ハプニングバー経営者が公然わいせつほう助で逮捕 閉鎖空間における「公然性」とは【裁判傍聴記】
東京都墨田区のJR錦糸町駅近くの会員制ハプニングバー『ノクターン』。2024年10月2日、警視庁の捜査員が踏み込んだ時、店内には約10人の男女がいた。
全裸で手淫行為をしていた30代男性Aと40代女性Bが公然わいせつ罪で、経営者のI被告(38歳)が公然わいせつほう助(幇助)で逮捕された。
ハプニングバーとは「客同士のハプニングが起こること」がある飲食店。一種のコンセプトバーだが、「客同士のハプニング」を楽しみに来店する人がほとんどだ。ハプニングバー自体は違法ではなく、営業許可を得て法律を守っているお店であれば問題はない。
『ノクターン』は「大人の社交場」をうたい文句にした会員制バー。インターネットで会員を募り、写真付き身分証明書の提示が必要だが、お店のルールを守れる人なら誰でも会員になれた。入店を拒んだ客は2~3%程度だという。
2024年3月から7カ月間、週5回営業していた。会員数は2000人以上で、来店客は1日平均10.9人。客同士で連絡先を教え合うのは禁止されていた。
偏見があったのかもしれない。ハプニングバーの経営者は、遊び人風か強面タイプの人物だと勝手に思い込んでいた。
法廷に現れたI被告は、落ち着いた印象の男性だった。サラサラの茶髪に眼鏡をかけている。物腰が柔らかく、知的な印象を受けた。
大学を卒業して総合病院や製薬会社に勤務。その後、女性用風俗店を経営した後、ハプニングバーを始めた。独身で一人暮らしだという。
4回の公判を傍聴した。I被告は淡いブラウンやオフホワイトのシャツ、黒のボタンダウンやタートルネック姿。シックでセンスを感じさせる服装ばかりだった。
「悪いことをしていたとは思わない」
公然わいせつ罪(刑法174条)とは、不特定または多数の人の前で、わいせつ行為をすることで、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。ほう助とは、犯行を容易にするために手助けすること。場所を提供したり、見張りをする行為も含まれる。ただ、助けた相手が犯罪行為を始めなければ、処罰の対象にはならない。
公然わいせつ罪が成立するためには「わいせつ性」と「公然性」が必要だ。性的行為を見せたり、性器を露出する行為は「わいせつな行為」の典型的なケースだ。
検察官は、公然性が認められると主張した。
「不特定または多数の人が認識できる可能性があった。インターネットで告知し、乱交などを目的に集まった。会員制であったとしても、誰でも入会できる。公然性が認められることは明らか。ストリップショーでも公然性が認められる。被告人は店長で、いわゆるハプニングバーとして営業していた。避妊具やローションなども準備。プレイルームとフロアルームに分かれていたが、フロアルームで性行為が行われても構わないと思っていた。被告人はカウンターとフロアルームを行ったり来たりしていた。
性行為や性的類似行為が行われることが分かっていて、場所を提供していた。7カ月の営業で、総売り上げは1256万円。さまざまな手段で摘発を回避した常習的な犯行。HP上で会員を募り、保険証などの提示も。被告人は『悪いことをしていたとは思わない』と発言し、弁護人は違法なおとり捜査で証拠として認められないと主張するが、証拠能力を有することは明らか。前科前歴ナシ。過去の事例では懲役刑も。求刑は懲役3か月が相当」
弁護人は、「公然わいせつほう助は成立しない」と主張した。
「性的行為は、それ自体を処罰するものではない。公然性が問題だが、その範囲は限定すべき。全裸の客同士が手淫してそれを他の客が見ていた。HP上の会員規約に合意して会員になる必要がある。被告人の審査に合格した人だけ。身分証明書を提示し、手荷物は保管し、通りすがりの人は排除している。閉鎖空間における行為で、日本語としても公然性はない。見たくない人は見ない。誰も被害者がいない」と。
弁護士による被告人質問が行われた。I被告は、摘発を受けてから配慮して運営していると主張した。
「1年前から、客同士が交流するコミュニケーションバーとして再開しています。以前指導があったことを配慮して運営。人から見える形でのわいせつな行為は禁止しました。自分では公然性はないと思っているが、摘発されたので。他の人から(行為が)見えることはない。会員制は変わらないが、2~3人が入れる扉のある個室を設けました。警察にも相談して確認してもらった。室内でお客が何をしゃべっているかなどはわからない。HPでの会員登録はやめて、店頭で身分証明書を見せる形に。泥酔客など、注意しても聞き入れない客には出ていってもらう」
I被告は最後に意見を述べた。
「再犯可能性について言われましたが…弁護人がすべて言ってくれたので」
不特定多数が認識できれば成立
2026年1月30日、判決当日。被告人と弁護人は5分遅れて法廷に到着した。着席する時、弁護人が裁判官に一礼して謝罪した。遅刻はかなり珍しいが、判決が変わることはない。
判決は、懲役3カ月執行猶予3年。裁判官が判決理由を説明した。
「飲食店でBがAの陰茎を手淫、被告人は行為を容認した。弁護人は、捜査員が事前にCにわいせつ行為が行われたら連絡してほしいと告げ、違法なおとり捜査として証拠能力を欠くと主張。捜査協力者であることを隠して入店したと。
ハプニングバーで、AがBに声をかけたことが発端。おとり捜査ではない。捜査員は1階のインターフォンを押して、被告人が鍵を開けて3階に。証拠を隠される可能性があるので客を装って入店した。証拠能力が認められる。
弁護人は公然と行われていないと主張する。しかし刑法174条によれば、(会員制の形を取っていても)不特定多数が認識できれば成立する。公然と行われたと認められる。被告人がAとBの行為を認識していなくとも、容認したことでほう助が認められる。職業的、常習的な犯行」と。
この裁判の傍聴席には、若い女性の姿が目立った。ロビーでも、女性たちに囲まれて和やかに談笑するI被告の姿があった。やはり落ち着いていて、余裕を感じさせる様子だった――。
文/青山泰 内外タイムス
