中高生に人気の小説から「性描写・セックスシーン」が消えた…背景に「性的関心」の変化
d英語圏では、TikTokやWattpad(ウェブ小説サイト)で人気のロマンス小説の性描写がしばしば議論を呼んでいる。
日本でも、大人世代が中高生時代をふりかえると「流行っていた小説には少なからず性描写があったよな」と思うことだろう。
しかし日本で近年10代に人気の小説では、過激な性描写が問題になることは、かつてと比べると減っている。どころかこの世代の恋愛小説、青春小説では「ない」方がよく支持されるようになっている。
中高生が読む小説から「性描写」が消えた
まずはこの四半世紀くらいの流れを振りかえってみよう。
小4〜高3を対象にほぼ毎年どんな本を読んだか尋ねている全国学校図書館協議会「学校読書調査」の結果を整理すると、2020年代に中高生女子に人気の恋愛小説、青春小説にはたとえば
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(汐見夏衛)
『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』(汐見夏衛)
『交換ウソ日記』(櫻いいよ)
『すべての恋が終わるとしても』(冬野夜空)
『余命10年』(小坂流加)
『桜のような僕の恋人』(宇山佳佑)
『今夜、世界からこの恋が消えても』(一条岬)
『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キイス)
といった作品がある。TikTokで話題になったタイトルが少なくない。
ちなみに2010年代だと、
『図書館戦争』シリーズ(有川浩)
『植物図鑑』(有川浩)
『告白予行練習』シリーズ(HoneyWorks / 藤谷燈子)
『恋空』(美嘉)
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(七月隆文)
『君の膵臓をたべたい』(住野よる)
『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜)
『僕等がいた』(原作・小畑友紀 / 著・橘もも)
『君に届け』(原作・椎名軽穂 / 著・下川香苗)
『ひるなかの流星』(原作・やまもり三香 / 著・安藤えりか)
『ストロボ・エッジ』(原作・咲坂伊緒 / 著・阿部暁子)
といったあたりの作品だった。2010年代には少女マンガ(の実写映画)のノベライズが流行し、よく読まれていた。
これが2000年代だと
『Deep Love』シリーズ(Yoshi)
『恋空』(美嘉)
『赤い糸』(メイ)
『世界の中心で、愛をさけぶ』(片山恭一)
『いま、会いにゆきます』(市川拓司)
『余命1ヶ月の花嫁』(TBS「余命1ヶ月の花嫁」取材報告)
『1リットルの涙』(木藤亜也)
になる。ケータイ小説ブームや「純愛ブーム」の時代だ。
2000年代と2010年代以降で決定的に変わっているのは、性描写やセックスについての会話の頻度だ。あきらかに近年のほうが減っているのである。
20年前は過激な描写が問題視されていた
近年の人気作には、スターツ出版から刊行され、同社のウェブ小説サイト「野いちご」や「ノベマ!」で連載されるか、その出身作家が手がけたものが多い。
その大元をたどると、2000年代にあった2度のケータイ小説ブームに行き着く。しかし同じように「若い女性に向けて書かれたウェブ小説(恋愛小説)」であるにもかかわらず、20年前と今では性描写がまったく違う。
第一次ケータイ小説ブームの代表格はYoshiの『DeepLove』シリーズだ。ケータイ小説とは日本独自のモバイルインターネットサービスであったNTTdocomoのiモードのサイト上で連載されたウェブ小説の一種である。
Yoshiは『DeepLove』を連載したあと自費出版で書籍化し、それを渋谷センター街でチラシを配るなどして宣伝して10万部も発行していた。それが紆余曲折を経てスターツ出版で「完全版」として商業出版されると爆発的なヒットを巻き起こした。
Yoshiの作品にはかつて「援助交際」「援交」と呼ばれた(2010年代以降で言う「パパ活」)、若年女性による着用済み下着や制服の販売、金銭を対価とするデート、売春をする女子高生やホスト、風俗嬢、AV女優(セクシー女優)などが主要人物として登場する。
そして虐待、性暴力、傷害・殺人、自傷、事故、難病や精神疾患の発症(感染)、薬物依存、天変地異といった出来事が次々に描かれた。当時Yoshi作品に対しては「中高生が読むものとしてはどうかと思う」といった否定的な反応が大人には多かった。
しかし最近のスターツ出版の人気作品に対して、こうした批判の声はほとんど上がっていない。
はたしてどんな変化があったのか?
Yoshiは自身が運営する個人サイトに掲載していたが、「魔法のiらんど」というプラットフォーム上に投稿された小説の書籍化がChaco『天使がくれたもの』を皮切りに美嘉『恋空』、メイ『赤い糸』、べあ姫『TeddyBear』などが続いて2005年から第二次ケータイ小説ブームが始まる。Yoshiは大人の男性だったが、第二次ブームでは若い女性作家を中心に展開された。
また『恋空』をはじめ、しばしば「実体験をもとにした」と謳われた。同時代の2000年代には、まさにドキュメンタリー番組やノンフィクション書籍化をもとにし、のちにそれをもとに役者を立てて映画化、テレビドラマ化された『余命1か月の花嫁』や『1リットルの涙』も人気を博している。
第二次ブームの作品も、『恋空』ではやはり性暴力や非行、堕胎などが描かれていることなどから、Yoshi同様に大人から眉をひそめられた。
「純愛ブーム」も一方ではあったが…
一方で2000年代には片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』(2001年)と市川拓司『いま、会いにゆきます』(2003年)を代表格に「純愛ブーム」とも言われた。
『世界の中心で、愛をさけぶ』は白血病で亡くなる女性をヒロインとした難病もの(余命もの)であり、『いま、会いにゆきます』は亡くなった妻が雨の季節に夫と子どものもとに記憶をなくした状態で一時的にやってくるという筋立ての「死者との交流・再会」ものだ。
余命ものや死者との交流ものはいずれも、筆者が『「若者の読書離れ」というウソ』で示した、2010年代以降に中高生に人気の「型」(設定やプロットのパターン)のひとつである。2000年代のケータイ小説にもこのパターンが多い。
ただ、「純愛」である『いま、会いにゆきます』には、主人公の男性が、亡くなったはずだが家にやってきた妻(らしき存在)と性行為をし、その話を電話でもするシーンがある。
『世界の中心で、愛をさけぶ』でも、主人公の友人が主人公男子に対して、ヒロインを島に誘って「一発やっちゃえよ」と言ったり、主人公がヒロインに対してerectionという単語に「勃起」という意味がある、という会話をしたりする。
この程度の性に対する言及でさえ、最近の中高生に人気の作品にはなかなか見られない。恋愛から性行為や性欲が取り除かれたかのような世界になっている。「セックス」という単語自体がほとんど出てこないのである。
性描写減少の背景にあるもの
これはひとつには、第二次ケータイ小説ブームの中心であった魔法のiらんどよりも後発のプラットフォームとして始まったスターツ出版の野いちごにおいては、未成年の利用者に配慮して、性描写を抑制してきたことがある(同社では、大人の恋愛小説の投稿が増えるとBerry's Cafeという別のサイトを作って分離した)。
ただプラットフォームがいかに規制しようが、読者が求めていれば別の場所で火が付くはずである。したがって、プラットフォーム側の動きと呼応するようにして読者側の好みも変化した、ととらえるべきだろう。
6年おきに実施されている「青少年の性行動全国調査」の最新2023年版までをまとめた『「若者の性」白書 第9回 青少年の性行動全国調査報告』(小学館、2025年)によると、中高生女子の性的関心の経験率やキス経験率、性交経験率は1999年をピークに減少傾向にある(正確には、中学生女子の性交経験率はもともと5%以下で、近年もほとんど変わらない。ただし自慰経験率は中高ともに上昇傾向)。
近年のほうがかつてよりも性に対する関心が薄れているのであれば、性を描くものより描かないもののほうが支持されるのも納得がいく。
むかしのように「ある程度の年齢までに性体験を済ませたほうがいい」という社会的な抑圧がやや弱まり、性行為、性的逸脱に伴うリスクが強く認識されるように価値観が変わってきているとするなら、それはいいことではないかと個人的には思う。
あるいは恋愛小説に性を「混ぜないでほしい」というニーズが台頭しているのかもしれない。性描写が見たいならスマホで簡単に見られてしまう時代に「この世界観のなかには持ち込まないでほしい」と。
また、最近では親子で同じコンテンツを楽しむことも少なくないが、性描写がないほうが間違いなくいっしょに見ているときに感じる気まずさは減る(もっとも、作品を書いている側がそんなことまで配慮して書いているとは思えないが)。
さらに過去にさかのぼると…
さらにさかのぼると、1970年代から80年代初頭にかけては、五木寛之の青春小説『青春の門』が男女問わず高校生に読まれていた。同作の主人公の男は妊娠させた幼なじみの女性に迷わず「堕ろせ」と迫り、結婚を拒否したあげく、別の娼婦を抱く。
一方、2000年代の『恋空』では主人公の美嘉の妊娠がわかると恋人のヒロは喜び、「俺、高校やめて働いて美嘉と赤ちゃんを養います!」と美嘉の両親に告げて求婚する――その後、美嘉が堕胎するとヒロは自宅で乱交パーティをし、美嘉を突き放すのだが(ただしこれはヒロが自らの死期を知り、美嘉に自分を嫌いになって遠ざかってほしいと願ったためではある)。これらの表現は当時の大人から歓迎されていたわけではないが、若い世代は支持をしていた。
しかし性愛に対する価値観が保守化したいまの中高生が読んだら、おそらくどちらの作品に対してもドン引きして「そもそも避妊しないのがありえない」と思うだろう。
過去の作品と比べると最近の人気作は内容的に健全になり、大人も「子どもが読んでいる本の表現が過激なのではないか」と心配しなくてもよくなってきている。
もちろん、今からもう2、30年もすれば「2020年代の作品はこんなことが書かれていたのか」とびっくりされるのだろうが……時代は、社会の価値観は、そうやって変わっていくのである。
【もっと読む】「スマホのせいで若者の読書離れ」は真っ赤な嘘…じつは子どもたちは「紙の本」を意外なほど読んでいる「衝撃の実態」
【もっと読む】「スマホのせいで若者の読書離れ」は真っ赤な嘘…じつは子どもたちは「紙の本」を意外なほど読んでいる「衝撃の実態」
