天王星の新衛星「S/2025 U 1」を発見 JWSTによる初の惑星の衛星の発見に

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「天王星」は太陽から遠い場所を公転しており、詳細な観測は困難です。探査機による接近観測も一度しか行われていないため、まだ多くの謎が眠っていると考えられています。


サウスウエスト研究所(SwRI)のMaryame El Moutamid氏などの観測チームは、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」を使用した観測により、新たに観測された暗い環と共に、通算29個目となる新しい衛星を発見したと報告しました。


暫定的に「S/2025 U 1」と名付けられた新衛星の推定直径は8〜10kmと、天王星の内側の衛星としては最も小さいと見られます。S/2025 U 1の発見は、天王星の内側がこれまで認識されていた以上に混沌としており、さらに多くの未発見の衛星が眠っていること、環と衛星の境界があいまいになりつつあることを示唆しています。


今回の発見はまだ査読プロセスを経ていませんが、天文電報中央局(CBAT)の電子電報に発見報告が掲載されており、2025年9月に開催される国際学会で詳細な成果が発表される予定です。


「天王星」は分からないことだらけ

【▲ 図1: ハッブル宇宙望遠鏡で2003年、2005年、2007年に撮影された天王星。(Credit: NASA, ESA & M. Showalter(SETI Institute))】

太陽系第7惑星「天王星」は、太陽から約29億km離れたところを公転している、地球から見ても遠く離れた惑星です。あまりにも遠くにあるため、惑星であると認識されたのは1781年と “最近” であり、現在でも詳細な観測は困難です。


例えば、探査機による天王星の接近探査はたった一度、1986年にアメリカ航空宇宙局(NASA)の「ボイジャー2号」のみが達成しています。それも重力圏に捉えられることなく、すれ違いざまに写真撮影を行った形であるため、観測データには限りがあります。


ボイジャー2号による観測以降、ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡のような高性能な望遠鏡が、天王星の詳細な観測を行っています。この観測により、ボイジャー2号が見逃していた暗い衛星が次々に発見されました。


しかし、暗い衛星を撮影しようとすれば、多くの露光時間を取らないといけません。この時、天王星や大きな衛星が視野に入っていれば、それらの天体からの光が強すぎるため、暗い衛星からの光がかき消えてしまいます。


このような困難はあるものの、工夫を凝らせば新しい衛星を発見することは不可能ではありません。例えば2024年2月には、天王星の新しい衛星「S/2023 U 1」の発見が報告されています。天王星で新衛星が発見されたのは、当時で実に20年ぶりの報告となっていました。


新衛星「S/2025 U 1」を発見!

【▲ 図2: 今回の観測で取得された画像の一例(疑似カラー)。既に知られている13個の衛星の他に、これまで未発見であったS/2025 U 1が写っています。(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, M. El Moutamid(SwRI) & M. Hedman(University of Idaho) / 筆者(彩恵りり)による加筆)】

SwRIのMaryame El Moutamid氏などの観測チームは、2025年2月2日に「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」を使った天王星の観測を行いました。この観測は、既存の望遠鏡では詳細を捉えることが困難な、天王星近くの環と衛星のシステムを詳細に観測することを目的として実行されました。観測は近赤外線カメラ「NIRCam」を使って行われ、1枚あたり約40分の露光時間、計10回(約6時間)の撮影が行われました。


その結果、既に発見されている13個の衛星の他に、未知の衛星が1個写っているのが確認されました(※1)。暫定名として仮符号「S/2025 U 1」が割り当てられたこの新衛星は、2025年8月19日付けでCBATの電子電報に発見報告が掲載されました。また、この発見についての詳細な報告が、9月上旬に開かれる惑星科学の国際会議「EPSC-DPS」にて発表される予定です。この発見が確認されれば、JWSTを通じて初めて発見された惑星の衛星となります。


※1…観測範囲内にはコーディリアもあるはずですが、環が明るすぎるため、この写真からは存在を判別することができません。


一方で、この記事の執筆時点では、小惑星センターの電子回報や査読済みの論文に、S/2025 U 1の発見が掲載されていないことに注意が必要です。NASAの公式ブログでも、査読プロセスを経ていない点について注意を述べています。


【▲ 図3: 今回の観測で取得された10枚の画像によるGIFアニメ。丸で囲まれているのがS/2025 U 1。(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, M. El Moutamid(SwRI) & M. Hedman(University of Idaho))】

もしもS/2025 U 1が実在する場合、観測によって得られた性質は次の通りです。S/2025 U 1は天王星の中心から5万6250±250kmの距離を公転しています。これは「オフィーリア(オフェーリア)」と「ビアンカ」の間に当たり、知られている中で天王星から3番目に近い衛星となります。公転軌道はほぼ真円であると推定され、公転周期は9.6時間となります。


S/2025 U 1の反射率(アルベド)が周辺の衛星と同じであると仮定すると、S/2025 U 1の直径は8〜10kmとなります。これは天王星の衛星の中で最小であり、ボイジャー2号やハッブル宇宙望遠鏡など、過去の観測では見つけられないほど小さなサイズとなります。


まだまだ未発見の衛星が眠っている可能性?

今回のJWSTでの観測では、S/2025 U 1の他に、今まで知られていなかった暗い環も発見されました。そしてS/2025 U 1の発見により、天王星の五大衛星(※2)より内側には、全部で14個もの衛星があることになります。主要な衛星より内側に、これほどの数の衛星がひしめいている惑星は他にありません。これほど衛星や環の密度が高ければ、より観測を行うことで、さらに新たな衛星や環が発見される可能性があります。


※2…ミランダ、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンの5個の衛星。


S/2025 U 1は、現在と同じ公転軌道上で誕生した可能性があります。天王星の高密度な衛星と環は、「重力で一塊にまとまれば衛星になる」「他の衛星の影響でまとまることができなければ環となる」という微妙なバランスで、衛星になるか環になるかの線引きがされているものと推定されます。この発見は、衛星と環の境界の曖昧さを指摘し、具体的な定義の議論を始めるきっかけとなるかもしれません。


最後に、先ほども述べた通り、新衛星のS/2025 U 1という名称はあくまで仮符号です。この後発見が確認されれば、「天王星第何衛星」という確定番号が付与され、固有名が提案・命名されます。これまでに命名された天王星の衛星27個は全て、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲や、アレキサンダー・ポープの詩『髪盗人』に登場する人物の名前から名付けられています。S/2025 U 1の固有名も、これらの由来を持つ名称となる可能性が高いでしょう。


ひとことコメント

JWSTの性能は、遠い宇宙だけでなく、太陽系の中という “近所” でも発揮されるのを示した成果だね(筆者)


 


文/彩恵りり 編集/sorae編集部


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