キーワード検索がラグジュアリーの足かせに? ブランド発の AI 活用で変わるEC

記事のポイント
ブルネロ・クチネリが顧客の意図や文脈を重視したAI主導型ECサイトを立ち上げた。
閲覧行動をリアルタイム解析し、急ぐ人には商品を、じっくり見る人にはストーリーを表示するのが特徴だ。
外部AIにディスカバリーを奪われるなか、ブランド自身のサイトに体験を取り戻す戦略をとっている。
ラグジュアリーファッションのWebサイトは、長らくおなじみの構造に従ってきた。ホームページがあり、商品カテゴリーがあり、フィルターがあり、そして自分の欲しいものをすでに把握している買い物客に向けて設計された検索バーがある。
ブルネロ・クチネリがAIで再設計した「意図と文脈」重視のEC体験
このズレこそが、ブルネロ・クチネリ(Brunello Cucinelli)が自社のeコマース体験を再考するきっかけとなった。
ブランドは1月、新しいAI主導型Webサイトを立ち上げた。まずはイタリア、米国、英国で開始し、今後数カ月で他市場へ拡大する計画である。
このプラットフォームは、ブランドのAIプラットフォーム「カリマコス(Callimacus)」を通じて2024年後半に公開された実験的サイト「BrunelloCucinelli.ai」を基盤としており、同社のソロメイAI(Solomei AI)部門によって開発された。
ナビゲーションやビジュアルを再設計するのではなく、このプロジェクトはより根本的な問いに焦点を当てた。「人々は実際どのようにオンラインで高級品を購入しているのか」という問いである。
ブルネロ・クチネリのヒューマニスティックテクノロジー責任者であるフランチェスコ・ボッティリエーロ氏は、顧客の思考と大半のWebサイト設計とのあいだにギャップがあると説明する。
「ファッションショッピングにおける目に見えない基準とは、常にその購買行動の背後にある意図や文脈であった」と同氏はGlossyに語った。
キーワードに圧縮される購買動機とオンラインに欠けていた文脈
サイト公開に関するプレス声明のなかで、ブルネロ・クチネリは次のように述べている。
「私は、美を追い求め続けるファッション界が、テクノロジーの知と優雅な対話に入ることができ、そこから現代性や新たなビジョンへの洞察と貢献を引き出せると信じている。AIが人間の直感、つまり既知を超えて想像、理解、創造する心の最高能力を育み、高め得るという考えに私は魅了されている。そのため、私はAIを単なる行為や関係、行動を自動化する存在ではなく、調和のなかで協働する『人類の侍女』として考えたい。デジタルの世界においても、我々が学び、選び、行動する自由そのものが豊かさの源なのである」。
実店舗では、購買決定にいたった経緯を店員と共有することがよくある。しかしオンラインでは、それはほとんど存在しない。買い物客は、憧れや自信、自分へのご褒美といった動機を、単一のキーワードへと圧縮してしまうことになる。
ボッティリエーロ氏は例を挙げた。新年に向けて新しいフィットネスの習慣を考えている人がある1つのアイテム、たとえば「レギンス」を検索するとする。
「その文脈のすべてが『レギンス』へと還元されてしまった。それでは、一年の健康的なスタートを求めて検索しているその人のニーズを、真に満たすことはできない」と同氏は述べた。
行動データをリアルタイムで解析し表示内容を変える適応型UI
新しいサイトは、まさにその欠落している層に応答するよう設計されている。
すべての訪問者を同じ固定的な導線に通すのではなく、このプラットフォームはユーザーの閲覧に応じてリアルタイムで適応する。そして、サイト内をどれほどの速さで移動しているか、どこで立ち止まっているか、単に閲覧しているのか購入へと絞り込んでいるのかを確認する。
これらのデータはAIによってリアルタイムで分析され、その情報は保存される。
「あなたの行動を観察する」とボッティリエーロ氏は言う。「あなたが急いでいるのか、落ち着いているのか、コンテンツを連続してクリックしているのか、それとも読んだり見たりしているものにより多くの時間を割いているのかを評価する」。
こうしたシグナルが、その次に表示される内容を形づくる。素早く動く買い物客には、より多くの商品オプションと、少なめのエディトリアルコンテンツが表示される。
ゆっくり閲覧している人には、ブランドの背景にあるストーリーやインスピレーションをより多く見せる構成となり、コピーや動画を含むビジュアルが増える。
顧客の購入意欲が高まっているとシステムで感知すると、あえて画面上の選択肢を減らす。「目の前の選択肢を絞り込むことで、あなたの注意を集中させる」と同氏は語った。
目的は情報増加ではなく「多すぎる選択肢の削減」と明確化
目的はコンテンツの増加ではなく、明確さであると強調し、「重要なのは多すぎる選択肢を減らすことにある」と同氏は述べる。
「人々にコンテンツや処理すべき情報を増やすことではない。」これは、マーケティングにおける豊かなストーリーテリングを自社サイト上で表現しようとするブランドにとって、しばしば共通の課題である。
外部AI台頭のなか自社サイトに体験を取り戻す
よりシンプルなラグジュアリーショッピング体験への動きは、ブランドサイト外部でもAI主導のショッピングツールが勢いを増すなかで進められている。
AI検索エンジンのChatGPTは2022年11月に公開され、業界筋によれば現在1日あたり推定20億から25億件のクエリを処理している。
製品リサーチやショッピング関連の質問にますます利用されており、同社は2026年、チャットベースの広告のテストも行っている。
2025年4月に公開されたファッション特化型ツール「フィア(Phia)」や、2025年6月にデビューした「デイドリーム(Daydream)」のような新しいサービスでは、自然言語や画像を用いて複数の小売業者を横断的に会話形式で検索することが可能である。
しかし、その活動の大半はブランドが所有するサイト外で行われており、ディスカバリーはチャットインターフェースやサードパーティープラットフォームへと引き寄せられている。
ラグジュアリーブランドのWebサイト自体は、比較的変化していない。
ブルネロ・クチネリの賭けは、このような適応型で意図を読み取る体験は、どこか別の場所ではなく、ブランド自身のデジタル資産上に存在すべきだというものである。
エンジニア、スタイリスト、編集者が横断協働した開発体制
その構築には社内の変革も必要であった。ブランドのエンジニア、スタイリスト、編集者が従来のヒエラルキーなしに協働した。
「これは問題解決のためであった」とボッティリエーロ氏は語る。そのプロセスは常に円滑だったわけではない。
「これらのグループはときに衝突する。しかし建設的に衝突するのであり、その葛藤を乗り越えることこそがゲームチェンジャーとなる解決策を生み出すのである」。
成果検証は途上、オンライン訪問が実店舗来店につながる事実
同社が確固たる成果データを共有するには、まだ早すぎるとボッティリエーロ氏はインタビューで強調した。サイト公開後、競合他社や業界関係者がサイトをスキャンしたことによりトラフィックやエンゲージメントが膨らみ、初期データは、ゆがめられているという。
現時点では、サイト滞在時間、閲覧商品数、コンバージョンなどの従来の指標を参照しつつ、週末の行動や全体的なエンゲージメントパターンといった、よりクリーンなシグナルに焦点を当てている。
すでに戦略を形づくっているデータポイントのひとつが、オンラインとオフラインの買い物の関連性である。
「我々のブティックを訪れる人の70%は、すでにWebサイトを訪れていることがわかっている」とボッティリエーロ氏は述べる。「かなりの頻度で、サイトのページを印刷して『これを見た』と言って来店するのである」。
[原文:Luxury Briefing: Brunello Cucinelli thinks keyword search is holding luxury back]
Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)
