「自動車産業は失敗続き」「ガソリン代は1L約500円代」”環境第一路線”のドイツ経済が悪化し続ける「見逃せない事情」
2025年末、日本では長年の懸案事項だったガソリンの暫定税率が廃止された。「ガソリン代が安くなる」と思いきや、その後の中東情勢の悪化により、原油価格は高騰、政府は緊急的な補助金を投入して何とか現状の価格をキープしている状態だ。自動車大国のドイツでも燃料の高騰が続き、国民生活を圧迫しているという。おまけに環境問題への配慮、電気自動車の増加など――日本以上の課題を抱えているのが現状だ。そこでドイツのガソリン事情について、作家の川口マーン惠美がレポートする。
高騰するドイツのガソリン
「ガソリンの価格が1リットル5ユーロになればいい」と、数年前、緑の党の議員がポロッと言った。そうすれば、皆が車に乗らなくなるだろうと。
緑の党は、ガソリン車が大嫌い。だから、自分たち以外の国民は飛行機にもガソリン車にも乗らず、乗るなら電気自動車、それが嫌なら自転車で移動すべきだと思っている。
なぜ、「自分たち以外の国民は」かというと、緑の党の議員は、電気自動車を公用車として採用したときはXやホームページで大々的に発表するものの、実際にはガソリン車と併用していることをすでにすっぱ抜かれているからだ。普通の国民は、電気自動車は中古がないので高くてなかなか買えない。ましてや用途に応じてガソリン車と併用など、とてもできない。
しかし現在、中東情勢悪化のせいで、燃料費は緑の党の希望通りどんどん上がっていく。ガソリンは2.5ユーロ(4月20日のレートで467円)超えの日もあり、ディーゼルはさらに高い。
これからドイツ人の愛して止まない休暇のシーズンがやってくるが、普段なら自家用車やキャンピングカーで、南フランスやノルウェーにまで行ってしまうドイツ人が、毎日、ガソリン代を睨みがら思い悩んでいる。
しかし、もっと困っているのは業務に車が必要な企業で、経営プランがまるで立てられない。運送業のみならず、多くの中小企業の経営が危ぶまれている。
VWは180万円の電気自動車を売り出した
もちろん、通勤に車を使っている人たちも同じ。公共交通が発達していないから車での移動になるのか、皆が車を使うから公共交通が発達しないのかはわからないが、ドイツでは所得の高低に関わらず、通勤の足は全面的に車に依存しているケースが多い。特に、夜勤や早番のある人は車がなければ職場に通えない。ところが今、職場に通えば通うほど、財布に残るお金が少なくなるから悲劇なのだ。
それを見た電気自動車派は勝ち誇ったように、「だから早く電気自動車に切り替えておけばよかったんだ」などと言っている。おりしも北京では巨大なモーターショーが開催中。2026年4月24日から5月3日まで、中国の電気自動車技術のオンパレードとなっている。
中国におけるバッテリーの開発は目覚ましく、より軽く、より走行距離が伸びているだけでなく、零下34℃でも12分で充電など、信じられないほどの性能のものが披露されている。人類の未来はバッテリーに掛かっていると言わんばかりだ。
1970年代から中国に進出して市場を風靡したVW(フォルクスワーゲン)は、それに対抗しようと、中国でのみ、モデルJETTAを格安価格(1万ユーロ=約180万円)で売り出したが、どうなることやら?
一方、ドイツ国内でも、ガソリン高騰に音をあげた人たちが割安の中国製電気自動車を注文し始めた。しかし、実はドイツは電気代も高い。つまり、ガソリンもディーゼルも電気も、全てEU最高水準というのが実情で、「環境、環境!」という左派の声に乗って突き進んできたCDU(キリスト教民主同盟)が、今、その対策に追われている。
抜本的な対策をすべき!
