経産省菊川イノベーション・環境局長 公共調達でスタートアップ支援を
経済産業省でスタートアップ政策を担当する菊川人吾イノベーション・環境局長は、日本には企業価値が高いビッグプレーヤーが少ないことを課題に掲げる。
政府は、社会課題の解決や日本の経済成長の担い手として、スタートアップの支援に力を入れている。菊川氏は27〜29日に開かれる「SusHi Tech Tokyo(スシテック東京)2026」に登壇を予定する。菊川氏は、「政府や自治体がスタートアップの顧客となる公共調達を強化したい」と話した。
読売新聞との主なやりとりは下記の通り。
――政府は2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を策定した。現状をどのように認識しているか。
「スタートアップは25年に約2万5000社となり、21年から1・5倍に増えた。ITベンチャーブームの頃は、首都圏で多くの新興企業が生まれたが、今回は全国的な広がりがある。とりわけ、大学の先進的な研究からディープテックのスタートアップが生まれている」
「スタートアップが創出するGDPは約14兆円に拡大している。応援されるだけでなく、社会的な責任を負い、日本経済を背負う立場に成長している」
――裾野が広がった理由は。
「アントレプレナーシップ教育の広がりなどを背景に、起業が当たり前のことになった。失敗しても次のビジネスチャンスにつながる。最近は、若者だけでなく、ミドル層でも大企業からスタートアップに転職する人が増えている。いいことだと思う」
――課題は何か。
「企業数は増えたが、ユニコーンのように企業価値が高いビッグプレーヤーが少ない。韓国やシンガポールでも10社以上のユニコーンがある。日本はまだ10社未満だ」
――ユニコーンが育っていない理由は。
「米国と比べると、資金を供給するベンチャーキャピタル(VC)のスケールが小さい。スタートアップへの投資を10年ぐらいで回収しようとすると、上場して終わってしまうケースも多い。世界のグローバルなエコシステムでは、企業価値が100億や200億になってもあえて上場せず、力をためて次の成長フェーズで花開くことがある。成長の過程でファイナンスをつなぐプレーヤーが日本にはまだ少ない」
「特に、AIや量子コンピュータ、ロボティクス、宇宙、核融合といった技術に特化したスタートアップは、利益が出るまでに時間がかかる。5年や10年では結果が出ないが、そこを支える仕掛けを作る必要がある。米国のエコシステムもすぐにできたわけではない。30年以上かけて徐々に成熟した。粘り強くやっていく必要がある」
――ファイナンスを支えるプレーヤーをどう育てるか。
「日本のVCも数が増え、サイズも大きくなった。ただ、一気に成長はしない。海外のVCにも期待したい。日本のディープテックに関心を持っている海外のVCは多く、日本に拠点を作ったところもある。スタートアップへの投資で日本のVCと組むこともあり得るだろう」
――海外のVCから日本のスタートアップはどう評価されているか。
「技術力の高さに対する評価は高い。一方、野心が低いという声も聞く。高い技術を持っているにも関わらず、世界を狙わずに国内で事業展開しようとする。意識を変えるためには、経営層の多様化も効果的だろう。グローバル展開を狙うスタートアップの経営層には、海外の人材が入っているケースも多い」
――政府が支援を強化していくポイントは。
「グローバルな事業展開を目指す起業家向けに、海外での研修プログラムを実施している。米国だけではなく、欧州やアジアなど様々な地域で、現地企業との商談やピッチコンテストの機会を提供している」
「プログラムをきっかけに、海外VCから資金調達をしたり、販路を開拓した事例が生まれている。ロールモデルとなる成功ケースを増やすためにも、グローバル展開を後押しするプログラムはしっかりと継続していきたい」
「高市政権が掲げる17の成長投資のほかに、八つの横断的課題があって、その一つがスタートアップだ。スタートアップの商品やサービスに対して、政府や自治体が最初の顧客となる公共調達の取り組みも強化したい」
「優れた技術を持っていても、技術をベースとした商品やサービスを、最初はなかなか買ってもらえないと聞く。政府や自治体が初期のクライアントになることで販売の拡大につなげたい」
−−東京以外でスタートアップを盛り上げるにはどうしたらいいか。
「たとえば、東北や九州のスタートアップはローカルでやっていると思っていない。技術が一流ならば世界と勝負ができる。自分たちが地方にいるという感覚は持っていない。すばらしい技術を持っているスタートアップがネットワークから漏れないようにしっかり目配りをしておくことが大切だ」
「介護や見守りのほか、地元の建設業がスムーズに仕事ができるようにデジタルで支援するアプリなど、地域ならではのものがあるはずだ。そういうものは県や地元の経済界が支える。地方だからこそ、地域の社会課題が解決できる面もある」
――スシテック東京に期待することは。
「世界で活躍する投資家や起業家を呼び、定期的に開催していることは意味があることだ。グローバルで活躍する投資家や提携先と出会うきっかけになり、海外のマーケットにつながるチャンスだ」
「政府は今秋、『グローバルスタートアップエキスポ2026』を大阪で開催する。スシテックとあわせ、『ここに行けば最先端のスタートアップに会える』といったイベントに育て、情報発信を強化していきたい」
