星野純子さんが考える「冬季アスリートのセカンドキャリア」とは【写真:松尾/アフロ、山野邊佳穂】

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モーグル・星野純子さんインタビュー第3回「冬季アスリートのセカンドキャリア」

 連日、熱狂と感動を届けているミラノ・コルティナ五輪。フリースタイルスキー・女子モーグルで2度の五輪に出場した星野純子さんにインタビューし、冬季スポーツで活躍する選手の実像に迫る。32歳で出場した北京五輪から4年。2025年12月に結婚し、36歳の現在は長野で銀行員として働く。オリンピアンという肩書を持ちながら、就職活動時に感じた不安とは。見つけたスポーツと働くことの共通点、次世代のアスリートへメッセージも送ってくれた。(全3回の第3回、取材・文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)

「銀行で働くことは全然想像していなかった。何があるか分からないですね」

 午前8時半から午後5時までのフルタイム勤務で、休日はカレンダー通り。スーツ姿で待ち合わせのカフェに現れた星野さんは、1月のとある金曜の仕事終わりにインタビューを受けてくれた。

「営業採用で、今は練習期間なので外回りと事務の仕事を半分ずつ。オリンピックに出場したことは、お客さんには仲良くなってから言います(笑)。会社が『いいよ』って言ってくれているので、スキー活動は週末に。土日両方やると疲れてしまうので、少し控えめにしています」

 現役時代はリゾートホテルやビジネスホテルを運営するホテルリステル所属。日本滞在時はジムや温泉、プールといったホテル内の施設の掃除や受付などを担い、社員として働いてきた。だからこそ、転職をし、銀行員として働く未来は想像していなかった。

 22年3月に現役引退し、1年9か月後に退社。一時は個人事業主としてスキーを仕事にした。国内の枠を超え、海外でも活動。スキーに馴染みのないイランやアゼルバイジャンでは、モーグルの凸凹コースを作るところからスタートし、指導を行った。

「イランは怖いイメージがあるけど、実際は人がすごく優しかった。アゼルバイジャンは月給5万円くらいの国だから、スキーはセレブしかできないスポーツ。どちらもイスラム教の国なので、日本とは食や文化が全然違った。カオスな状況も多かったけど、良い経験になったかな」

転職サイトで“普通”に転職活動

 一方で抱いたのは「夏、どうしよう?」という不安だった。知り合いに誘われて、アスリート向けのセカンドキャリア研修に参加。この活動が大きな分岐点になる。

「会社員と個人事業主のそれぞれのメリット、デメリット、実際にアスリートから社会で活躍する人の話を聞くことができた。自分の根っこを見つけることから始まって、自分にはどの働き方が合っているのかを考えて。自分を見つめ直す時間にもなった」

 そうして見えてきたのが、会社員への道。25年12月にプロスキーヤーの齋藤圭哉さんと結婚し、パートナーとのバランスも考えての決断だった。

「私は性格的にも、夫が個人事業主であることを考えても、会社で守られていた方が安心するなと思った。お金に詳しくなりたくて『お金=銀行』は安直すぎたんですけど、銀行は資格も必要なので、そういう環境の方が頑張れるかなと思って」

「doda」や「リクルート」といった転職サイトを使って10社ほどに応募し、24年11月に入社。通常業務に加え、アスリート経験を生かして講演を行うなど、幅広く活躍している。

「役立たずかも…」感じた不安 次世代へ伝えたいメッセージ

 新潟県長岡市出身。2歳でスキーに出会い、上村愛子さんに憧れて小学6年生でモーグラーになった。24歳で14年ソチ五輪に初出場し、左膝前十字じん帯断裂の大怪我を乗り越えて、32歳で挑んだ22年北京五輪は13位。華やかな実績を持つ一方で、30歳を過ぎて会社員になるうえでは不安もあった。

「就活をしている時に『自分って何もない』『ロースペックすぎる』と感じて。履歴書にも何も書くことがなくて『自分って社会に出たら役立たずかも』と思ったりもした」

 アスリートにとってセカンドキャリアは重要な要素の一つ。現役中から引退後を考えて、活動する選手も少なくない。ただ、一流アスリートとして活躍し、銀行員に転身した星野さんは、実際に働く中でスポーツとの共通点も実感している。

「セカンドキャリアの研修を受けた時に、分からないことでも『何でも頑張るんで、教えてください』という姿勢で取り組めば良いと教えてもらった。それってすごくいいなって思って。中途採用に寛容な会社で、一緒に働く職員の方に恵まれているのもあるかもしれないけど、そういう姿勢でいればみんなが助けてくれる。今はまだ、いろはを学んでいる最中ですけど、スポーツと頑張り方が似ているのかなと思う」

 次世代のアスリートへ、アドバイスも送ってくれた。

「やりたいと思えば、何だってできる。社会人経験が少ないことに、負い目を感じることはないと思う。今は競技に集中して、もし余裕があるなら『自分は競技以外の何に興味があるのかな?』とちょっとだけアンテナを張っておくと、少し楽なのかなと思います」

 アスリートとしての経験をステップに。唯一無二の銀行員として、新たな道を歩む。

(THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe)