『おコメの女-国税局資料調査課・雑国室-』©︎テレビ朝日

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 社会に出ると、“正しさ”よりも“穏便さ”を選ばなければならないことが増える。空気を読み、できるだけ波風を立てないようにする。損をしないように、上手く世渡りをする。とくに、年齢を重ねて背負うものが増えると、「それって、おかしいんじゃない?」と言いたくても、グッと飲み込むようになった。それが、“大人の振る舞い”なんだと自分に言い聞かせながら。

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 だが、正しさを内にしまい込むことが続けば、やがて“忖度”という名の沈黙に変わる。そんな空気が蔓延する現代のなかで、『おコメの女-国税局資料調査課・雑国室-』(テレビ朝日系/以下、『おコメの女』)は、犠牲を払ってでも正義を貫こうとする大人たちの闘いを描いてきた。

 いよいよ、最終回を迎える『おコメの女』。鷹羽家への執拗な調査や、政治案件への介入が政界の大物たちの逆鱗に触れ、米田正子(松嶋菜々子)率いる複雑国税事案処理室(通称:ザッコク)は、解体の危機に追い込まれてしまった。そもそも、隠し財産(=埋蔵金)を抱えているのは鷹羽家であり、それを暴こうとするのは間違ったことではない。むしろ、正子たちは調査官として正しいことをしている。それなのに、なぜか追い詰められているのは彼女たちのほうなのだ。

 権力にとって都合の悪い“正しさ”は、ときに都合良く排除される。悔しいけれど、この逆転の構図こそが、社会の実相なのかもしれない。

 今は追い込まれてしまっているザッコクだが、これまでの回は、まるで“令和版スカッとジャパン”のような痛快さがあった。理不尽に屈せず、チームの力を合わせて不正を暴き、最後には悪者をきちんと追い詰める。大人になって、「多少のことは目をつぶる」ことを覚えてしまったわたしたちにとって、正子たちの正義を貫こうとする姿勢は、まさに忘れていた感覚を呼び覚ましてくれるものだった。

 まるで“アベンジャーズ”のような布陣を誇るザッコクのチームワークも、本作の痛快さを支えていた。まず、正子の活躍は言わずもがな。チームの頭が彼女だったからこそ、みんな「危険を冒してでも、この人について行きたい」と思うことができたのだろう。

 そして、かつて“ガサ入れの魔女”と恐れられていた飯島作久子(大地真央)に、“人心掌握術”に長けている俵優香(長濱ねる)。東京大学を卒業した財務省のキャリア・笹野耕一(佐野勇斗)も、ザッコクを支える重要な存在だった。彼がいることで、部署の発言力が増しているのは間違いない。古町豊作(高橋克実)は、派手な活躍はしないが、人一倍正義感が強い人物だ。第8話で、妻に「もし、このまま調査を続けたら、最悪無職になるリスクがあるんだ。でも、僕は正しいことをしたい。正しい国税局員として、仕事をまっとうしたい」と宣言した姿を見て、「カッコいい……!」と感動したのはわたしだけではないだろう。

 また、最初はいけすかない雰囲気を漂わせていた鷹羽宗一郎(千葉雄大)も、憎めないキャラになってきた。宗一郎は、賄賂の疑惑を正子の父に押し付けた鷹羽錦之助(小野武彦)の息子だ。彼自身も、これまでさまざまな“ズル”をしてきた。しかし、今では「僕は過ちと向き合う人間になることにした。僕自身はもちろん、この家(=鷹羽家)も過ちがあるなら正すべきだ」と心を入れ替え、正子の心強い協力者になっている。

「ザッコクがどうなろうとも、正しく集めて正しく使う」

 組織の存続すら危ぶまれる状況でも、正子の正義は揺らがない。彼女は、正義とは立場や空気で形を変えるものではないのだと、その背中で示し続けてきてくれた。だからこそ、わたしたち視聴者も、彼女について行きたくなるのだ。

 忖度が蔓延する社会で、「おかしい」を飲み込まない大人たちの物語は、何度も描かれるべきだと思う。ちなみに、『おコメの女』が放送されているのは、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)や『緊急取調室』(テレビ朝日系)など、数多くの人気シリーズを生み出してきた“木曜ドラマ”枠だ。理不尽に立ち向かう主人公に、個性豊かなチームのメンバーたち。枠のDNAとも言える要素は、本作にもたしかに息づいている。

 不正の手口が変わるたびに、新たな事件が生まれる。まだ描くべき物語は、いくつも残されているはずだ。シリーズ化という形で、ふたたびザッコクの“アベンジャーズ”の闘いを見たいと願うのは、きっとわたしだけではないだろう。

(文=菜本かな)