わる。その後、AIクリエイターとしての活動をスタート。世界中のプロダクションとマネジメント契約し、現在は、アメリカ、フランス、ベルギー、オランダ、インドなど世界各国とマネジメント契約を締結している。『サヨナラ港区』『TOKYO巫女忍者』とAIを全面的に生かした作品のほか、現在放送中のドラマ『月夜行路 ―答えは名作の中に―』『サバ缶、宇宙へ行く』にも参加。24年にAOI PRO.主催「AI動画コンテスト」クリエイティブ部門優秀賞、25年にフランスAIプラットフォーム「Shaike.ai」認定作家入りし、日本人初のクリエイティブAI映像作家「SHAIKER」メンバーに選出された。25年よりKANA-L HOLDINGS所属になり、さらなるAIの可能性を目指す。">宮城明弘1980年生まれ、栃木県宇都宮市出身。10年以上にわたり映像プロデューサーとしてCMやMVなどの映像企画制作に携わる。その後、AIクリエイターとしての活動をスタート。世界中のプロダクションとマネジメント契約し、現在は、アメリカ、フランス、ベルギー、オランダ、インドなど世界各国とマネジメント契約を締結している。『サヨナラ港区』『TOKYO巫女忍者』とAIを全面的に生かした作品のほか、現在放送中のドラマ『月夜行路 ―答えは名作の中に―』『サバ缶、宇宙へ行く』にも参加。24年にAOI PRO.主催「AI動画コンテスト」クリエイティブ部門優秀賞、25年にフランスAIプラットフォーム「Shaike.ai」認定作家入りし、日本人初のクリエイティブAI映像作家「SHAIKER」メンバーに選出された。25年よりKANA-L HOLDINGS所属になり、さらなるAIの可能性を目指す。

○堤幸彦監督が「私たちをぶちのめす」と恐れる男

――当連載に前回登場した堤幸彦監督が、宮城さんについて「AIで指摘されるリーガル(※著作権、肖像権など)な問題をクリアして制作されているのを聞いて興味深い」「AI映像のクオリティの高さを見て、私たちをぶちのめす存在が出てきたと思って、脅威に感じております」とおっしゃっていました。

光栄でしかないですね。僕が育ってきた中で、『池袋ウエストゲートパーク』や『トリック』など、全部見ていた作品を作った方からそう言っていただけるのは本当にうれしいです。「ぶちのめす存在」というのは最高の褒め言葉だなと感じています。

――堤監督と実際にお会いになったことはあるのですか?

ある現場でお話しさせていただいたことがあります。腰が低くてすごく優しい方なんですけど、映像に対してはちゃんと厳しい。長年これだけの実績がある方が新しい技術をどんどん取り入れるという、その人間性とクリエイティブ能力は尊敬しかないです。若手も負けていられないな、という気持ちになります。

――宮城さんがAIに携わり始めたのはまだ1年半ほどだと伺っています。それ以前はどんなキャリアを歩まれてきたのでしょう。

もともとエンタメが好きで、商社や広告代理店を経て映像業界に入りました。そこから十数年は映像プロデューサーとして、CMをメインにいろいろやっていました。

○「2045年頃にはこうなる」が2024年に起きている世界

――AIとの出会いはどんなきっかけだったのですか?

独立して大阪に出張に行ったとき、たまたまAIを開発している側の人たちと出会って、「映像もこれだけできますよ」というのを見せてもらったんです。その時、僕の周りに自費で作品を作っている売れていない映画監督や役者さんがたくさんいて、彼らの作品にハリウッドテイストのスパイスを加えられたら面白いんじゃないかと思って、独学で始めたのがきっかけです。

――最初からビジネスとして成立させるイメージはありましたか?

どちらかというとプロデューサー的な発想で、こういうものを早く取り込んでやっていった方が面白いことができるし、周りも取り込めるんじゃないかというところが先にあって。例えばタテ型ショートドラマなどでも、背景をAIで作って豪華にしちゃうといったこともやれたらいいな、とか。始めた頃はまだ今ほどのAIじゃなかったんですけど、アップデートが日に日にあって、「2045年頃にはこうなる」と言われていたことが2024年の段階でもう起きていて、驚きの連続でしたね。

――海外からの反響も早かったと聞きました。

自分のSNSなどで発信を始めてから、1カ月くらいのうちに海外からいろいろオファーが来ました。SAM SUNG GALAXYのインド向けCMを先方と遠隔でやりとりして、手掛けたこともあります。その時は納期3日で、1週間後にはもうインドで放送されていました(苦笑)。驚きとともに、「1人のクリエイターがこういう仕事をできる時代なんだ」とあらためて実感しました。日本での認知は約1年遅れという感覚でしたね。

――海外と日本で温度差を感じますか?

今はそこまで差はなくなってきていると思います。テレビ局さんが率先してAIを使い始めてくれているのが大きくて。ただハリウッドがクリエイターの雇用などいろいろ問題を抱えているように、一気に進みすぎたことの弊害もある。そういった先行事例を見ながら、リーガルの部分もクリエイティブの部分も先陣を切ってやっていけたらいいなとは思っています。

――AI映像の精度という意味では、この1年半でどんな変化を感じていますか?

