2月21日土曜日、ソウルの東大門にある「広蔵市場」にて。 外国人観光客で賑わうが、この日は特に中国人観光客が多い。パンやデザートの店が混雑していた(撮影:ノ・ミンハ)

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 関係が悪化する日本に代わる旅行先として、中国人観光客の視線は韓国に向かっているという。現地ジャーナリストのノ・ミンハ氏が観光地のにぎわいをレポート。熱気の裏には、韓国人の複雑な本音もあるようだ……。

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【写真】そんな中国人観光客が向かう先は…衝撃の「排便テロ」現場も

 2月21日土曜日、日中の気温が10度を超え、春の陽気に包まれたソウル・明洞(ミョンドン)を訪れた。この日の明洞は、いつにも増して外国人観光客で賑わっていた。あちこちから聞こえてくるのは中国語。2月15日から23日までが中国の大型連休「春節」ということもあり、中国人観光客が急増する時期だった。

 立ち並ぶ店舗の入り口では、店員たちが中国語で客を呼び込み、中国のモバイル決済システム「アリペイ」が使えることを示す看板が至る所に掲げられている。

2月21日土曜日、ソウルの東大門にある「広蔵市場」にて。 外国人観光客で賑わうが、この日は特に中国人観光客が多い。パンやデザートの店が混雑していた(撮影:ノ・ミンハ)

 韓国文化体育観光部の統計によると、今年の春節に韓国を訪れる中国人観光客は、昨年と比べて1日平均で44%増の19万人に達する見通しだという。背景にあるのは、日中韓の昨今の関係性だ。

 昨年6月、親中派とされる李在明(イ・ジェミョン)政権が発足して早々に「ノービザ入国」を認めたことで、中国人の韓国旅行のハードルが一段と下がった。だがなにより、日中関係が悪化するなか、中国人が日本に代わる選択肢として韓国を選ぶ傾向が強まっている。

 春節の中国人観光客の急増も、ある程度事前に予測されており、韓国の文化体育観光部やソウル市は主要観光地で歓迎イベントを開催していた。2月15日には政府関係者が明洞を訪れ、中国人観光客に直接要望を聞き取るなど、受け入れ態勢の強化に積極的に乗り出していたのだ。

 その成果があってか、筆者が訪れた明洞は、どこへ行っても中国人観光客ばかりのように感じられた。日本人にも人気のファストフード店「マムズタッチ」明洞店をランチタイムに訪れ、新メニューを注文し、2階席へ上がった。隣の席にいたのはハンバーガーをほおばる若い中国人の女性グループ。「中国にマムズタッチの店舗はありますか?」と尋ねると「店舗はないけれど、友達の間で流行っていて、韓国に行ったら絶対に食べるべきだと勧められたんです」と答えてくれた。

屋台メニューにも観光客の影響が?

 明洞だけでなく、近隣の景福宮(キョンボックン)や光化門(クァンファムン)、そして「ショッピングの聖地」東大門(トンデムン)も、数えきれないほどの中国人観光客で溢れていた。特に東大門の名物料理「タッカンマリ」の店は、中国人の団体客でどこも満席状態だった。

 近くの広蔵(クァンジャン)市場も中国人客でごった返していた。かつてはトッポッキやチヂミ、カルグクス、ビビンバといった典型的な韓国料理が人気だったが、この日はコーヒーやパンなどに長い行列ができていたのが印象的だった。こうした店には、Netflixの料理サバイバル番組に出演したシェフが経営していたり、関わっていたりする店が多いので、その影響だと思われる。自国では公式にNetflixを視聴できないはずの中国人観光客たちも、SNSなどを通じて情報を得て、わざわざ広蔵市場まで足を運んでいるようだ。

 夜、再び明洞に戻ると、新世界百貨店やダイソーには中国語が“蝉の鳴き声のように”響き渡り、まるで中国にいるかのような錯覚に陥った。特にダイソーはセルフレジ方式のため、使い方がわからず戸惑う中国人観光客たちで、レジ前には長い列ができていた。

