◆児童養護施設に出向くワケ

――話題は変わりますが、岳野さんは児童養護施設などにボランティアでケーキ作りを教えに行ったりしていますよね。

岳野めぐみ:私は児童養護施設に入ることはありませんでしたが、もしも当時入れるものなら入りたかったなと感じる程度には、家庭環境に問題があったと思います。実際にボランティアに行って感じることですが、入所している子たちに将来のことを聞いても、「◯◯がやりたい」という希望はほとんど耳にしません。それよりは「寮のあるところがいい」などの実際の生活に即した答えが多い印象です。人生に安易に希望を持てない気持ちは、僭越ながら私も理解できるつもりです。だからこそ、応援したいと思っているんです。

――ボランティア団体ではなく、個人でボランティア活動をするのはどうしてでしょう。

岳野めぐみ:定年した高齢者が善意でボランティアをすることは悪いことではないと思うのですが、一方で、そうした年代の人に傷つけられてきた少年少女も少なくないと私は想像します。「いいことをしている」という自負で満足してしまって、本当に当事者たちが困っていることに寄り添えているかと考えた時に、私は個人でできることをやろうと思いました。

――ケーキを目の前にすると、子どもの表情も変わりますか。

岳野めぐみ:そうですね、ケーキはおめでたいことやご褒美の場面で登場するものですから、自然に笑顔が増えますよね。そういう点で、ケーキ屋を選んで良かったなと感じます。

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 ShortCakeCompanyでは現在、10名ほどのスタッフが稼働している。採用基準は「本気で変わろうとしているか否か」。岳野さんは「なるべく多くの人に変わるチャンスを、とは思う」と目を細める。もがいた経験があるから、人の痛みに自らの面影を重ねられる。濃密でありながら後を引かない同店のショートケーキの甘みが、かつて岳野さんが探しあてた愛情にも似ている。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki