「『死にたい』とも……」

◆「まずうがいして」母親の悲痛な思い

 そんなAさんのただ事でない話を聞いて、母親は急いでこのような提案をした。

「『とにかくまずうがいして』と言いました。娘の体が汚れてしまってすごく嫌だったからです」

 また、Aさんは「身を清めるように」とシャワーを浴びることもあった。その後、Aさんは母親に「寝る」と伝えて自室に行くと、床に就いた。

 さらに、会話の中で母親は「警察に相談しようよ」と被害申告を提案したこともあったという。これに対して、Aさんは「でも、証拠はないよ」と被害申告に消極的だったと話す。それでも母親は引き下がらず、「でもドライブレコーダーとかあるんじゃないの?(警察に)行ってみようよ」とAさんに伝えた。

 結局この日、Aさんは斉藤被告からの性被害を警察に申告することはなかった。

◆5日後に警察へ…被害申告までの経緯

 そして事件から5日後、Aさんは警察署に赴いて性被害の相談をしている。Aさんの気持ちが変化した理由に、母親のせめてもの想いがあった。

 事件当日の会話の中で、母親は普段からAさんが通院していた「メンタルクリニック」の医師に相談するように提案。事件から4日後、Aさんは通院することになった。そこで、母親はAさんに気持ちの変化があったと振り返る。

「(Aさんは)先生のことをかなり信頼していて、(事件について)色々な相談をしていたところ、先生が『それは警察に行った方がいい』と助言してくださいました。それで警察署に行くことになりました」

 通院した翌日、母親はAさんに同行して警察署を訪れ、斉藤被告からの性被害の申告をした。

 終始、Aさんの隣に寄り添っていた母親は、事件後の我が子の変化について声を震わせながら、「めっきり暗くなりました。泣いたり、とても暗くて溜息ばかりついて……見ていられませんでした」と振り返る。

◆母親自身の経験と重なる「深い傷」

 さらに、過去の母親自身の経験を踏まえて、Aさんの状況について、このように心配した。

「事件当日の仕事に期待を持って出かけていたのに、ものの数時間で想像もしないようなことになってしまって、とても今日まで苦しんでいます。20代という一番人生で良い時期を、こんなことで苦しみを受ける姿を見ていると、とてもつらいです……」

「私も学生のころ、露出狂に遭ったりしました。でも誰にも言えず、今この歳になってもこの道(筆者注:被害を受けた場所)を通ると、『あっ』と鮮明に思い出します。娘はどんな想いでいるのか。今後生きていくうちは、ずっと瞬間瞬間で思い出すことがあると思うととてもかわいそうです」

◆「なんで私ばっかり…」Aさんの言葉が突きつける被害の現実

 母親が証言する中で、昨今取り沙汰されている芸能界の性被害問題に触れて、Aさんはこのように吐露したこともあったと述懐する。

「なんで私ばっかりこんな目に遭うの?」
「よくテレビとかで同じようなことをされたとの報道があるけど、なんでと思っていたけど。その人たちの気持ちがやっとわかった」

 斉藤被告は終始、表情を変えることなく証言を聞いていた。母親の尋問が終了して一時休廷になった後、午後からAさんが証言した。法廷で被害者本人が語ったこととは--。

 後編では、Aさんの証言内容を詳報する。

文/学生傍聴人

【学生傍聴人】
傍聴歴7年、傍聴総数1000件超。 都内某私立大の大学院に在籍中の現役大学院生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴をはじめ、有名事件から万引き事件など幅広く傍聴している。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行なっている。