 屋台にも多くの中国人観光客が座っていた。どうやら、おでんと天ぷらが人気のようだ。「ビビンチョルミョン」や「ホットク」など、観光客にはあまり知られていない粉もの軽食を注文したテーブルも多いのは印象的だった。 むしろ、定番のトッポッキを注文する韓国人の肩身が狭そうなくらいだ。店のオーナーは、

「中国人にトッポッキはあまりにも有名すぎて飽きてしまったのかもしれない」

 と言っていた。明洞の屋台のメニューが、中国人などの観光客の嗜好で変わる……。明洞からトッポッキが消えるかもしれないと危惧する知人もいる。

韓国の若者の7割が「嫌い」…数字で見る“嫌中”

 李在明政権の親中政策、そして日中関係の悪化によって、韓国中国人観光客は大幅に増えた。しかし、韓国人には、依然として中国に対する「コロナパンデミックがはじまった国」や「世界に迷惑をかける民族」という偏見が根強い。

 特に若い世代にはポジティブなイメージを抱けない人が多数派といってもいいだろう。昨年12月に国会未来研究院が発表した「2025年 外交安保懸案 認識調査」によると、韓国の20〜30代はアメリカと日本への好感度が最も高く、一方で中国と北朝鮮に対する嫌悪感は全世代でトップクラスだった。

 同調査でアメリカに「好感が持てる」と答えた割合は20代で63%、30代で62.3%、日本に対しては20代で49.3%、30代で45.7%と、他国に比べ高い水準だった。対照的に、中国が「嫌い」と答えた割合は20代で70.7%、30代で70.8%に達し、60代以上の54.1%と比較しても、若年層ほど中国への拒否感が強いことが浮き彫りになった。

 一部の中国人観光客韓国人の反感を煽るような、常識外れの行動を繰り返していることもその一因だろう。

排便テロ、スタバで焼酎

 昨年のビザ緩和以来、SNSで拡散される中国人のマナー違反韓国人は眉をひそめる。済州島(チェジュド)の路上で平然と排泄をした中国人にはじまり、朝鮮王朝の王宮だったソウルの景福宮でも石垣の下で排便する中国人が目撃された(別記事「『国を汚すのか』子供に路上で“大”をさせた中国人に韓国社会のドン引き 若年層で“嫌中”高まる」参照)。公共の場での排便は韓国人が知っているだけで4件もあり、”排便テロ”という言葉まで生まれた。他店で買ったチキンと焼酎をスターバックスに持ち込んで大声で騒ぎながら飲み食いしたりする中国人グループも話題になった。韓国人感情を逆なでするマナー違反が相次ぎ、世論を悪化させている。

 最近、オンラインコミュニティで議論を呼んだ動画がある。黄色い服を着た7人組が顔を隠したまま、どこかに向かって礼をしたり奇妙なポーズを取ったりしている映像だ。韓国の地方にある有名観光地で撮影されたものと見られ、この動画には「中国人団体客の奇行」というタイトルがつけられ、中国人への否定的なコメントがあふれた。

 専門家は、彼らが「カルト」的な儀式を行ったと分析する。中国国内でカルトイベントに対する取り締まりが厳しいため、韓国でこれを行っているとの指摘もある。

 2月2日には、50代と60代の中国人が韓国人の警備員を暴行する事件がソウルで発生した。容疑者が、警察の調査が始まる前に中国へ出国してしまったことで、さらなる批判を呼んでいる。

 もちろん、中国人観光客が金を落とすことで韓国内の売り上げが伸び、観光産業が活気づくという側面はあるだろう。しかし、人気店が中国人観光客に占拠され、店頭の商品が買い占められたりする現状もあり、韓国人は顔をしかめる。やはり中国人観光客を諸手を挙げて歓迎する雰囲気にはなりにくい。依然として、彼らに対する強い警戒心が拭い去れないのが実情だ。

ノ・ミンハ(現地ジャーナリスト)

デイリー新潮編集部