『勇者パーティを追い出された器用貧乏』©都神樹・講談社/勇者パーティを追い出された製作委員会、『貴族転生 ~恵まれた生まれから最強の力を得る~』©三木なずな・SBクリエイティブ/貴族転生製作委員会

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 毎シーズン50~60作品ほど放送・配信されるテレビアニメ。その中でも、放送本数の上では、一大勢力となっているのが「異世界もの」だ。

参考:谷口悟朗×吉田玲子が語り合うオリジナルアニメの存在意義 “多様性”のために必要なこと

 しかし、その本数の多さに対して、SNSなどで話題に上る作品は決して多くないように思える。そのせいか「異世界アニメは誰が観ているのか、わからない」というようなこともいわれる。むしろこのジャンルは「異世界アニメが多すぎる」のような、ややネガティブな言説で語られることが多いともいえる。

 しかしながら、事実として異世界アニメはたくさん作られ続けている。それは事業として成り立つからであり、確実に需要が存在しているということだ。では、いかなるビジネス的な合理性にもとづいているのか。検証してみたい。

静かに観られている異世界アニメ アニメ配信の有力サービスの1つであるdアニメストアの人気ランキングを見ると、上位には異世界アニメが多数ランクインしているのがわかる(※1)。

 むしろ、このサイトにおいては最大人気のジャンルとも思えてくる。Netflixの視聴ランクで上位に顔を出すのは人気マンガを原作とした作品が多いが、この結果は意外にもこれはdアニメストアだけの傾向ではない。U-NEXTでもある程度似通った傾向がある(※2)。

 テレビアニメの録画による視聴データを分析しているREGZAの「みるコレ」によると、2025年の秋アニメ(10月~12月)の新規作品の視聴ランク1位から10位まで、異世界アニメが独占したそうだ(※3)。

 みるコレ編集部はこの結果を受けて、「ネットでは目立たないものの、静かに、しかし確実に多くの視聴者に支持されている――それが異世界アニメの現在地です」と結論づけている。

 どうやら、国内において異世界アニメは一定の層に静かに継続して視聴され続けているという実態がありそうだ。

 では、海外市場はどうか。『アニメ産業レポート』(日本動画協会)の発表にもある通り、日本アニメの海外市場規模は国内を超えており、ビジネスの主戦場は海の向こうになりつつある。

 異世界アニメの数やそのあり方については、海外のアニメファンの間でもよく議論されている。そのほとんどは、日本国内でのネット記事やSNSでの議論と同じようなものだ。しかし、やはり、海外においても異世界アニメは確実に見られている。

 海外のアニメ情報サイト「Anime News Network」は2025年1月に大規模な異世界アニメの現状についての記事を掲載している(※4)。

 この記事によると、海外における人気ジャンルのトップは「Action」で、「Isekai」はそれに次ぐ2位だという。その人気を反映するように、クランチロールの2025年第1四半期のラインナップで吹替作品の40%が異世界アニメであったと指摘している。

 また同サイトは、しばしば量産されすぎだと指摘されることがあるにもかかわらず、データ上では、供給過多による価値低下の水準にはまだ達していないとしている。むしろ、『俺だけレベルアップな件(俺レべ)』のような世界的成功作が出てきたこともあり、異世界アニメの需要はさらに伸びる可能性も示唆している。

誰が異世界アニメを観ているのか 異世界アニメを視聴するのはどんな層なのか。前述したみるコレ編集部では、世代別に人気作品の傾向を分析しており、M2層(男性34~49歳)、M3層(男性50歳以上)が顕著に異世界アニメの人気が上昇することをデータから読み解いている(※5)。

 また海外においても、Anime News Networkの調査によれば、異世界アニメの視聴層は65%が男性で、平均年齢は29.2歳でアニメ全体のファンの平均年齢より10歳上だそうだ。また、同サイトでは、異世界アニメファンは、アニメ視聴歴が長い人が多く、視聴本数も多い傾向があるという。これは、コアなアニメファンが異世界アニメを視聴していると推察できるが、おそらく異世界アニメだけを観ているわけではなく、異世界アニメ「も」観ているのだと思われる。