動きの精度は断然違いますね。始めた頃とは比べものにならないくらい。でも、実写と組み合わせたときにどうしてもズレって出てしまうんですよ。いかにそのズレをわからないくらいのレベルまで持っていくか、AIと分からないぐらいのクオリティを作れるようにしないといけない。ただ作れるだけじゃなくて、そのシーンの良さをちゃんと理解した上でAIを使えるように、今も勉強中です。

●徹底したリスク管理の意識「全部ゼロイチで作ります」




『サヨナラ港区』(C)ytv

――宮城さんといえば、読売テレビで放送された『サヨナラ港区』が大きな話題になりました。全編AI映像で制作されたドラマが、地上波放送という意味でも注目を集めました。制作面でこだわったことを教えてください。

今はAIでセリフも言えるようになってきているんですけど、「間」の作り方とか、感情移入できるかどうかという部分は、今のAIにはやっぱりないんです。「AI技術だけでドラマができますよ」となっても感情移入が難しくて、声はAIで合わないと判断したので、声優さんにお願いしました。音響も入れています。AIは映像を担当した形です。

生み出したキャラクターは全部ネット検索による照合と目視で、いろんな人に確認してもらいました。そうやって似ている人が絶対いない状態まで持っていくということを、プロデューサーと一緒に徹底しました。

――具体的に、キャラクターデザインではどのようなことに気を配ったのですか?

既存のキャラクターや実在の人物に似ないようにするために、基本的には全部ゼロイチで作ります。自分で手書きでキャラクターを描いて、それをAIに読み込ませるんです。上手い下手じゃなくて落書きレベルでいいんですけど、それをベースに改良していく。アニメキャラクターが一番怖いので、完全に自分の手描きから入った方が安全だという判断です。

――堤監督も言及されている「リーガルな問題をクリアして制作されている」という部分ですね。

リーガル面は、僕が一番気にしているところです。商業利用で、メディアを通して何かをやるときは、実在の人物を読み込むようなことは絶対にしない。建物や名称、「誰々風」といった表現も一切使わない。そういったことを全部記録として残していて、テレビ局さんとお仕事をするときはプロンプト(※AIへの指示文)の管理資料もご提供するという条件でやっています。

――そこまで徹底するのは、プロデューサーとしてリスク管理をしてきた経験が大きいのでしょうか。

だと思います。全体を管理する側にいたので、リスクは負いたくないというのが染み付いているんですよね。SNSを見ていると著作権関係なく何でもやってしまうケースも目立ちますが、そこをちゃんと管理できない人はビジネスにもつながらないと思います。そしてツールに頼っているだけだと多分みんな作るものが同じになってしまう。使われる側じゃなくて使う側でいるためにも、リーガルの管理とプロンプトの技術で自分のスパイスを足していく。この両輪が重要だと思っています。

――「プロンプトの技術」というのは具体的にはどういうことでしょうか。

テレビ局さんとお仕事をするとなると、著作権の問題から使えるツールが限られてくるんです。そうなったときに、同じツールを使っている中でどうやって差をつけるかというと、プロンプトしかない。僕は1カットを作るのに2000字から3000字打つんですが、「ちょっと入力したらすぐ出てくるんでしょ?」と思われていることは今でも多くて、そこはなかなか分かってもらえないところではあります(笑)



○全編AI制作ドラマは炎上覚悟も…意外な反応

――この分野では、まだライバルもいない状況ですよね。

そうですね。ライバルっていうライバルは本当いなくて。だから、毎日自分との戦いになりますね。

――宮城さん自身が先駆者なので、師匠的な存在というのも難しいとは思いますが、あえて挙げていただくなら?

テレビ屋という意味合いでいくと『サヨナラ港区』を一緒に手掛けたプロデューサーの汐口武史さんかと思います。テレビマンとして、アニメも、バラエティも、実写ドラマもやってきた方で、本当に幅広いジャンルをこなす人物です。『サヨナラ港区』の企画もそういったクロスジャンルの経験値があるからこそ成立した部分が大きい。面白要素を入れる部分とかもすごく上手なんです。

「実写でもアニメでもない中間を取り入れよう」という発想を教わったのも汐口さんからですし、それまでは声がかかった仕事をやれるかやれないかで判断するだけだったので、地上波で流すことを前提に制作を考えるという視点を持てたのも、汐口さんのおかげです。本当に天才肌で、今も見習う部分しかないです。

――そうして徹底した管理とこだわりの上で作り上げた最初の地上波ドラマが『サヨナラ港区』だったんですね。実際に放送されていかがでしたか。

普段SNSを見ていると、反AIの方の声がどうしても目立つので、正直、拒否反応を覚悟していましたが、いざ放送してみると炎上もなにもありませんでした。ポジティブな反応のほうが大きかったのが正直意外でしたし、うれしかったです。

そのあとに放送された、実写と生成AIを融合させた『TOKYO 巫女忍者』(日本テレビ)は、『サヨナラ港区』の放送直前のタイミングですでにミーティングしていましたが、『サヨナラ港区』が放送できたことで、業界の方々から「なんだこれは」という感じでいろいろお声がけいただきました。