2026年4月24日、ドイツ連邦議会は国民のガソリン代金負担軽減のための支援策を可決した。それによれば、2026年5月1日から6月30日までの2ヵ月間、ガソリンとディーゼルに掛かっている税金が、1リットルあたり17セント(27円)値下げされる。ちなみに、ガソリンやディーゼルの価格の約半分は税金、および賦課金などである。
ただ、これに関しては野党だけでなく、与党内でも賛否両論があった。
緑の党は、「ガソリンの価格を下げることは、車に乗ることを奨励するようなもので、絶対にバカげている。気候保護政策の後退だ」と反対。
AfD(ドイツのための選択肢)は、「2ヵ月では痛いところに貼る絆創膏のようなもの。しかも、多くの人が休暇に入る7月にこの措置は終わる。付け焼き刃でなく抜本的なガソリン代値下げの方法を模索すべき」。
また、左派党は、「燃料税が17セント軽減されても、ガソリンがそれだけ安くなるわけではなく、おそらく石油メジャーの懐に収まるだろう」と懐疑的な見解。
確かにこれについては連邦カルテル庁が、「軽減された税金が丸ごと消費者に還元されることを期待しているが、もし、そうでない場合も本庁は介入はしない」と言っており、何が何だかよくわからない。
法案のもう一つの中身は、企業が従業員に家計支援のためのボーナスを出せば、1000ユーロ(現行レートで18.6万円)までは免税にするというもの。これも揉めたが、詳細は後述。
ただ、与野党が法案をめぐって揉めるのは毎度のことなので、それはさて措くとして、問題は与党内の深刻な攻防だ。現在のドイツの与党というのはCDUと社民党で、そもそもこの2党が連立していること自体に無理があるが、メルツ首相はAfDを極右として退けているため、連立相手が社民党しかない。しかも、当初は自分が主導権を握って頑張るはずだったが、今や、社民党に逆らって政権が潰れては大変とビクビク。
家計を助けるため、1000ユーロまで非課税に
そのメルツ氏の鼻面を引き回しているのが、クリンクバイル財相(副首相も兼ねている)だが、ただ、こちらも人気はない。要するに、現在のドイツは、景気も悪いし、政治も悪いという最悪の状態で、最新の調査では政府の支持率36%。ちなみに社民党の支持率は党史上最低の12%と壊滅的。
今回、その与党が何で揉めたかというと、社民党の提案した「石油メジャーから過剰利益分を取る」という案についてだ。彼らはそれを、国民の負担を軽減するための資金にしようと考えた。常に大きな政府を目指し、大企業からも国民からもさまざまな理由でなるべくたくさんお金を取り上げ、それを再分配することを自分たちの使命だと思っている社民党にとって、これほどの良案はない。
そこで、左派党と共に議会の前日までそれを強く推していたが、CDUの経済相は、どこまでが過剰、つまり不当な利益なのか定義することは不可能であるし、企業の利益を強権的に奪うことは違法行為である可能性が高いとして絶対反対。結局、採決には至らなかった。CDUは今ではかなり左傾しているとはいえ、それでもまだ、自由主義経済や企業の自立を重んじる議員はいる。
また、前述のボーナス免税の件も揉めた。ガソリン高騰で圧迫されている家計を助けるためのボーナスは、1000ユーロまでは非課税(期限は来年の6月末)とする案で、やはり社民党が強く押し、こちらは通った。
ただし、支払うのは政府ではなく各企業だ。社民党は、世の中の企業は全て自分たちの配下にあると思っているらしいが、燃料の高騰で苦しんでいるのは企業も同じだから、「それは良いアイデアだ、支払いましょう」となるとは思えない。
CDUは当然、これにも反対だったが、社民党が過剰利益分の没収というアイデアを取り下げる代わりに、CDUがこちらを認めるというディールが行われたのだろう。
ただ、このボーナスも、払う企業と払えない企業が出てくれば、国民の間の不公平感はさらに高まる危険がある。これで皆に感謝されるつもりだとすれば、社民党は勘違いをしている。
車離れが進むドイツの現状
一方、エネルギー税17セントの値下げも、すんなりと決まったわけではない。CDUは、現在のドイツは財政が逼迫しているため、税収がさらに減るこの措置には反対だった。しかも、これは、ガソリンを湯水のように使う金持ちの負担まで軽減する。だから、マイカー通勤者など、どうしても仕事に車が必要な人だけの負担を減らせるよう、通勤費の非課税限度額を上げるなどという策を打ち出していたが、結局、社民党に押し切られた。
いずれにせよ、2026年5月1日からはガソリン代が少し下がるだろうと皆が期待している。
ただ、ガソリン代が少し下がったところで、ガソリン車離れは想定済みだ。たとえ戦闘状態のイラン問題が収束しても、おそらくガソリン代が元に戻ることはないという見方がすでに大勢を占めている。かといって、ドイツの電気自動車はすでに競争力を失っており、これまでのように自動車輸出をベースにした産業の復活は望めない。ドイツ経済は出口のないトンネルに入り込んでいる。
産業界の幹部らによれば、「これは産業の停滞ではなく、完全な脱産業への道であり、しかも、多くがホームメイド。プーチン大統領やトランプ大統領のせいではない」。彼らの堪忍袋の緒はもうほとんど切れている。企業の国外への脱出は止まらない。
すでにドイツ経済は過去6年間、実質成長はしていない。2025年、全国の地方裁判所に登録された企業の倒産件数は2.4万件を超えた。ドイツ商工会議所の算出によると、現在、22分ごとに一件が倒産している計算になるそうだ。
このまま行けば、間違いなくCO2は減り、緑の党の目的は達成できるかもしれない。しかし、それが本当に、ドイツの国民の求めている世界なのだろうか?
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