高放射線検出のクルマ、8年間ゼロ 輸出中古車の「放射線量検査」なぜ今も続く? 費用は東電負担
輸出中古車「放射線量検査」 なぜ始まった?
2011年3月11日の東日本大震災による津波などで発生した東京電力福島第一原子力発電所における事故。環境中に放出された放射性物質は海外に輸出される食品や自動車などの輸送機器にいたるまで、さまざまな影響を及ぼしてきた。
【画像】いつまで続く?【東電負担の放射線量検査/輸出を待つ中古車】 全10枚
原発事故から12年が経過した現在、輸出中古車の放射線量はどのような状況になっているのだろうか?

2011年6月29日に川崎港東扇島外貿ふ頭荷さばき地において、輸出予定の中古車から高い数値の放射線量が検出されたことをきっかけとして放射線量検査がおこなわれることとなった。写真は大黒ふ頭で輸出を待つ中古車。 水澤大成
輸出中古車の放射線量測定を2011年9月から2023年3月現在も全量検査をおこない、その結果を毎週公表している川崎市の例を紹介してみたい。
なお、昨今は毎週3000〜4000台以上が検査を受けているが2014年7月を最後に通報基準値対象となるケースはずっとゼロが続いている。
川崎市では市の公式サイトにて、東日本大震災関連情報の1つとして「川崎港における中古自動車等の測定結果」を公開している。
契機となったのは、2011年6月29日に川崎港東扇島外貿ふ頭荷さばき地において、輸出予定の中古自動車から、62.60マイクロシーベルト/時の放射線量率が測定されたことである。
当時の様子に詳しい中古車輸出業者は振り返る。
「当時発覚して大きな騒ぎになりました。これがきっかけで港運協会から輸出業者に要請をおこない、強制的に放射能検査を始めることになりました」
「原発事故から数か月の時ですから高い数値が出たのでしょう。福島で汚染された1台が偶然港で発見されたということです」
62.60マイクロシーベルト/時とはかなり高い放射線量率であるが、この件を機会に川崎港における中古自動車などの取扱の安全対策強化が図られることになった。
輸出先国の対応というよりは、港湾関係者や川崎港の安全を確保する意味合いが強い。
そして2011年8月26日に川崎市と川崎港運協会との間で「中古自動車等の放射線量率の測定に関する覚書」を締結。
港湾施設に搬入される中古自動車などについては、荷主の責任によって自主的な全量検査がおこなわれることになり、川崎市は川崎港運協会から毎週受けた報告内容を公式サイトで公開することになった。
検査ではじかれた中古車 そのまま国内流通も
川崎市の公式サイトにて公開されているデータを見ると、最後に通報基準値(5マイクロシーベルト/時)を超えた測定結果が出たのは2014年7月のことで、それからずっと9年近く川崎港から輸出する中古車においては測定結果に問題はない。
なお、検査ではじかれたクルマはその後どうなるのか?

毎週3000〜4000台以上が検査を受けているが2014年7月を最後に通報基準値対象となるケースはずっとゼロが続いている。
これは原則として運送事業者が引き取って「荷主」に返される。過去の例をみてみよう。
2014年7月10日午前10時半頃に川崎区東扇島中古自動車取扱事業者敷地内の中古車(フロントグリル付近)から最大値9.00マイクロシーベルト/時が検出されているが、資料によると「午前11時頃に運送事業者により引き取られた」と記載されている。
検出からわずか30分で引き取られるという素早い対応がなされている。そして、引き取られた後、基準値以上が検出された中古車はどういう扱いを受けるのか?
国内大手中古車輸出業者の担当者は以下のように話してくれた。
「規定値以上の放射線が確認された場合、荷主(輸出業者)が引き取ることになります。そのままでは輸出ができませんが、引き取った輸出業者によって除染して放射線量が基準値以下になるまで続ければ再度輸出の手続きも可能でしょう」
「また除染はせず、そのまま国内のオークションに出すケースもありますね。オークション出品の際には放射線量の測定義務もなければ、出品禁止となる基準値なども設定されていませんから」
ということで、基準値以上が計測され輸出が不可能となった中古車は運送事業者や輸出業者に引き取られ、除染して再度計測→輸出(海外で高値が付くような希少な日本車などはこのパターンが多いと考えられる)か、国内中古車市場で一般の中古車と同様に流通するようである。
放射線量検査 費用はいまも東電負担
これら輸出中古車の放射線量測定の検査費用はどこが負担しているのかご存じだろうか。
実は筆者は初めて知ったが、現在も原発事故の当事者である東京電力が負担しているとのことである(条件あり。詳細は後述)。

