『【推しの子】』第3期が描く“恐ろしい領域” ルビーが足を踏み入れる“裏道”の危うさ
赤坂アカ×横槍メンゴ原作のTVアニメ『【推しの子】』第3期がスタートした。第2期で描かれた「2.5次元舞台編」、「プライベート編」を経て、物語はついに「中堅編」へと突入。アクアとルビーは、芸能界での新人としての洗礼を終え、“個の力”を問われるフェーズに差し掛かっている。復讐が終わったとして未来に歩み出そうとするアクア、真実に近づいたことで対照的に復讐の念に駆られるルビー……物語は、ここからクライマックスに向け一気に加速していくことになるだろう。
参考:『【推しの子】』第3期はルビーの“闇堕ち”に注目 原作勢がストーリー振り返り&展開予想
ここでは、TVアニメ『【推しの子】』第3期の最初のエピソード、第25話「【入れ込み】」と、これまでの内容を振り返りながら、本シリーズならではの挑戦がどのようなかたちへと変化し、どれほど恐ろしい領域に踏み込んでいるのかを考えてみたい。
第3期のオープニング(OP)は、年末の紅白歌合戦でのパフォーマンスが圧巻だったちゃんみなの、「TEST ME」だ。しかし、3期の最初のエピソード、第25話で先立ってクレジットとともに流れるのは、挿入歌である新曲「Bのリベンジ」。劇中のアイドルグループ「新生B小町」、星野ルビー(CV:伊駒ゆりえ)、有馬かな(CV:潘めぐみ)、MEMちょ(CV:大久保瑠美)が歌うこの曲が、今回は特殊OPとしてアニメーションとともに提供される。
楽曲を手掛けたのは、アニソン界のヒットメーカーである大石昌良(オーイシマサヨシ)。「Bのリベンジ」には、かつて大石自身が手がけた、第1期で星野アイが歌った「サインはB」のフレーズがメロディとともに一部引用されている。キラキラと輝くサウンドに乗せ、アイの娘であるルビーたちの歌声が、『【推しの子】』第1期の鮮烈な記憶を蘇らせる。
『【推しの子】』のTVアニメ版がスタートして、もうすぐ3年にもなる。アイの「アイドルとしての遺伝子」が新世代に継承された瞬間が、音楽で表現された演出に感極まったファンも少なくないのではないか。しかし、そこをただの“エモさ”で終わらせないのが『【推しの子】』である。今回の特殊OPでは、そんな不安感を醸成させるカットも見られる。
彼女たちは何を背負い、誰に「リベンジ(復讐)」を誓うのか。 明るい曲調とは裏腹に、新曲のタイトルが示唆するのは、第3期から本格化する過酷な展開でもある。「Bのリベンジ」は、芸能界の光と闇の存在の予感を醸成し、同時にそこに突き進もうとするルビーたちの宣戦布告の狼煙であるようにも感じられる。
この第25話では、アイドルとしてミステリアスな雰囲気を獲得したルビーの輝きを中心に、新生B小町が半年の間に、急激に人気を得ていったことが語られる。縁の下の力持ちとなって躍進をサポートしてきたのは、メンバーのMEMちょである。彼女がこれまで培ってきた配信スキルとプロモーション能力によって、ネットでの認知度が高まっている。
とくに、大手事務所のような潤沢な広告費を持たない彼女たちにとって、小さくない効力を発揮したのが、他のインフルエンサーとのコラボ動画だ。同じく知名度を高めたい配信者たちとの“持ちつ持たれつ”の関係を利用することで、さまざまなクラスタ(集団)に名前を売り込んでいくのである。この泥くさいセルフプロデュースは、動画配信の世界を生き抜いてきたMEMちょならではのスキルなのだ。
そんなMEMちょの活躍とは対照的に、パフォーマンスが落ちていたのが、有馬かなだ。黒川あかねとの恋愛を選ぶことをアクアに告げられた彼女は、あかねに義理立てして交流を露骨に拒もうとするアクアの態度に傷ついていた。そんな彼女の心情を思いやって、MEMちょはアクアと一対一で話し合うことにする。しかし、アクアの反応は意外なものだった。
一方、真実の一端に触れてしまったルビーは、もはや待つだけの無垢な少女ではなくなり、芸能界における“裏道”ともいえる手段に出ている。それは、兄・アクアがレギュラー出演する番組のディレクターに対して直に接触し、自らの企画を持ち込んで兄妹共演の枠を勝ち取るという、“政治的”ともいうべき動きだった。
本来であれば事務所を通すべきところだが、いまのルビーは個人と個人の関係のなかで大人を動かそうとする。その姿は、かつてアクアが裏で行ってきた根回しや策謀と重なって見える。交渉を受けたディレクターは、ルビーの提案を受け入れつつも、その変貌ぶりに圧倒されたようだ。「以前会ったときは、こういう手を使える子に見えなかったけど……」。そして、アクアの前で漏らす。「“苺プロ”に、いいブレーンでもついたのかな?」と。
今回のエピソードのラストで、その正体が判明することとなるのだが、それよりもこの一連の描写で注目したいのは、“大人の世界”……とりわけ芸能界という、人と人との有機的なコネクションで成立している環境においては、このような非公式的な動きやノウハウというのが重要になってくるということだ。しかし、このような“裏道”こそが、じつは危険な場所へと繋がっているということに、ルビーは気づいているのだろうか。
『【推しの子】』がこれほどまでに熱狂を生んできた最大の理由は、この物語が単なるサスペンスや“転生もの”という枠組みをはみ出し、エンターテインメント業界が抱える現代的な“病理”にメスを入れてきた部分にこそある。これまでも本シリーズは、リアリティショー出演者への誹謗中傷、原作者と脚本家の対立、地下アイドル活動の現実や2.5次元舞台やTVドラマの制作事情など、業界の構造的な問題を描いてきた。
華やかなステージを作り上げるために、大人の事情や慣習が、いかに若者たちを傷つけていくのか。そうした現実を、視聴者たちはアクアやルビーの視点を通して追体験してきたはずだ。しかし第3期から描かれるのは、そうしたシステム上の不条理だけではないのだろう。公的なバックアップや監視の外にある、人間と人間との接触には、より倫理的なタブーに触れる領域が広がっているのではないか。それは、我々が週刊誌の見出しやネットニュースで目にするスキャンダルの裏側であり、“推し”を持つ多くの人が目を背けてきた“現実”なのかもしれない。
砂糖でコーティングされたように、ポップで甘い印象のある本シリーズだが、その中身は人によって毒にも薬にもなり得る、“現実の苦味”だと感じられる。ちゃんみなによる正規OP曲「TEST ME」“私を試してみろ”という意味の挑発的なタイトルが示す通り、第3期は視聴者に対しても、このかつてないほどに苦味を増していく内容を飲み込むことができるかを試しているのかもしれない。
(文=小野寺系(k.onodera))
