「トイレにいくために次のサービスエリアで二人とも下車しました。『モタモタするなよ』と彼氏に背中越しに言われたんですが、これからすることを思うと思わずにやけてしまいました。私はトイレに向かうふりをして、彼氏から見えなくなったところで、方向を変えて車に向かいました。乗り込むと彼氏を置き去りにしたまま、その場を離れたんです」

 携帯に電話とチャットの通知音が鳴り続けるのを聞きながら、水橋さんは家路についた。

「連絡は完全に無視しました。全然土地勘がない場所からどうやって帰ったんでしょうね(笑)。彼はまだ一人暮らしをしている私の家には来たことがなかったので、怒鳴り込んで来るような心配もありませんでした。だから、イケるだろうと踏んで実行したんです」

 その日の夜、水橋さんは友人を誘って飲みに行った。彼氏が送ってくる、心配と脅迫を繰り返すモラハラ全開のメッセージを酒の肴に、大いに盛り上がったという。

◆■「1メートル以上の思いやり」が免許を守る

今回紹介したエピソードのように、自転車を「邪魔な存在」として強引に排除しようとする運転は、今や法律によって厳しく制限されています。

2026年4月から施行された新ルールで最も注目すべきは、車が自転車の横を通過する際に「十分な間隔」を空けることが義務付けられた点です。警察庁の指針によれば、少なくとも1メートル程度の側方間隔を空けることが安全の目安。もし道路が狭く、その距離が確保できない場合には、時速20キロメートルから30キロメートル程度の安全な速度まで落として運転しなければなりません。

もしこれらを無視して、嫌がらせのように至近距離で追い抜いたり、執拗に幅寄せを行ったりすれば、単なる通行方法違反にとどまらず、より重い「あおり運転(妨害運転罪)」と認定される恐れもあります。

警察庁の規定によれば、他の車両等の通行を妨害する目的で車間距離不保持等の違反を行う「あおり運転」は厳正な取り締まりの対象となり、最大で3年の拘禁刑に処せられます。さらに著しい交通の危険を生じさせた場合は最大5年の拘禁刑、そして一発で「免許取り消し」という極めて重い処分が待っています(出典:警察庁「あおり運転(妨害運転)の対象となる事案」参照)。

「たかが自転車」という油断が、人生を左右するほどの事態を招く時代。大切なのは具体的な数値だけでなく、お互いが「安全な速度と間隔」を意識することです。ハンドルを握るドライバーが、自転車を「道路を共有する存在」として尊重する心の余裕を持つこと。それこそが、改正後の道路で自分自身の免許を守る、一番の防衛策になるはずです。

<取材・文/和泉太郎 再構成/日刊SPA!編集部>

【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め