日本なら大問題?「無賃乗車が1日47万件」起きても“黙認”されるニューヨークの現実
もちろん、MTAは無賃乗車を放置しているわけではない。改札の回転式バーに半月型の板を取り付けて、安易に飛び越せないようにしたり、改札の機械上部にサメの歯のような金属板を設置して登れないようにしたりして、対策を強化している。
MTA内で「運賃逃れのスーパーハイウェイ」と呼ばれている非常扉については、約40%の駅で扉が開いている時間を短縮させた。開いている間に通り抜ける人間の数を減らすためだ。また一部の駅では非常扉の前に警備員を立たせるようにした。さらに’25年後半以降、最新鋭の電動改札機の導入を進めている。
地下鉄では保安のためニューヨーク市警(NYPD)の警察官や州兵がパトロールする姿が多くなった。NYPDには、これとは別に無賃乗車を取り締まる専門チームがある。しかし、無賃乗車を1件1件、その場で摘発はしない。無賃乗車チームの主目的は、無賃乗車をした者の中から指名手配者など重大犯罪にかかわっている容疑者を見つけ出すことだ。
ニューヨーク市の法令では、初めて無賃乗車で摘発された場合は警告のみで罰金は課せられない。2回目の摘発では罰金100ドル。期日までに罰金を支払えば半額が地下鉄乗車カード(OMNY)にチャージされ返金される。
◆貧困が引き起こす犯罪に、徹底的な対策は取らない
こうしてみると、ニューヨークは無賃乗車に寛容である。それが「貧困によって引き起こされる犯罪」であるとの認識が社会に定着しているからだろう。ある程度は大目に見なければ、貧困層の不満は爆発してしまう。そうした事態を避けるために「完膚なきまで」の対策はしない。
多種多様な人種が集い、考え方がバラバラだからこそ、日本のように社会に完璧を求めていないのだ。
「無賃乗車をなくしたい」という建前と、「なくせるわけがない」という本音。あいまいな中で、無賃乗車ははびこり続けている。
ところで無賃乗車しそうになった地下鉄とバスの結末だが、目的地に到着したところで、駅とバス車内のタッチパネルにクレジットパネルをかざして運賃を後払いした。バスの運転手は「そんなことしなくていいのに」と驚いた顔をしていた。
【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。