――反響といえば、バラエティ番組『沸騰ワード10』(日本テレビ)にも“AIの魔術師”として何度も出演され、話題になっていました。

間宮祥太郎さんなど俳優さんたちもいるスタジオでAI映像を披露したので、一番ドキドキしました。「いいのかな、これやって」という気持ちもあって(笑)。ただやっぱり反響は想像以上で、一般の方にも知ってもらえたという部分が大きかったですね。反AIの方からの反応もありましたけど、「すごいね」「見てよかった」という声のほうが大きかったです。

●言葉と感性があれば映像は作れる…AIが壊した「できない」という壁
『The Unseen Beauty』プロジェクトの作品

――AI映像を作り続ける中で、改めて感じていることはありますか?

僕の中で、AIはあくまで人間の表現を引き立てるための道具で、実写とは別の「AIなんとか」みたいな新しいジャンルを作り上げていきたいなと思っています。

――最近、まったく新しい取り組みもスタートされたそうですね。

視覚障害のある方々と一緒に作ったプロジェクトです。『The Unseen Beauty』というプロジェクトで、全盲の方4名が映像監督となって、音から広がるイメージを生成AIで映像化したミュージックビデオを作りました。コラボしたのは、楽器を一切使わず声だけで音楽を表現するヒューマンビートボックスクルーのSARUKANIで、世界大会チャンピオンの3人組なのですが、「音から世界を作る」というアプローチが今回のテーマとすごく合っていて。楽曲はSARUKANIの「CROWN」をアレンジした「CROWN(Water Remix)」で、4月8日から公開しています。

――どのように制作を進めたのですか?

参加された方々に音を聞いてもらって、そこから広がるイメージを言葉で話してもらい、それをもとに映像を作っていくんです。「水」をテーマにしたんですけど、水ってなければ死んでしまうし、恐怖にもなる。波や流れや循環、いろんな意味合いがあるじゃないですか。それぞれの方が感じた「水の世界」を言語化してもらって、その言葉を僕がプロンプトに落とし込んで映像にしていきました。見えていない世界だからこそ生み出せるものがあると感じましたし、彼らが頭の中で思い描いているものにどれだけ近づけられるかということに、ものすごく向き合った制作でした。

――完成してみてどうでしたか?

一番うれしかったのは、参加してくださった全盲の方が「自分でもAI動画を作り始めました」と言ってくれたことです。この仕事をやっていて本当によかったと感じた瞬間でしたね。AIは、今まで物理的な制約でできなかった表現を可能にするツールでもある。視覚に頼らなくても、言葉と感性さえあれば映像が作れるということが、少しでも伝わったならうれしいです。





『サバ缶、宇宙へ行く』より ※CGなども組み合わせて制作 (C)フジテレビ

○“AIの魔術師”がいま、テレビの現場にいる理由

――ご自身が影響を受けたテレビ番組は何でしょうか?

バラエティなら『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)、ドラマなら堤さんの作品ですね。『池袋ウエストゲートパーク』は何十回も見返しているくらい大好きで、髪型も窪塚洋介さんを真似ていたくらい影響を受けていました(笑)。あとは「日曜劇場」(TBS)のような人間ドラマも大好きです。

――宮城さんご自身、もともとテレビっ子だったとか。

そうなんです。ドラマも全部テレビで見てきた世代なので、逆にテレビを盛り返すための何かをやりたいという気持ちが強くあります。「テレビを見ない」というのがムーブメントみたいになっているような時代感もありますけど、面白ければ結局見るんじゃないかと思っていて。そこにAIがどう絡めるかを、今いろいろ試している感じです。

――AIクリエイティブディレクターとして参加されたGP帯連続ドラマとして、日本テレビ『月夜行路 −答えは名作の中に−』と、フジテレビの『サバ缶、宇宙へ行く』が、現在まさに放送中です。

『月夜行路』は文学をテーマにした作品なので、古き良き風の解説映像のような形でAIを使っています。

『サバ缶、宇宙へ行く』は宇宙が絡むシーンなどを作っています。実写では難しい素材はAIが得意とするところです。ただ今回は「AIを使いました」と大々的に打ち出しているわけではありません。その上で視聴者の方がどう受け取るのかという反応が気になっているところです。「CGかな」と思われるのか「AIかな」と思われるのか。ちょっと実験的な感覚で見ています。

――最後に、宮城さんがいま気になっている「テレビ屋」を教えてください。

やっぱり先ほど挙げた読売テレビの汐口武史プロデューサーです。話せば話すほど面白い方で、テレビの企画の作り方の裏側みたいなものを教わりました。いろんな人に知ってもらえたらと思います。

次回の“テレビ屋”は…



読売テレビ(ytvメディアデザイン)・汐口武史氏

望月ふみ 70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビュー取材が中心で月に20本ほど担当。もちろんコラム系も書きます。愛猫との時間が癒しで、家全体の猫部屋化が加速中。 この著者の記事一覧はこちら