ANCC名古屋事業所が2023年2月25日に検査がおこなわれたことを示すステッカー
また、東電の賠償とは別に経産省の補助金制度もかつて存在していた(2013年3月31日で終了)。
福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における事故に伴う風評被害対策の一環として2011年6月20日から経済産業省が実施していた「貿易円滑化事業費補助金制度」で、企業の規模によっての補助金の金額はことなっていたが、検査費用も適用の対象であった。
ちなみに東電が検査費用を負担することに尽力したのは日本中古車輸出業協同組合(JUMVEA佐藤博理事長)という通産省(当時)の認可団体である。
JUMVEAは、中古車輸出業界の健全な発展を目的とした団体で理事をはじめとした組合員が通常の仕事をしながら無給で活動をしている組織で、2023年3月現在の会員数は211社。
港湾地区によって発生した放射線量検査について東京電力へ賠償について働きかけを実施し検査費用の負担を実現させている。
「JUMVEAの働きかけによって輸出中古車の検査費用は現在も東電が還付(1台1500円)しています」
「無償となるのはJUMVEAの会員だけではなく、すべての輸出業者です。ただし、スタート当初からの取り決めで、原発事故以降に開業した輸出業者に対しては還付の対象となっていません。不公平が続いています」(JUMVEA佐藤博理事長)
測定結果 ほとんどの国で提出不要だった
中古車1台ずつ測定をおこなって放射線量が基準値以下であれば測定をした検査機関から車両1台1台に検査済みのステッカーや検査済証が付与される。
筆者はアメリカでJDM(25年ルールの適用でアメリカに輸入が許可された日本車。スカイラインR32、R33などが代表)の取材をした際、検査済証が貼られたクルマを見た。

ANCC全日検苫小牧事務所で発行された検査済証
SEMAショーに出展されていたカスタムカーにもこれらのステッカーが貼られていた。
その時点で震災から数年が経過したが最初見たときは少し重い気持ちになったものである。
検査機関はANCC(一社全日検)やJCTC(一社日本貨物検数協会)などがおなじみで、苫小牧や川崎、名古屋、君津などは測定をおこなった検査場となる。
なお、現在は輸出中古車の放射線量測定は義務ではなくなっている。
一社日本港運協会は2019年7月に船積み時の中古車放射線量検査について義務化撤廃を表明しており、以降は各会員店の判断とする文書を通達した。
義務化していた時には基準値を上回る車両については車台番号などを公表していたが、現在はそれも終了している。
また業界の事情通は少々キナ臭いことも教えてくれた。
「輸出先の国々も日本からの中古輸入車に対して放射線量の基準を定めているケースはほとんどなくなっていますよ」
「検査済証のステッカーを求められることも今はないですね。なぜ、検査を続けるのか不思議です。関係する組織が1台1500円×〇〇万台? で甘い汁を吸っているという話もありますよ」
「実際にしっかりとした検査をしているかどうかは別として、放射線量検査にほとんど経験がない素人のような検査員が検査をおこない、検査済のステッカーをポンっと貼っている、といううわさもあります」
検査いつまで? 「汚染車両」東電が買取したことも
このような状況の中、いつまで輸出中古車に対する放射線測定を続けるのか? ほかにも毎週測定結果を出している港はあるのか? 前述した川崎市港湾局に聞いてみた。
「検査結果の公表を終わらせるかどうか? 考えたこともありませんでした」

福島第二原発の様子(2022年8月撮影)
「測定をおこなっているのは川崎市港運協会で港運協会の自主的な全量検査が続く限りは結果を公表するつもりです」
「川崎以外に他にあるのか? ということですが(全部の港を調べたわけではありませんが)おそらく、毎週1度も欠かすことなく川崎港から出るすべての輸出中古車の放射線測定をおこなって結果を公表しているのはほかにないのではないでしょうか?」
放射線量がめちゃくちゃ多くて除染したくらいでは追いつかない=売り物にできない中古車はどうなるのか。こんな話もある。
「5〜6年前に経産省の主導によって、福島で放射能に汚染された車両を集めて東電に買い取らせたことがありました」(大手輸出業者)とのこと。
原発事故から12年経った現在も、立ち入り禁止となっているエリアには数多くの貴重な国産旧車が放置されたままになっている。その様子はYou Tubeなどで見ることができるが、これらのクルマ達が再び海外に出され脚光を浴びる日はやってくるのだろうか?