 その代わり、グッズの購買意欲は比較的低いとされ、熱狂度合いは高くない傾向にあるようだ。シーズンに配信される様々なアニメを観る一環として異世界アニメにも目を通すというタイプなのかもしれない(※6)

 この層は比較的可処分所得が高い層で、趣味にかけるお金もそれなりに持っていると思うが、グッズなどの購買意欲が低いというのは、事業的な側面ではまだ開拓の余地があるといえそうだ。

異世界アニメは失敗しにくい 異世界アニメの視聴属性をある程度把握した上で、このジャンルがどのようなビジネス合理性に基づき大量に製作されているのかを考えてみたい。

 昨今、テレビアニメの製作費も二極化の傾向が指摘されるが、異世界アニメの多くは比較的予算が高額ではない。『俺レべ』や『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』、今期の『勇者刑に処す』などは例外的な事例かもしれない。

 低予算であるということは、「失敗しにくい」ということだ。Anime News Networkは異世界アニメを野球に例えて「確実に出塁できるタイプ」と評する。

 異世界ジャンルは安定した人気を持つため、個々の作品評価が低くてもある程度、他のジャンルと比べてパフォーマンスが高くなる傾向にあるという。とびぬけた作画や独創的なストーリーはなくとも、確実に安定した需要を確保することで最低限の損益分岐点を確保しやすいジャンルと見られていることが、量産につながっていると考えられる。

出版社の仕掛けるアニメ事業 こうした安定感と比較的低リスクで制作可能な異世界アニメに注目するのは、原作供給元の出版社だ。

 KADOKAWAは数多くの異世界ものの原作を抱えている。KADOKAWA作品のアニメの海外での人気上位は異世界もののタイトルが占めると、同社グループのMFブックスの有馬聡史氏は取材に答えている(※7)。KADOKAWAのアニメ事業にとって異世界アニメは柱の一つといっていいだろう。

 アルファポリスも積極的に異世界アニメを活用している。同社はこれまでも少額出資で製作委員会に参画して、原作の売上を伸ばすことで自社の利益を成長させてきたが、近年、アニメスタジオを買収することで、アニメ事業に深く踏み込むようになってきた。

 2026年2月13日に発表した決算では、以下のように中期的な目標を語っている。

少額出資による原作書籍の売上増加を図るだけではなく、自らアニメ製作に多くの出資・コミットメントすることによりアニメ自体のビジネス事業を確立し、2030年3月期にはアニメ事業による利益を20倍まで増やすことを目標とする(※8)

 今期も『最推しの義兄を愛でるため、長生きします!』が放送、4月期にも『自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。』や『最強の職業は勇者でも賢者でもなく鑑定士(仮)らしいですよ?』といった新規のアニメタイトルの放送が控えている。

 アルファポリスのように、異世界ものの原作を多く持つ出版社がアニメ事業にさらに前のめりになれば、異世界アニメは今後もたくさん作られ続けることになるだろう。

 つまり、異世界アニメが大量に作られているのは、確実に観たいファンがいて(しかし、SNSでは可視化されない)、アニメにしたい原作を持つ出版社がそこに商機を見出しているからということになる。しかも、リスクが比較的低めとなれば作られないほうがおかしい。『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』のような派手な大作だけが日本アニメを支えているわけではないのだ。

参照※1. https://animestore.docomo.ne.jp/animestore/CR/CR00000014?ranking_type=views&period=weekly※2. https://animestore.docomo.ne.jp/animestore/CR/CR00000014?ranking_type=views&period=weekly※3. https://note.com/regza_mirucolle/n/n3e48cb36ae14※4. https://www.animenewsnetwork.com/feature/2025-01-22/the-state-of-isekai-anime/.219776※5. https://note.com/regza_mirucolle/n/na52595dab7b8#29efbe66-1a68-4506-955d-ec6744895fc3※6. https://www.animenewsnetwork.com/feature/2025-01-22/the-state-of-isekai-anime/.219776※7. https://0115765.com/archives/175101※8. https://ssl4.eir-parts.net/doc/9467/ir_material_for_fiscal_ym/198541/00.pdf p.29(文=杉本穂高)